第二十九話 殺人鬼の矛盾
おひさしぶり
しみは学校へ浮かれ気分で向かっていた。
感情、人間性を得る術を知ったからだ。それによりしみの本当の人生はもうすぐ始まり、同時に過去の呪縛も消え去る。彼女は自分の明るい未来を考え、心が踊った。
「おはようございます」
「!?」
しみは雪梅の部屋を訪れ、元気よく挨拶をした。それに対して、雪梅はとても驚いた。
雪梅が驚いたのはしみを保護し一緒に住んでいた時でさえ、今の様なしみは見たこと無かったからだ。しかし驚きながらも、しみが良い意味で変わったのを喜んだ。
彼女はしみに何とか幸せな人生を送ってもらいたくて、何とかしようとしたが、一緒に居た期間では出来ず、とても悔やんだ。雪梅は、目の前に居るしみと過去のしみを比べ、涙を浮かべた。
「そうか、良かったなあ……」
「雪梅先生!?」
雪梅が突如泣いたことに動揺するしみ。そんなしみに涙をぬぐい、何でもないと笑う雪梅。そして涙の理由を隠すため、話を変えた。
それは授業を見学してみないかというものである。この事自体はしみが此処に働いた時にふと、思い考えたモノで、しみに今の子供たちが何を学び、何か感じ取っているのかを知ってほしくなったからだ。しみは授業見学を喜んで受けた。
教室の内装は庭が見え、畳に横に長いテーブルが複数に置いてあり、教壇と黒板も設置されていた。普通の物である。しみは教室の後ろに座り、雪梅の授業を聞いた。
授業は道徳であり、内容は自分のためだけに他者を犠牲にしてはならない。もしそうしてしまったら人の道を外れしまう。要は善悪についての話であった。
授業は終わり、しみは庭のベンチに一人座り込む。
「どうして……」
しみにとって先ほどの道徳の授業の内容はとても受け入れられなかった。しみが感情といった人間性を手に入れるには人を惨殺しなければならない。
しかし、先ほどの授業によれば、他者を犠牲にして自分だけ得することは許されない悪であると教えていた。これに基づけば、しみの行為は悪であり、人の道を外れている。
しみ自身も殺人行為は許されない事だと分かってはいたが、恩師が説く道徳の話を何の罪も無い子供たちと一緒に受けたことで、心が揺れ動いた。
授業を受けた子供たちはそんなことしないと言っており、そんな事をしている自分と子供たちを比べ、ショックで頭が砕けそうになったしみ。
人間性を手に入れるために、人を殺すことは悪である。しかし、彼女はそれを行う事でしか人間性を手に入れる事が出来ない。
学校の業務が終わり時間が出来たことで、しみは思い切って雪梅に人を殺すことは悪であるか?と問うた。雪梅は自分のためだけに人を殺すことは悪だと答え、それを聞いた彼女はは震え声で再び、惨殺はいけない事か?と問う。
聞かれた相手はしみが何故こんな事を尋ねるのか、分からなかったが人を惨殺する者は人では無いと答える。それを聞いた彼女は幽霊の様な足取りで学校を後にした。
夕暮れ時の帰り道、しみは泣きながら歩いていた。しみが人間性を手に入れ、人になるためには人を惨殺しなければならない。しかし人を惨殺した者は、人で無しであり人の道から外れる。彼女は矛盾を抱えた。
靄が言っていた、母が虐待したのは、化け物だからと言う言葉と、人を殺すのは過去のせいでは無く、自身がしたいだけである。そんな靄の言葉がしみの頭を廻った。
「……」
しみは手をじっと見た。
(今までたくさん殺した、今更人になれるのか?未来が無い絶望しか無い……)
そう思い彼女は思わず顔を手で覆う。彼女に絶望と共に頭痛や幻聴までやって来た。
ギ …… ギ ……
「お姉ちゃん、どうしたの?」
しみが顔を覆っていると小さな子供が心配し声をかけてきた。しみは子供を見つめて尋ねた。
「ねえ……貴方、家族と仲が良い?」
子供はしみの急な問いかけに困惑したが、答えた。
「う、うん仲が良いよ」
「お母さんとお父さんも?」
「うん……」
不可解な言葉を口にするしみに子供は怯え恐怖のまなざしをしみに向けた。しみは子供の答えを聞いて、
「そっか…そっかぁ…家族と仲良くね」
何もせず家に向むかった。彼女に幻痛と幻聴がまとわりつく。
ギ …… ギ …… ギ ……
(うるさい、痛い…… もうどうすれば、いいんだ)
彼女が未来に絶望しながら歩いていたら、雨がポツポツと振ってきた。空を見上げる。
空は彼女の未来動揺、薄暗かった。




