1話 あっさりと変わってしまったセカイ。
今思うと、俺にとっての始まりは友人の声だった。
「あれー? 母さん?」
ちょうど部活がOFFだった俺、夜宮光明は、同じくOFFだった友人の家に遊びに来ていた。
「買い物行くなら言ってほしーよな。」
一階から戻ってきた友人、中西勇はそう言った。
「あっ、持ってきたお菓子開ける?」
一緒に遊びに来ていたもう一人の友人、明石哲平はマイペースにスナック菓子の袋を開けた。
「テレビなんかやってねーかなー」
そう言って勇はテレビのリモコンを探す。
高1の部屋にテレビが一台あるって正直羨ましい。
ウチはリビングに一台だけだから、いっつも兄貴と戦争だ。
「あれ?」
でもその日のテレビはいつもと違っていた。
「つかねー」
そのテレビはなんど電源を押してもつかなかった。
「んだよこれ...」
勇は何か不安を感じたようだったが、結局どこまでもマイペースな哲平に引っ張られて、「まぁいっか」とスナック菓子を食べ始めた。
その時は俺も、マスコットキャラのような何か引き付けるようなオーラの哲平によって、こんな小難しいことは一切考えずにただただスナック菓子を食べていた。
だけどスマホでゲーム画面がつかなくなったときはキレかけた。
そのあとも他愛もない話をして、夕方になり、俺と哲平は帰路につく。
自転車を漕ぎながら、ふと人がいないなーとか思う。
でも地元の中学生らしき集団が、部活から帰ってくる様子を見て、気のせいか、と思い直す。
家に帰ると兄貴が玄関に立っていて、可笑しなことを言った。
「母さんが消えた。俺、彼女んとこ行ってくるわ。」
何を言ってるのかわからなかった。
「こんな夕方に?」
俺の質問に、兄貴は答えなかった。
「もしかしたらもう帰ってこないかもしれない。」
家出か?
そんな風に思って送り出したが、もしかしたらそれは母親のことだったのかもしれない。
だがその時はそんなこと微塵も思わなかった。
だけどテレビもつかないし冷蔵庫も冷えてないし電気もつかないうえ夜9時になっても母親が帰ってこなくてようやく俺は立ち上がった。
なぜかスマホは、電池はまだ残っているのにネットに繋がらないらしい。
誰とも連絡が取れないから何もわからない。
俺は勇の家に向かおうとして、街灯がついていないことに気がついた。
「は...?」
その日はもう怖くなって、これは夢かもしれないと思い込もうとして、寝た。
きっと明日も母さんが起こしてくれる。
だけどその日はやけに時計の針の音が耳についた。