第二十一話 家族のためなら何でも 後編
葉月の言葉で菫から、笑みが消えた。
「私は違う守る側さ。葉月なぜ受けた?」
声をわずかに強くし、葉月に尋ねた。それに葉月は菫から目をそらし、おどおどした態度で答える。
「死んだ者を蘇らせるためだ」
「ふーん、赤子を殺してねえ ……悲しいな」
菫は葉月に憐れみの目を向ける。それに心苦しさを感じながら菫に対し、葉月は問いかけた。
「……お前だって甦らしたい人が居るだろう。大切な人のためならするだろう?」
「……誰かを殺してまでは思わんなー」
首をふり否定した。その言葉に葉月は顔を伏せる。彼女は自分を恥じて、心の中で自殺願望が生まれつつあった。
「お前が前に言った通り、誤魔化していただけなんだ。過去の怒りで今の現実を……」
「そうか、どうしてもか」
「わからない…… でもこうするしか……」
か細く震えた声で菫に言い訳めいた言葉を話す。だが菫は葉月の言葉を受け入れなかった。
「じゃあ、その考え直せ。クソ間抜けが」
「……エルカード」
菫の何も答えずエルカードを取り出し、戦闘態勢に入る。菫はそれを見てため息を吐き、自身も戦闘態勢に入る。
「発動ッ!」
「装着ッ!」
葉月の周囲に雷が発生し、鎧となり、刀を青く染めた。それに対し菫はパワードスーツを装備した。
―――
「菫の奴遅い、遅すぎる」
彼女が場を離れてから長時間が立った。太陽は沈みかけ夜を連れてくる手前に来ていた。何かあったのではないかと考え了は無事を祈った。
「!」
その時、こちらに向かってくる何者かの気配を察知した。
「近づく者!! 止まり名を名乗れ!」
了は叫び警告したが相手は歩みを止めず、目の前に姿を現して了を唖然とさせた。
「葉月……」
現れたのは刀を手に持ち重症を負った葉月だった。
「なぜここに!? まさか!?」
「菫は倒した……
次はお前か了」
「倒した!? 死んだのか菫は!?」
「生きている…… 私が奪う命は一つだ」
そう言い刀を了の後ろにいる親子のに向ける。女は葉月に怯え、赤子を強く抱きしめる。
「逃げろ!!」
「させるかものか」
了の指示よりも葉月は素早くお札を空高く投げた。札はこの場にいる4人を取り囲む様に勢いよく辺りに張り付いた。葉月は了達に指さす。
「これで結界ができた。あの時の様な妖怪を倒すためでない。人を殺すための……」
結界の力は以前とはけた違いに強く人間さえ出る事はかなわなかった。
「お前…… 何をやろうとしているのか、わかっているのか!?」
「わかっている……」
「人を殺すんだぞ!?」
「私は恩人と呼べる人をもう殺している……」
「だからといってッ……」
「私を止めたければ……戦え」
了は悲しい覚悟を突き付けられたが、赤子の命を守るためカードを取り出し発動した。
<ハート>感情を力に変える。
了の作り直した剣に青い雷が纏った。了は<ハート>で力を向上させたが、切花の様に圧倒的な力は得れなかった。なぜならば切花の様に魂を集めて強化したわけではない上に、葉月に対して敵意という強い感情を向けられないからである。そのため、感情を力に変える<ハート>の力は了にとって少しの強化にしかならなかった。
しかし、それでも了は剣を構えて、葉月に立ちふさがる。その姿を見た葉月も刀を構える
相手を止めるために。
人を殺すために。
―――
戦いは葉月が僅かに優勢であった。了は人外のカードを使えば逆に不利になる上に、葉月と違い剣術を習ったわけでもない。しかし何とか<ハート>の力で食らいついていた。剣と刀が交差し金属音を響かせる。
「なぜだッ! なぜそうする!」
「言わせるなッ!」
了と葉月は刃を交え対話する。葉月は悲痛な声を上げる。
「私は家族がいた未来を進むッ!」
