第三十三話 飢えと家族
もうすぐ十六になる安奈が住んでいた土地は、山の中で自然豊かであった。安奈は髪の長い美しい少女だった
彼女は小さな木製の家で、父と母と妹たちと暮らしていた。 安奈の家は貧しかったが幸せに暮らしていた。
しかしある時、異常気象で凶作が続き、飢饉が起こった。
安奈の家の貯蓄は半年で底が付きそうになり、食卓は小さくやせた作物しか出なくなってしまった
彼女たちは飢えた。
ある日、家の中で、安奈の父と母が安奈と妹の杏理の前であることを話した。
「お父さんとお母さんはこの家を出る。」
父の言葉に安奈は驚き、尋ねる。
「なに言っているの!?」
「ただ飯ぐらいの父親と母親が、家にいてもしょうがない。残りの食料はお前たちでわけてくれ」
「そんなのいや!!」
父の言葉で妹の杏理は泣いていてしまう。安奈はそれを何とかして止まそうとしたが、止まらなかった。杏理の言葉に父は何も言わず、家の扉に手をかけた。
「お父さん。行かないで!」
杏理は出て行こうとする父と母引き留めようとするが
「お姉ちゃん!?」
止められたことに驚き、振り返り安奈の顔を見る。
引き留めた安奈は泣いていた。彼女は父と母がこうすることしかできない事がわかっていた。親の意思を尊重して杏理を引き留めた。安奈の顔を見て杏理は何も言えなくなり、父と母は扉を開けて、家から去り山の中に消えた。残されれた杏理が安奈に問うかける。
「お姉ちゃんはどこにも行かないよね」
「うん行かないよ。どこにも行かないよ」
残された二人はただ悲しみ、無力な自分たちと今の現状を呪った。
飢えは容赦なく残された二人に襲い掛かった。
家の蓄えが尽き、彼女たちが土などを食べ始めてしばらくたったある日。妹の杏理が倒れた。
姉である安奈は甲斐甲斐しく看病するも、妹の容体はよくならなかった。
杏理は栄養失調にかかったのだ。倒れる妹を見て安奈は泣き続けた。
「どうして。私じゃないんだ!?」
彼女は自分の体の頑丈さを恨み、目の前の妹に、白米さえ与えられぬ自分に憤慨した。痩せこけた杏理が虚空につぶやく。
「甘いのが食べたい」
「わかった。お姉ちゃんが今すぐ持ってきてやるからな!!」
安奈は叫び家を飛び出した。安奈は山の中を走る。走る。しかし、果物や木の実は決して見つからなかった。
安奈が探し始めて、時間がたち夜になった。夜空の美しさと対照的に、安奈の心は絶望に満ちていた。彼女は何も見つけられなかったのだ。絶望とともに家に帰った。
(なんていえばいいのだろう)
彼女はそんな面持ちで妹に話しかけようとした。
「ごめんね。何も見つけられなかった」
「…………」
安奈は話しかけるが、妹から返事は返ってこなかった。
「杏理?」
彼女は返事をしない妹を怪訝に思い体を揺さぶるも、杏理は何の反応も示さなかった。杏理は死んでいたのだ。それを安奈が理解した時、彼女は泣きながら自分の人生を振り返りつぶやいた。
「神様。どうしてこんなことなさるのですか。私は何もしていません」
彼女の問いに誰も答えはしなかった。
一人残された安奈は、死んだ妹を埋める気にはなれず、しばらく家の中に寝かせていた。
家の中は一つの死体と何も言わず座り込む安奈だけで静かであったが、グううと安奈の腹の中から音がした。その瞬間、安奈の腹の底から大きい食欲がわきだした。
(肉が食べたい……)
そう思い、何気なしに家を眺める。しかし食い物は底をついていた。食えるものは何もない。
いやあった。彼女の目は死んだ妹をとらえた。
(死んでいる……肉)
安奈がそう思った瞬間、自分自身ををひどく恥じた。
「何をおもっているんだ!? 死体を食べるなんて!?」
彼女は自分を恥じて、急いで妹を土に埋めて、よこしまな考えを消した。妹を埋めなければ、また先ほどのような考えが浮かぶことを恐れたのだ。
「はあ……はあ……」
そして、安奈は自分の食欲からと妹から逃げるように家から去ってしまった。




