第二十四話 進むべき道 前編
夢幻界は現在、嵐による水害の被害に遭っていた。雨はバケツをひっくり返したかの勢いで降り注ぎ、川は氾濫、暴風は屋根を引きはがそうとするほどである。この嵐は人間と妖怪に多くの死傷者を出していた。 嵐は未だ収まりそうもない。
―――<第二十四話 進むべき道>
そんな中、了と菫はアサキシが潜伏していると思われる場所に向かっていた。この嵐がアサキシによるものと考えたからだ。なぜなら大変な今、管理所に彼女が居ないのはおかしいと考えて向かう事にしたのだ。
嵐がアサキシによるものならば、行ってアサキシと嵐を止め、これ以上の犠牲者が出るのを阻止する
二人はやがて、人里から妖怪の里へ通ずる道にある田畑にたどり着いた。
「菫! あれを見ろ!」
「……あれはアサキシとアトジ!」
田畑にアサキシとアトジが二人が来る事を知っていたかのように佇んでいた。二人はアサキシ達の近くに行くと、風と雨が穏やかになった。これはアサキシが作り出した結界によるものである。
了達はアサキシ達を見据える。アサキシは了達を睨み、話しかける。
「ふんッやはり来ると思っていたよ。了に菫」
「そうかい、……死ぬ覚悟はできてるかッ!」
菫は怒りを含んだ声で言い返す。了達は知らないがアサキシが嵐を止めてないと言う事は、まだ命の数が足らないということだ。今ここでアサキシが倒れたら、嵐は止み死者蘇生は無くなる。
当のアサキシは了達がやってくると思い、これ以上の妨害はいらぬと考え、わざと現れて迎え撃つ事にしたのだ。
菫をバカにするようにアサキシは言葉を発する。
「死ぬ覚悟などしてはいない。だがお前達を殺す覚悟なら出来ている。もうお前達はいらない」
「そうかよ!」
「……アサキシ罪を償う気持ちは本当に無いのか?」
了の問いかけはアサキシに人間性が、善良な心が僅かにでも残っている事を最後まで信じて出たものだ。問いかけにアサキシはため息を吐く。
「罪? 親を思い行動する事がか?」
その言葉に嘘偽りは無かった。
「……わかった。もういい」
その返答に了はアサキシを殺す覚悟を決めた。こうなってしまった悲しみで涙が零れたが、雨のお陰で周りには伝わらなかった。だけどそれで良かったのかもしれない。
アサキシがそれに気づき、涙に付け込んで良からぬ事を言い出すかも知れないし、了に罵声を浴びせたかもしれないからだ。
「ふん! もういいか。ならば……」
アサキシが言葉を発したその時、4人の周りに雷が走った。4人は不可思議な雷に目をやる。
雷が畑を焼いて煙を起こした。その煙の中から現れる者がいた。それは刀を携えた葉月であった。
行方がわからなかった葉月が突如現れた事に了と菫は驚いた。
「今までどこに!?」
「私が幼い頃に住んでいた場所に居た………」
了の問いにうつむき答える葉月。彼女の声は沈んでいた。
「そして、ずっと考えてた。何が良いのか、正しいのか……」
うつむき話す葉月にアサキシは横槍を入れる。
「それは私を手伝い、家族のために尽くす事だ」
「それは違う」
「何ぃ?」
葉月の言葉に眉をひそめて不快感をあらわにするアサキシ。
「私は考えた。考えて考えてわかった。 ……私の家族は死んだ。 ……もう過去だ。今ある命を犠牲にしてはならないと」
葉月は顔を上げアサキシを見つめ言い切った。アサキシは彼女の言葉に苛立つ。
「つまり、何が言いたい?」
「お前の下にはつかない。今ここでお前達を倒す」
アサキシ達に向かって刀を抜き構える葉月。そんな葉月にアサキシは問いかける。
「葉月、私に歯向かうと言う事は、家族を蘇らせる事を諦めたことになるぞ」
「もう…… いいんだ」
「ふんッ哀れだな葉月の家族は。妖怪に殺され、そのうえ娘に見捨てられて。いいのかこれからの人生何も取り戻せなかった道を歩むことになるぞ」
(その通りだ…… 父さん、母さん親不孝な子でごめんなさい。罪は背負います。だけども)
アサキシの問いに思考する葉月。そして答えた。
「それが私の道だ、私の人生だ」
「間抜けがッ!」
アサキシは葉月の意思に怒り声を荒げ、葉月はやりとりを見ていた了と菫に頼み込む。