「罪なき命を斬り裂いてまでかッ!?」
「うるさい!私にはこれしかない!」
悲しい叫びと共に葉月の刃の鋭さが増し了を襲う。了は叫ぶ。
「そんなことは無い!! お前のすべては過去だけなのかッ!」
「……ゥゥウオオオオオオ!」
了の言葉に否定も肯定もできずに泣き叫び刀を振るう。刀は了の腹を払った。了の腹部から血が飛び散る。何とか痛みに耐えようとする了に葉月は刀を捨てて殴り倒し地面に抑えこんだ。
「ウオオオオオオオ」
悲痛な叫びを上げ了を殴り続ける。心の内で何度も何度も謝りながら。了は殴られ続けて動きを止めた。死んだわけではない。気絶したのだ。葉月の感情に抑え込まれてしまったのだ。
「……」
葉月は捨てた刀を拾い親子に近づく。女は我が子を守ろうと庇う様にして動かなかった。女にとって彼女は我が子を殺す化け物の様だと感じ、恐怖で体が震え涙を流した。
刀を赤子に目掛け掲げた。葉月の心は砕けそうなほどの悲しい叫びでいっぱいだった。
(これから始まるのか? 私の人生は……赤子を殺して……家族に会えるのか)
「うあああああああああ」
「!?」
赤子が泣いた。女の恐怖が伝わったからだ。辺りに鳴き声が響く。
葉月は赤子の鳴き声を聞き自らも涙した。
(家族がいなくなったら…… ああ…)
葉月の脳裏に、家族が居ない自分の生活が浮かぶ。
「……泣かないでくれ」
そう言い刀を振り下ろした。
ザンッ
刀は命を奪うこと無く地面に突き刺さった。彼女は頭を地につけ、親子に対し了や菫に対し何度も謝った。
「ごめんなさい…… ごめんなさい…… ごめんなさい」
葉月からは殺気が消え、今の彼女は哀れな少女だった。赤子は葉月の様子から何かを感じ取ったのか泣き止んだ。女も葉月に対し恐怖心が和らいだ。葉月の戦闘意欲が消えたことにより結界も機能しなくなった。
「葉月…… お前」
了は体こそ動けないものの、少しの思考が可能になり、葉月を心配した。
「ごめんなさい…… ごめんなさい」
「もういいの、もういいのよ……」
女は泣いて謝る葉月の肩に手を置き、許した。
「でも……」
「いいの…… いいの……」
女と了は葉月が善人であると分かり、安堵した。
ヒュン
突如、風を切る音がした。赤子の頭に鋭い矢が突き刺さった。矢は赤子の頭を貫き、死に至らしめた。血が女の服を赤く染めた。
突然の死に驚愕する3人。その時、
「良し殺したな」
その言葉とともに現れたのはアサキシだった。手には木製のボウガンが握られていた。
「しかし、葉月情けないな。人目をはばからず泣くなどと」
そう言いながら3人に近寄る。葉月は混乱しながらも問いかける。
「なんで……」
「なんでって、お前な。私が望んだのは赤子の死だ。泣くことじゃ無い。お前はあまり使えなかったかな。いや、少しは使えたか油断させるための餌として。おかげで赤子に一発命中」
手に持つボウガンを見せながら淡々と答える。女は子を目の前で殺されたことにより半狂乱になり叫ぶ。
「どうして! どうして!」
女の叫びにアサキシは呆れた。
「どうしても何も、お前の子を殺さなければ、私の欲しい物が手に入らんからだ」
「そんな」
「お前は馬鹿だよ。生まれたばかりの赤子のためにカードを使うなんてな。大した思い出も無いくせに」
「…………」
「すぐに子供が死んで悲しかったら産み直せば良かったんだ。頭の回らない奴め」
話ながらボウガンに新たに矢を付け、女に目掛けて射る。葉月はかばおうとしたが女が拒否した。絶望で死を選んだのだ。矢は女の目に当たり、頭を貫通した。即死だった。
女は地面にバタリと倒れる。アサキシは女の行動に少し驚いた。
「おっと自分から当たりに来るなんて予想外。でも親子そろって頭に当たるとは意外といいのか?私の腕は?」
