4話 労働力と朝ゴハン。
【プロフィール No.3】
明石 哲平
マスコット的存在な、光明のクラスメート。
ほのぼののんびりマイペース。
光明に誘われて【阪本ドラゴンの森】を始めた。
「は?」
俺は間抜けな声を出してしまった。
でもコレは仕方ない。だって目の前で女の人がバケツを川に投げ捨てたのだから。
サバイバル知識なんて全くない俺だけど、一週間ここで生きてきたからわかる。バケツだってここでは貴重品のはず。
「あれ、なにしてんの...?」
勇に訊いたけど首を振って返された。
哲平も首をかしげている。
「あれ!? そこに誰か居るのかな!? おはようございま~す!!」
その女性は、こちらを認識して声をかけてきた。
俺たちはびっくりして顔を見合わせた。
「そこで何してるんですか~?」
めっちゃ声をかけてくる。
俺たちはとりあえずその女性の元へと近づいた。
「えっと...おはようございます...」
なぜかここでも交渉係は俺だった。
「俺たちは水を探しに来て...貴女は何をしてるんですか...?」
「えっ!? えっ、えっと...」
「さっきバケツを川に投げたように見えたんですけど...」
「え? あぁそれは水を汲むために...」
なぜかその女性は、俺たちが近づいた途端挙動不審になった...
「み、水? バケツ投げ捨てて水って汲めるっけ...?」
「へっ、な、投げ捨てる? べ、別に捨ててはないんだけど...あながち間違いではない...いやいや捨ててはない...」
「???」
「あっ、いやごめん! バケツには紐を括ってあってね!」
「紐...?」
足元を見ると、確かに橋の柵の下の方に布の端を裂いたようなものが括り付けられてある。
その紐のようなものは川の滝のようになっている部分へ続いており、目を凝らすとバケツの様なものがチラチラと顔を覗かせている。
「あぁなるほど! これでバケツを引っ張り上げるのか!!」
俺って物分かり良すぎない?
「え、でも一人で?」
さっきまで固まっていた勇が声を出した。
ホントだ。良く考えたら重そう...
「うん? そうだけど。」
「重くないの!?」
「そりゃ重いけど...人手が足りないし...ねぇ?」
「重労働だよね?」
「えっ、何? もしかして手伝ってくれるのかな?」
「えっ」
「それはそれはありがたい! ぜひ頼もう!」
「えっ」
「私の家すぐそこなんだ~♪」
どんどんこの人のペースに乗せられていく俺。
うん、交渉スキルとか持ってなかった!
「ちょっと良いかな?」
そう声を発したのはずっと黙っていた哲平だった。
哲平! この窮地を救ってくれ!
俺は肉体派じゃないんだ! 水いっぱいのバケツとか運んだら死ぬ!
「何?」
「バケツって何個あるの?」
「2つだよ。今は滝に沈んでるけど。」
「家までの距離は?」
「ちょっと坂のぼったトコ。」
「うーん...」
哲平、断ってくれ!
「わかった。代わりに何か報酬が欲しいんだけど。」
おぉい、哲平ぇぇぇ!!
何承諾してんの!?
「報酬...? 朝ごはんとかで良いなら...お金とかはどうせいらないでしょ?」
え、朝ごはん!?
「うーん...」
哲平、そこは悩むところじゃない!
バケツくらい肉体派の勇に任せればいい!
「え、なに? もうちょっと報酬弾んだ方が良い?」
「うーん...」
「でも私、一人でもコレ運べるんだけど」
「あのさ、今後も労働力として使って良いから、衣食住の保証が欲しい。」
「んな欲張りな」
「やっぱりそう思う?」
「ウチだって衣食住整ってるワケじゃないし」
「そこをなんとかっ!」
「あーでもこれまで私一人でやってたのを労働力として加算すると...うーん...」
「お願いします!」
「まぁ3人くらいなら大丈夫...かな?」
すごい。哲平にこんな交渉スキルがあったなんて...!
でも労働力って俺も数えられてる気が...
「わかった。じゃあとりあえずこのバケツを運ぶのをお願いしようかな。」
「ありがとう!」
そう言って女性は滝からバケツを引き上げた。軽々と...
労働力、要る?
「ほい。じゃあお願い。」
「あっ、僕は頭脳派だから、バケツ運びはそこの肉体派二人にお願いするね。」
哲平に指名された。
実際に頭脳派として活躍した哲平には反論できない...ッ!
なので渋々バケツを受け取る...って重ッ!!
チラッと勇の方を見ると、顔はしかめてるけど軽々とバケツを持ち上げている...
「じゃあ行くね~♪ こっちだよ~♪」
そう言ってその女性は坂をのぼり始める。
この坂、ホントきっつい...
今後もこんな風に、労働力として働き蟻の様に働くんだろうか...
「そういえばまだ自己紹介してなかったよね。僕は明石哲平。」
「えっと夜宮光明...」
「...中西勇」
「...うん、私は雛。これからよろしく。」
俺の将来の夢はニートになることだったのに...