「了に菫、お前達にとんでもない迷惑をかけた。本当にすまなかった……許せないだろうが、今は一緒に戦ってくれ」
そう言い了達に深々と頭を下げた。了は頭を上げさせた。
「別に気にしちゃいないさ」
「許して欲しいなら許してやるよ。だが全力で戦えよな」
了と菫は葉月に答え、アサキシたちに向かい戦闘態勢をとる。それを見てアサキシは呆れ頭をかき、アトジは馬鹿にするように笑う。
「やれやれ、疲れますねえ、そういうの」
「ああまったく、飼い犬に手を噛まれるとはこういう事か…… アトジ、了は任せた」
「良いですよ、そっちは二人ですよ?大丈夫ですか?」
「ああ問題ない」
「そうですか。ではッ了!貴方と私が戦いましょう!どちらかが倒れゆくまで!」
「いいだろう!! 葉月、菫、任せたぞ。あとこれッ」
了は葉月たちにエルカードを渡した。<ハート>葉月に、<フェイク>を菫に。
「勝って生きろよ!」
そう二人に叫び、アトジと共にこの場から消えた。そのやり取りを見てアサキシは馬鹿にする様に笑う。
「熱い友情ごっこだな」
「ごっこじゃ無いかもよ」
アサキシの言葉を否定する菫。その言葉にアサキシは不快そうにした。
「そうかい、だが今に無意味なことになる」
アサキシが菫たちを睨み叫ぶ。
「装着ッ!」
アサキシが光に包まれ、光の中から現れたのは黒の装甲に頭のヘルメットには血の様に赤いドクロマークが描かれているパワードスーツを着たアサキシだった。手にはドリルソードを持っていた。
戦闘態勢を取ッたアサキシと同様に武装する葉月と菫。
「装着!」
「エルカード発動!」
<アサルト>
二人は装備が整い、アサキシに向かい駆ける。アサキシはドリルを構え迎え撃つ。葉月の刀が眼にも止まらぬ速さでアサキシの首を狙う。
「無駄だ!」
〔エルカード発動<アクセル>〕
アサキシのスーツの音声が鳴った。その瞬間アサキシの動きが葉月の刀のスピードを上回った。そして斬撃を回避し、ドリルソードで葉月に、突きのカウンターを胸に喰らわせる
「ガハッ!」
ドリルは鎧を抉りだし火花を散らす。
葉月は<アサルト>の力で纏っていた鎧のお陰で死は免れたが、ふっ飛ばされる。
アサキシが使用しているスーツにはエルカードが複数組み込まれており、自動的に発動する。それがこのスーツの力。 またスーツの性能も他の物よりも優れていた。
更にアサキシは肉体を改造しておりエルカードの同時使用の負荷に耐えられ、通常の人間以上の生命力を持っていた。 そんな彼女は葉月にカウンターを与え、殴りかかってくる菫の攻撃を迎え撃とうとした。
<リミットオーバー>
菫はエルカードを使いスーツの性能を上げた。これによりスーツの機能制限が2回から無制限に。しかし肉体の負担も跳ね上がる。だが彼女は構わず攻撃を仕掛けた
「マキシマム・パンチッ!」
〔マキシマム〕
菫の拳は赤く輝き、アサキシを襲う。直撃すればスーツを着ているといえど大怪我は免れない。だがアサキシは回避行動をとらずに、菫の拳を自身の拳で迎え撃った。
「フン!!!」
〔エルカード発動<フリーズ>〕
拳同士がぶつかり合い、辺りに金属音を響かせた。そして殴りかかった菫は驚愕した。
「ば、馬鹿な!?」
「どうしたァ!? 間抜けな菫!」
菫のスーツの力は赤く光輝く箇所を当て爆発を起こすものだ。しかし起きなかったのだ。彼女はアサキシが使用したエルカードの仕業だと理解し、恐怖した。
「エルカードか!?」
「そうだ、<フリーズ>の力は相手の力を一時的に停止させる力だ。よって!」
「く、くそっ」
攻撃が防がれたことで菫に隙が生まれ、アサキシはそれを見逃さずにすぐさま攻撃を加える。
「無駄となった!!」
〔エルカード発動<エコー>〕
アサキシは菫に武器の連撃を喰らわす。ドリルは菫の装甲を砕き、エルカード<エコー>はスーツが吸収するはずの衝撃を菫の肉体に伝えた。
「グアギャアアアア」
叫び声を上げ吹っ飛ぶ菫。アサキシは地に倒れた二人を見て呆れた。
「お前たちの力は全て私には届かん。しょせんそんなものだ」
しかし二人はアサキシの言葉を否定するかの様に立ち上がり、戦う意思を向ける。
雨は未だ止まず。
―――