了はアサキシの言葉に頭が真っ白になるほどの衝撃を受けた。屋敷での出来事があれど、どこかで善人であると信じていた。例えアサキシが否定しても。でもそれは違うと目の前の現実でハッキリと否定された。
葉月はショックを受けて動きが取れない。考えることができない。
<インフィニティ>
<タイム>
エルカードの音声が流れた。アサキシのお隣にいつの間にかあとじ笑みを浮かべて立っていた。
「おめでとうございますねえ。アサキシさん<スピリット>のカードです」
あとじは手を掲げるするとカードが現れた。
「む、複製したのか?」
「違いますよ。赤子が死んだらカードの所有者が私に移動する設定にしたんですよ」
「そうかそんなことができるのか。便利だな」
「すごいでしょー、はいどーぞ」
あとじはアサキシに<スピリット>のカードを渡す。彼女はカードを手に入れたことで喜んだ。
「よしこれで……」
「でも魂だけじゃあ、死者蘇生は出来ませんよ。正しい器、肉体が無ければ。それはどうするんです?」
「それはまた今度に説明する」
「そうですかわかりましたあ。では早く帰りましょうか。了が起き上がって<エンド>を使ったら面倒ですし」
そう言って倒れる了に目を向けた。その言葉にアサキシは頷く。
「そうだな」
二人がこの場から、去ろうとしたとき、アサキシに向かって怒号が向けられる。
「アサキシィ!」
怒号を発したのは菫であった。彼女は気絶から目覚め、この場にやってきたのだ。そしてこの場の惨状を目の当たりにして、アサキシたちを睨み問いかける。
「お前は何も感じないのか!?」
「別に、家族のためにしたことだ。正しい行いさ」
アサキシは懐からエルカードを取り出し発動した。
<セメタリー> 死体を消滅させる。
「火が!?」
親子の死体から火発生し、焼失させていく、葉月はそれを止めるため、火を消そうとするが火は消えない。葉月は混乱しながらも火を消そうと奮闘する。
<セメタリー>の力は、死体を消す能力で他の物を燃やす事は出来ない。しかし死体に一度火がつくと誰にも消す事は出来ない様になっている。
ただ周りに影響を与えず死体を燃やすのだ。葉月はそんな事は知らない。泣きながら何とか消そうと必死になっている。アトジはそれを見て声を出して笑った。アサキシはため息を吐き葉月に話しかける。
「おい葉月、お前に改めて言っておく、私の下にいれば全てを取り戻せるいいな。アトジ帰るぞ」
「あはははそうしましょう。私が送りますよ」
「そうかじゃあ、私の別荘で」
「そんなものがあるんですか、知りませんでした」
「ああ、内緒にしてた。菫が怖くて怖くてなあ、で建てた」
アサキシは菫をみる、菫は今にも襲い掛かろうとしたかったが出来なかった。自身の負傷と了の負傷、葉月は戦えないと推測し。そしてアサキシは無傷でアトジまでいる。今ここで無理に戦えば無駄な死を迎える。菫は今何もできないことを呪った。
「帰るか」
「そうしましょう」
<インフィニティ>
<ワープ>
エルカードが鳴った瞬間、アサキシ達の姿は消えていた。
太陽が沈む、夕暮れの森、先ほど在った親子の死体は全て燃え消えた。灰すら残らなかった。もはや本当に親子は存在したかさえわからないほどに。菫は、親子の死に深い罪の意識を感じて呆然としている葉月に対して「自殺は止めとけよ」とだけ言って了を背負い、診療所へ向かった。
―――
親子が誰に殺されたか知るすべは失われた。例え菫や了、葉月がアサキシが殺害したと言っても証拠も無く、週刊誌の記事を飾る唯の行方不明事件として扱われるだろう。
そもそも親子に大した友人も無く、いなくなったことは了達を除いて誰も悲しまなかった。
了と菫は親子が利用され殺されたことに嘆き、アサキシに対して怒りを募らせた。




