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1:悔恨と拉致

「おいおい、いつまで落ち込んでるんだよ。別に千世が死んだのはお前のせいじゃないんだぜ。そりゃクラスメイトが死んで悲しい気持ちになるのは分かるけど、いつまでも暗くなってるわけにもいかないだろ。そろそろ元気出せって」

「そう……だね。それは分かってるんだけどさ……」

 学校からの下校中。僕の幼馴染であり親友の谷崎友哉が慰めの声をかけてくる。その言葉に素直に頷きたい気持ちもあったけれど、どうしてもそんな気分にはなれず言葉を濁してしまう。

 僕らのクラスメイトであり、学園のマドンナ的存在だった彼女――芳川千世が一週間ほど前に亡くなった。死因は転落死。遠方より来た警察の雑な捜査により、彼女の死は三階建ての校舎屋上から、足を滑らせた結果死に至った事故だろうと結論が下された。

 でも、こんな結論に納得がいくわけもない。彼女の死亡推定時刻は夜の十一時ごろであり、一般的なこの村の住人ならすでに寝ているはずの時間。まして彼女がその時間に校舎の屋上にいるなんて奇怪極まりない話だ。

 にもかかわらず事故死だと断定されたのは、彼女に争った形跡は一切なく、転落によってついた怪我以外の傷は何も発見されなかったこと。彼女の手には屋上の鍵が握られており、そこからは彼女の指紋しか検出されなかったためである。

 一時は自殺なのではという説も出たが、遺書は見つからず、そもそも彼女に自殺するほどの悩みがあるようには見受けられなかったことからすぐに否定された。また、殺人事件として捜査しようにも、その時刻は村中のほぼ全員が眠りについており、アリバイの確認がそもそも無意味。彼女のことを殺したいほど憎んでいる人物も特に見当たらなかったため、事故として処理されることとなってしまった。

 ……ただ、僕はそれが間違いであることを知っている。あの日彼女は、誰かに会うために学校の屋上に行ったのだ。僕はそのことを彼女から聞かされていたし、そして何よりあることをしてほしいと彼女に頼まれ、その時間学校にいたのである。

 だから彼女が事故死したなんてことは全く信じられないし、それ以上に彼女の死に僕が関わっている可能性すらあったから――

 大きく首を振って無理やり思考を打ち切る。

 どんなに後悔しても、千世が死んでしまったことは事実であり、それはもう覆せないこと。友哉の言う通りいつまでも気にせずに、いい加減立ち直らないといけないはずだ。

 僕は友哉に精一杯の笑みを見せると、「心配させてゴメン」と謝った。

「あんまり友哉に心配かけさせるのも悪いし、できるだけ早く立ち直るよう努力するよ。ただ、もうちょっとだけ時間が欲しいかな。一週間経った今でも、まだ心が落ち着かなくてさ」

 僕に負担をかけてしまったと思ったのか、友哉は慌てて首を横に振った。

「別に急かしてるわけじゃないからな。お前と千世が仲良かったのは知ってるし、あいつの死を信じられないのも無理ないってのは理解できる。ただあんまり考えすぎて体壊してほしくないと思ってるだけだからよ」

「……うん、ありがとね」

 友哉の言葉にチクリと胸が痛む。僕と千世の仲がいい。それは決して、まったく違うわけではないけれど――。

 ふと腹がきりきり痛み、僕はちょうど目の前に見えた公園を指さした。

「ゴメン。ちょっとお腹痛くなったから、そこのトイレに寄って行ってもいいかな?」

「おう。勿論構わないぞ。俺に遠慮することなくたっぷり出して来い」

 友哉の言い草に苦笑しつつ、僕はありがたくトイレに向かう。中には誰もいなかったので、一番奥の個室に籠る。悪いとは思いつつも、数分じっくりかけて用を足し、僕は個室のドアを開けた。

 すると、目の前には黒い覆面をかぶった中肉中背の男(?)が一人立っていた。一瞬彼もトイレに入ろうとしていたのかなど危機感の抜けた考えが浮かぶも、すぐに考えを改める。今も他の個室には誰もいないし、何よりも見た目が怪しすぎる。

 これは逃げた方がいい。

 僕は走ってトイレの外へ出ようとするが、トイレから出る前に覆面の男に腕を掴まれた。必死に逃れようと腕を激しく振るも、首筋に何か冷たいものが当てられ、次の瞬間――


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