第二十ニ話 始まりの雨
―――<第二十二話 始まりの雨>
強い雨が降る人里にて、了と菫は診療所の病室のベットに腰を据えていた。前の戦いの負傷を癒すためである。菫が布団にくるまりながら了に話しかける。
「なあ了……」
「なんだ……」
「前に話しただろ。アサキシを貶めて倒すって」
「ああそれがどうかしたか……」
「……もうそんな、まどろっこしい真似はせず、奴を倒す」
菫の言葉に黙って聞く了。窓の外から雨音が聞こえる。了は菫の言葉にしばしの沈黙の後、口を開く。
「私も<エンド>のエルカードを使い、アトジとアサキシを何とかする」
その言葉を聞き驚く菫。それに対し彼女は淡々と話す。
「<エンド>を使い、暴走しないように何とかする。……私は私を甘やかしてたのかもしれない」
自分の力の事を淡々と述べる了の言葉に、菫は一抹の不安を感じ言葉をかける
「……<エンド>の力を使えば人間性、人間の心を失ってしまうぞ」
「……もういいさ、人の心は誰かが持っていてくれたら」
「…………」
了の答えに彼女は何も言えなかった。 …… 外から雨音が聞こえる。最近の夢幻界は雨ばかりだ。了は葉月について菫に尋ねる。
「そういや葉月の奴はここに連れてこなかったな?」
「ああ、そこまでの傷じゃなかった。それにな奴は……」
彼女の言葉にはどこか葉月に対してのとげがあった。了は葉月の行動を菫に話す。
「……あいつは最後に赤子を殺すのを止めた」
「責めてはならないと?」
「そう言うことじゃなくて……」
菫の言葉に口ごもる了。菫はため息を吐く。
「……わかっている。葉月は悪じゃない。奴は家族を生き返らしたいだけだ。そして生き返らせるにはアサキシのどんな命令を聞かなくてはならない。人質を取られてるもんだ」
「命令に従わなかったら、家族は蘇らない。つまりは家族を見捨てたとも、とれるしなあ」
了は暗闇の森での戦いを思い起こす。葉月の心がいっぱいいっぱいだったのは見て取れた。了の言葉に菫は腕を組む。
「置いてったのはまずかったか。葉月の雰囲気がヤバそうだったんで一応、自殺はするなとは言っておいたが」
「家にも居ないらしいし」
二人は診療所の者に葉月の家や働いてる場所を尋ねてもらったが、呉服屋に働きに来ておらず、家にも居なかったとの事。家や呉服屋にいないことを考えるとアサキシのもとに居るのか、それとも自責の念にかられて、自殺。そう考え了は不安になり菫に言葉をかけた。
「……なにしてるんだろなあ?」
「さあな…… 生きてりゃ会える」
「そうか…… そうだよな」
葉月の不安を彼女は菫の言葉で、鎮めた。
「……しかしまあアサキシがあんな奴だったとは」
了は思い返す、管理所での日々を、分からないことがあればアサキシが教えてくれた。了にとっての恩人。アサキシの普段の会話からどこか冷たい人間なのかなと感じていたが、本当は優しい人間だと信じていた。だがあの親子に対してした行為は悪そのもの。
「納得できんか。アサキシの事は」
菫の言葉に俯く了。恩人がああであったことに納得が難しくまた感情の整理も難しいのだ。
「納得は出来たかは分からんが…… アサキシがやった行いは許される事では無い。それはわかった」
「なら良い。アサキシの奴どこに居るやら」
現在、アサキシは管理所及び自宅を離れて居る。管理所の運営は代わりに副所長が取り仕切っている。副所長に手紙が届き、当面の間はよろしく頼む、と書かれていたそうだ。
「別荘に行くと言っていたな。どこにあるんだろうな」
「だけどもう少しで分かる」
この二人は病室を抜け出し、アサキシの居場所を探っていた。親子の様な被害を防ぐために。
「ああ、居そうな場所はあらかた調べた。残る場所は少ない」
「見つけ出して倒す。それだけだ。今は怪我を治そう」
そう言い二人は布団にもぐった。外からは強い雨音が聞こえる。
―――
「じめじめしてますねえ」
「悪いなこんな場所で」
アサキシとアトジは別荘にいた。別荘は人里から妖怪の里へと通じる道にある田畑の地下に存在した。内装はこじんまりとしており、地上に出られる出入り口意外には、小さな本棚と管理所から持ち出した道具に、この夢幻界では貴重な電球が備えられて居る。電力はエルカード。
地上に結界が張られており、誰かがこの場所に気付いたら、結界が感知し伝え即座に対応が出来る。
アトジは部屋をぐるりと見渡しながら、アサキシに尋ねた。
「ま、いいんですけど、器となる肉体はどうするんです?<スピリット>のカード、魂だけでは完全復活とは言えませんよ」
「それは大丈夫、これを見ろ」
アサキシは本棚の隙間からエルカードを取り出しアトジに見せた。それは<サクリファイス>と書かれていた。それ見て驚くアトジ。
「そのカード手に入れていたんですね、あらまびっくり」
「金に困った奴が管理所に届け出てな」
「なるほど<サクリファイス>のカードは生き贄を捧げることで、何かを生み出すカード。それを使って肉体を作り出すつもりですね」
「そのとおりだ。さすがはエルカードの製造者。察しが良い」
カードをひらひらさせ、アトジを褒めるアサキシ。アトジは褒められて、嬉しく思いながらも尋ねる。
「それで肉体を生み出すとなると、質が良い大勢の生贄が必要ですよ。何を生贄に? 豚とかですか?」
「生贄に関してはちと面倒だが、まあ問題ない」
「ほうほうそれは一体?」
食い入るよう様に尋ねるアトジ。それはアサキシの案がろくでもない事が想像でき、これから起こるであろう事件に期待しているからだ。アサキシは腕を組みながら答える。
「それは多くの人間と妖怪をを殺して贄にする事。それで肉体が作れる」
アサキシのロクでもない話を聞きアトジは歓喜の笑みを浮かべる。
「へえまた『大災害』でもおこすんですか?」
アサキシはアトジの言葉に首を振り否定する。
「さすがに二度目はな、簡単なのにする」
新たなエルカードを取り出し見せる。カードには<テンペスト>と書かれていた。
「このカードは…… アトジなら知っているか」
「ええそれは、嵐を操るカードです」
「これを使い、水害を起こし、多くの死者を出す。人間や妖怪を生贄にする」
「なるほどね、しかし人間が死にすぎると妖怪が助けに来ません?」
「水害を起こすのは人里だけで無い、夢幻界全体だ。それで妖怪も自分らの事で手一杯になる。水害による被害からの復興には再び妖怪の手を借りるかもしれんが、傷つくのはお互い様だ」
「そうですか」
「止めんのか?」
「止めるわけありませんよ。こんな面白そうなの。それに悲しい出来事があれば、エルカード、力を求める者も現れます」
これから起きる悲劇を想像してアトジは、下品な笑みを浮かべる。そんな彼女を見てアサキシは苦笑した。
「そうか、何より。一応、生活困難まではいかない様にはするよ」
「生活って誰のです?」
「もちろん私さ。人を減らすことで妖怪の力も今より下がれば良いが、それは望み過ぎか」
アサキシの心はもうすぐしたら両親が生き返ると喜んでいた。アサキシは一人である孤独から解放されるのだ。
雨は降る。夢幻界に願いをのせて。