了とアトジは先ほどいた田畑に似た別世界に居た。似てはいるが夢幻界ではなく生命は無い。
この世界はアトジがエルカードを使い作り出した偽の世界だからだ。
了はアトジを睨みつけ、睨みつけられたアトジは笑いながら了に話しかける。
「貴方おかしいですよ」
「何?」
「私は力を与える者としての役割を果たしています。なのに貴方は役目を果たさず、<エンド>用いずに戦い、あまつさえ自己の存在、終わりを与える者としての自分を嫌っている」
「ああ、そうだな……」
アトジの言葉に頷き肯定する了。その対応を見て目を丸くするアトジ。
「へえてっきり否定するかと……」
「だか、今ここで役目を果たすぜ。夢幻界を救うために!!」
了は手をかざす、手に透明なエルカードが現れた。アトジはそれを見ると笑みを消し、自身もエルカードを出現させた。
「ここで終わりだッ! アトジ!!」
「終わるのは貴方です了!! 私は勝ち、夢幻界に力を与えます、混乱と共にねッ!」
両者、エルカードを発動させた。
<エンド>
<インフィニティ>
カードの力により了の体に光子が纏わりつき、アトジの背後には光輝く巨大な銀河の様な渦が現れる。
了は剣に光をまとわりつかせ、天地を切り裂くと思える斬撃を放つ。アトジはそれを迎撃するため、背後から力の塊とも言える、無数の光弾を発射。
互いの攻撃はぶつかり合い、空間に亀裂を与え霧散した。
了は舌打ちし剣を構えて、アトジに向かう。アトジも剣を出現させ、手に取る。
「ゼアアアアアアアアアアアアアア!」
「ハアアアアアアアアアアアアアア!」
両者叫び、剣で互いの肉体を斬りつけ様とする。
<サンダー>
<フレイム>
<グラビィティ>
<ポイズン>
<アクア>
<タイム>
アトジは様々なエルカードを使用し、自らを強化していく。それに対し、了は<エンド>のカードだけを使用した。アトジが使用したカードは、了の<エンド>の力によって無力になっていく。されど、アトジは構いなしと無数のカードを発動して対抗。了とアトジは互いに手を緩めず斬りあい続ける。
やがて、互いの剣が砕けた。
二人は残った拳で殴りあう。殴り合いの衝撃で空間は破壊され、世界そのものがガラスの様に崩壊していき、了の光はアトジの攻撃により減光していく。アトジの渦も了の攻撃により崩れていく。
それでもやめない。二人の攻防は無限に続くさえ思えた。しかしどんなものにも終わりは来る。
「これで終わりです!」
アトジは後ろに下がり、手を天に掲げる。ひび割れた空に夢幻界が映し出された。
「この夢幻界は破壊し新しく始めます!! 貴方抜きの世界をね!!」
「なんだとッ!?」
アトジが手を握ろうとすると、映し出された夢幻界の姿が歪んでいく。もし破壊されたらすべてが無になる。今夢幻界で戦っている、葉月の歴史も菫の歴史も。
「アハハハハッハハハハッハハハ」
狂気の笑い声を上げ、了に叫ぶ。
「戦い意味も無くなります! これで終わりです!」
「それはどうかな?」
「何!?」
了は拳に持てる全ての力、自身の存在さえ力へ変えてアトジに殴りかかった。それを受けアトジは苦悶の表情になって叫ぶ。
「そこまでして守りたいかッゴミどもの命を!」
「ゴミなんかじゃない!」
了も叫び、体を貫いた。アトジの手は天から地に垂れ下がり、崩れ去った。映し出された夢幻界も元に戻り、夢幻界は守られたのだ。倒れながらあとじは笑う。
「私から世界を守れても…… 力を使った貴方は終わりを与える者に戻ります ……残念でしたね。結局のところ夢幻界は終わりを与える者に滅ぼされ、またいちから始まってしまうでしょう」
その言葉に首を振り、否定する了。不思議な顔をするあとじ。
「何をおっしゃって……」
「私は全ての存在に終わりを与える者……私は私という存在を終わらせる」
「! それでは私に勝った意味がありませんねぇ」
了はあとじの言葉を吹き飛ばすかの様に笑う。
「私は生きた。了として ……だから意味はあるのさ」
「…………」
その言葉にアトジは何も言えず、無数のカードになって崩れ去った。それと共にアトジが消えたことで作られた偽の世界も崩れて、無数の光となって消滅した。
―――




