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俺も異世界に行きたい。  作者: ペン
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SAPPUKEI

まだまだ続くぞ馬鹿野郎この野郎

誰も見てねえじゃねえか

電車のラッパはびっくりするぜ

彼女は僕に優しかった。

彼女には気品があり、財力があり、知力があった。

僕の家庭環境と彼女の家庭環境とでは天と地の差があったが、僕達には通じあえる部分があった。

彼女は美人であったが、それだけでない、他のどの女とも違う、強烈な魅力があった。

僕は彼女の見せる幻想に溺れ、何もかも失ってしまった。

その傷は一見、完治したように見える。

自分ですらそう信じこんでいる。

それなのにたしかに痛むのだ。

ふとした瞬間に、気を抜いた瞬間に思い出す、彼女の笑顔は僕を人間以下の存在に堕落させる。

想像と妄想と夢の世界でのみ彼女は僕の世界で生きているのだ。


何度か悪い夢を繰り返した後、俺は爆音によって目覚めた。

何が起こったかわからない。

最初にそれがギターの音だとわかり、

次にそのギターが何を演奏しているかに気づき、

最後にその爆音が101号室から流れていることを理解する。

スマホを見ると時刻は夜の3時。

引っ越しそうそう深夜にギターをアンプで弾くなんてどうなってるんだ。

ヤバイやつに決まってる。

俺は行きたくない思いと怒りとを一瞬で戦わせて、圧勝で怒りが勝ったのを見届けると、

寝ぼけているんだと自分に言い聞かせ、床に散らばった教科書を踏まないように気をつけながら、玄関へ向かう。

勢いそのままに部屋を飛び出すと、猛然と101号室のチャイムを鳴らした。

「すいませえん、隣の部屋のものですけど、夜中の演奏やめてもらえませんか。」

口調は強気だが、どんな奴が出てくるのか内心ビクビクしながらドアの前で立っている。

ギターの音は歪みを残して消え去り、何の反応もないまま数十秒が過ぎた。

どうも反応がない。

もう一度チャイムを鳴らそうか迷ったが、何だかんだでチキン野郎。

自室に引き上げることにした。

ガチムチのオッさんとかヤンキーのにいちゃんが出てきたら嫌だと思っていたから、誰も出てこなかったことはこれはこれでよかった。

さすがに自分の非常識さに気付いてくれただろう。

ホッと安心しながら、ベットに寝っ転がる。

まだ十分眠たい。

すぐ寝られるだろう。


どれくらい経っただろう。

ぼんやりとした思考の中で漂っている。

すると、今度は部屋のベランダの方から猫の鳴き声がした。

野良猫だろうと思い、そのまま眠ろうとするが、鳴き止まない。

それにどうも音が近い。

猫は好きだが、これ以上眠りを邪魔されるのは困る。

なんとか猫の存在を意識しないようにエロいことや空や海のことを考えて気を紛らわせる。

だんだん眠りに近づいていく。

なんとなくわかるあの眠りに沈んでいく感じを心地よく感じていると

突然、ベランダからドスンという鈍く大きな落下音がした。

人影が見える。

恐怖を感じる。

しかし、もう幽霊を信じる歳ではない。

宇宙人は信じているけど。

流石に宇宙人ではないだろう。

じゃあなんだ。

眠る前の記憶が蘇る。

隣のイカれた奴に決まってる。

その後にムクムクと怒りが湧き上がってきた。

もうダメだ。

隣にはどんな圧力団体が引っ越してきたのだろう。

俺の安息の地にこれほど攻撃をかけられたら黙ってはいられない。

朝からバイトして疲れてるんだ。

101号室の野郎がどんなガチムチオッさんだろうがヤンキーだろうがブッ倒してやる。

電気もつけず、床に散らばった教科書も無視して、

踏みつけながらベランダの戸を力任せに開ける。

身体に力が入る。

殴りかかってきても馬乗りだけはさせてはいけない。

101号室の方に目を向けると、

暗闇の中に小さく動くものがいる。

そこには野球ボールで遊んでいる猫だ。

他には何もない。

おかしい。

人がいたはずだ。

わけがわからない。

なんだか馬鹿らしくなって、もう部屋に戻ろうと振り返った。

無意識に103号室の方を見た。

人間は自分の想像を超える現象には何もすることができない。

静かだが確かに存在した人の姿に思わず、

「うわっ、ちょっ、えええええ」

と謎の声を発して、無様に体勢を崩し、しりもちをついた。

恐る恐るよく見る。

宇宙人は嫌だな。

そこには、僕を見て僕の何倍も怯えた顔をした少女がいた。



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