狂って候
もうお腹も減ってないし、どうやって暇をつぶそうか。
トレーの上に少し残ったポテトをつまみながら、
何か面白いことはないかとスマホをいじる。
ラインを見ても誰も何も言ってこない。
ツイッター もバズるのは陽キャのツイートばかり。
結局、まとめサイトに流れつくのもいつものパターン。
現実でも、ネット社会でも、何の力もない。
2chまとめを見ていると、また異世界物が叩かれている。
叩かれているってことは、まあ、それだけ人気があるのだろう。
バイトに行くまでどれだけ短く見積もっても40分はある。
もういつものサイトは見終わってしまった。
話の種に、小説家になろうでも見ようか。
どうせタダだし。
大学生の日常は暇であり、忙しい。
高校生諸君の中には、毎晩飲み会や合コンをやってお持ち帰りしまくりのキラキラ大学生に憧れている人もいるだろう。
忠告しておいてやる。
お前には無理だ‼︎
そんな大学生は高校生の頃からそんな生活をしている。
今、そういうことと縁のない高校生、特に彼女のいない奴。
憧れている時点でもう遅い。
諦めろ!
なぜなら俺がそうだったからだ。
大学デビューの衝撃。
圧倒的敗北。
ここ数ヶ月立ち直れないほどのダメージを負った。
思い出したくもない。
ゆくゆくは君達も高校時代、いや、もっと前から続く俺の失敗と挫折を知ることになるさ。
ただ、俺のことをわかってくれる奴がどれだけいるだろうか。
人が他人のことを知れるのはあくまでその一部に過ぎない。
この俺を慰める奴はもういない。
といってもまだ大学に入って3ヶ月。
まだどうなるかわからない。
わからないだろ?
わからないと言っておくれよ。
空はもうオレンジ色。
何にもないのに青春の匂いがする。
バイトを終えて、疲れきった体を引きずって家に帰る。
どうせ俺には青春なんてこないのだ。
どこの世界に青春が存在するんだろう。
もうなにもかもどうでもいいから、早く家に帰って眠ってしまいたい。
見慣れたマンションが見え、少し安心したのも束の間、マンションの前に大きなトラックが停まっているのが見えた。
トラックには引っ越し会社の名前がデカデカと書かれている。
俺は嫌な予感がした。
俺の下宿するマンションは3階建で一階ごとに3部屋ある。
俺の部屋は102号室。
3部屋の真ん中の部屋だ。
まだ住民にあったことはないが、103号室は夜に電気が点いていた。
生活音もするから誰か住んでいるのだろう。
それはいい。
問題は101号室だ。
おそらく空室なのだ。
隣の部屋は空室のままがいい。
だってそうだろう。
下宿して初めて気づいたことだが、
部屋の中では裸になろうが何をしようが勝手だが、
音だけは気を使わなければならない。
隣の部屋からテレビの音やシャワーの音が聞こえてくる。
これは逆もまた真なり。
今はまだ103号室側だけ気をつけていればいいが、101号室に人が住んでしまうと真ん中の102号室の俺は逃げ場を失ってしまう。
ギターも弾きにくいし、女の子も呼びにくい。
これじゃあ下宿した意味がないじゃないか。
呼べるあては何もないけれど。
嫌な予感はよくあたる。
世の中はまったく思うようにいかない。
家に帰ってきて2時間経った今も隣の101号室では物を運び入れる物音が続いている。
バイトから帰ってきた身体は疲れ切っている。
だが、意識は眠らない。
俺はボロボロの身体をなんとか起こして、イヤホンとウォークマンを拾いあげ、尾崎豊を探した。
「15の夜」や「I love you」を聴いていると、高校時代のやるせない気持ちを思い出し、俺は何をしてるんだろうとしまいこんだはずの思いが溢れ出てきた。
俺は現実から逃避するため眠ってしまった。