3話 底をついたショクリョウ。
【プロフィール No.2】
中西 勇
光明のクラスメートで友人。
運動部所属。
家がちょい金持ち。
光明に薦められて【阪本ドラゴンの森】を始めた。
「そろそろ現実的に考えねぇか?」
勇がそう言い出したのは、俺たちが勇の家に居候しはじめてから7日目のことだった。
「食料がもうねぇよ...」
俺たちは非常食を食べ尽くしていた。
「ちょっと無計画に食べ過ぎちゃったね...」
哲平もそう言う。
「ごめん...ゲームできなくて暇すぎてひたすら食べたから...」
「いや別に光明だけの所為じゃねぇよ。全員同じようにひたすら食ったから...。ワンチャン食べた一週間分で一週間断食...」
「流石に無理!! 1日が限界!!」
「やっぱそうか...」
俺たちは頭を抱えていた。
しかし窮地を救ったのは哲平の一言だった!
「これだけ不在の大人達が悪いんだし、店員いないけど勝手に買い物しちゃっても良いんじゃない? レジにお金置いておけば泥棒にはならないと思うよ」
「「それだぁ!!」」
ということで俺たちは勇の家から一番近いスーパーへと向かった。
しかし足を踏み入れたソコは、異臭を放っていた。
「...色々腐ってるくない?」
「一週間もあれば生鮮食品とか腐るよな...」
「冷凍食品もヤバそうだね...」
俺たちは引き返そうかと顔を見合わせた。
すると奥からカートを押す音が聞こえた。
ガラガラガラガラ...
「人...?」
「俺たちみたいに何か買いに来たのか...?」
「...行ってみよう」
全ては哲平の責任ということで、俺たちはカートの音がする方へ向かった。
カートを押していたのは中学生くらいの女の子と、小学低学年くらいの男女の3人。
が、カートのカゴにビールや日本酒、ワインとかを放り込んでいる最中だった。
明らかヤバそう...逃げよう。
俺たちはソロリと後ずさろうとしたが、主犯らしき中学生くらいの女の子に見つかってしまった。
「あれ、見かけない人だね。こんにちはー」
...挨拶された。
「こっ、こんにちは...。それ、飲むの?」
勇気を出して訊いてみた。
「何を?」
...ん?
「えっ、そのお酒...」
「飲むわけないじゃん。」
「えっじゃあ何で?」
「なんでって消毒とかに使えるじゃん。」
「あ、あぁ...」
納得...、なっ、と...く...
「よく思いついたね...」
「姉が言い出したの...。私もおんなじ反応したよ...」
「凄いお姉さんだね...」
「凄いのかな...。一周回って馬鹿なんじゃないかと思うのよね...。馬鹿と天才は紙一重というか...」
...どんな人なんだろ。
「おい光明、いつまでもしゃべってんなよ。見てきたけど使えそうなもんはほとんど残ってなかったぜ。」
「食べ物も腐ってるもの以外全くなかったよ。」
俺が話してる間に、二人は探してくれていたようだ。
「えっマジ?」
「マジ」
「どうしよ...」
困ったことになった。
「あー、食品とか避難用品とかは2日目くらいから争奪戦が始まってたみたいだね。お陰で菓子類全滅だったから姉と泣いた。」
菓子類全滅で泣けるなんて仲の良い姉妹だな...じゃない!
「ここにあるもので使えそうなものって何か教えてください!」
「まさか。ライバル増やすようなことするわけないじゃん。」
「そこを何とか!!」
「えー」
『お前の交渉に全てがかかっている!!』みたいな視線が俺に集まる。
「えー。じゃあそうだねー。うーん...お金に手をつけたって良いことないよと姉の受け売り。あー、在庫はまだ残ってるかもしれないよ。」
在庫...なるほど。店の奥にあるのかな。
「でも食料も大事だけどさ、別にそれは店にこだわらなくても良いし、それよりもここ以外じゃ手に入れにくい物を確保した方が良いんじゃない?」
「ここ以外じゃ手に入れにくい物?」
「ほら、明かりとか連絡手段とか紙とか...、後は自分たちで考えてよ。」
「でも、ネットに繋がらないから連絡できないよね?」
「はー、これだからネット世代は...」
なんか呆れられた。
なに? ネット世代って...
「ある程度近かったら大きな音とか花火とかで合図送れるでしょう? なんでもネットに頼ってると馬鹿になるよ?」
馬鹿に...なる...か。
「そうだね、ありがとう!」
「ここに居るのならまた会うかもね。私は猫美。」
「俺は夜宮光明。もしまた会ったらよろしく!」
俺は彼女に礼を言って、勇達と在庫を探しに行った。
しかし在庫のほとんどは日用品。
食料や飲み物は残ってなかった。
「これで最後の食料だ。」
「ってゆーか食べ物のこと食料って言う時点で俺たちだいぶこの現実に順応してない?」
「ホントだねー」
俺たちは最後の食料、クラッカーをそれぞれ五枚づつ食べた。
「う、これ喉渇く...」
「我慢しろ光明、飲める液体はもうねぇ」
「液体...、その言い方も、だいぶ順応してるよね...」
「哲平...、多分それは順応とか関係ない...。勇の言い方が乱暴なだけ...」
「そうなんだ...」
「なんか俺のことディスってね?」
「明日の朝、水を探しに行こ...」
「あ、近くに川とか池があるぜ」
「きれいな水...?」
「...」
「勇君まさか...」
「あ、明日行って確かめようぜ!!」
「...期待は、しない方が良いかもね...」
俺たちは絶望しながら眠りについた。
翌朝。
ご丁寧に、電池で動く時計は5時を示していた。
「よし、出発だ!」
俺たちは勇の案内で坂を上り始めた。
勇の家は山の麓にあるため坂が多い。
「あそこに川の上を渡る橋があるんだ。あいにく高すぎて川には降りれねぇんだけど、その橋を渡ったら池があるんだ。」
勇の説明を聞きながら坂を上っていくと、どこからか歌声が聞こえてきた。
─ずっとこのままだと思ってた─
綺麗な女性の声だ。
静まり返った周囲に響いている。
─変わってしまうのはもっと先だと思ってた─
更に上っていくと、橋の上に人影が見えた。
─あぁ どこへ行ってしまったの
私をおいて行ってしまったの
あなたを信じて私は待つよ
いつまでもいつまでも 待っているよ─
サビを歌い終えた直後、その女性は...
川にバケツを放り投げていた。
「は?」