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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
53/84

第二十一話 家族のためなら何でも 前編

 早朝の人里、ある家の女が赤子を抱いていた。

しかし赤子は息をしておらず死んでいた。なぜ死んだのかは無学な女には分からない。女の生い立ちは酷く親しい者もおらず今まで大した幸せもない人生だった。しかし赤子を授かり、これからの人生を母となりわが子に捧げようと考えた。


 しかし赤子は死んでいた。


 女は全ての希望を失い、何もしてやれなかった自分と自分の人生に絶望し命を絶とうと考えついた。

 赤子の死体を布団の上に寝かせ、刃物を持ち自らの首に突き立てようとする。


「もう終わり…… 何もかも」


 女が命を絶とうとしたその時、何処からともなく奇妙な音声が流れた。


<インフィニティ> 

<タイム> 


 音声と共に、女の目前に白い髪に黒いジャケットを着た少女が、音もなく現れた。女は驚き声を上げ、手に持つ刃物を落とす。少女は女の驚きを見て愉快そうに笑う。そして女が誰!?と問う前に少女は口を開く。


「私の名は、アトジ。貴方の赤ちゃんを蘇らせてあげにきましたぁ」


「え……」


 アトジの言葉に女は驚愕した。そのようなことができるのは神の御業だからだ。不可思議な力が存在する夢幻界においても、有りえない事だと思われている。話を続けるあとじ。


「これを使えばいいですよー」


 そう言い、何もない手のひらから1枚のエルカード出すあとじ。カードには<スピリット>と書かれている。そしてそれを女に手渡す。女は困惑しながらも受け取りアトジに尋ねる。


「貴方は一体? ……いえこれで本当に蘇るの」


「ええ蘇りますよまあ今回は特別です。魂の器になる肉体もありましたしね」


 話に耳を傾けながら、女は渡されたカードを見る。全てが元に戻り、希望が蘇る。彼女はわらにもすがる思いで、赤子の死体に向かってカードをかざし発動した。


<スピリット>魂を司る。


 音声が鳴ると赤子の体の上に光る球体魂が現れ、体の中に入っていく。すると赤子は息を吹き返し蘇った。女は喜び嬉しさで涙を流し、アトジに向かい何度も何度も心からの感謝を述べた。


「ありがとうございます。なんとお礼をすればいいのか、この事は決して忘れません」


「そうですかあ、でもまだ終わっていませんよ」


 アトジは女の言葉を聞き流し話を続け様とする。彼女はアトジの言葉に首を傾げた。


「蘇らしましたが試練と呼べるものが一つありましてねえ。それを乗り越えてもらいたいのです。といってもゲームみたいなものですよ」


「それは一体……」


「明日の夕方にある者が貴方の赤ちゃんの命を奪いに行きます。それから守ってくださいそれを乗り越えれば赤ちゃんは生きながらえるでしょう。何一日頑張ればいいことです」


 それを聞いて幸福から絶望へ突き落された女。アトジに理由を尋ねる。


「そ、それはなぜです?……」


「うふふそれは秘密です。この試練を乗り越えなければその赤ちゃんは今日で死にますねえ」


「ッ! そんな……」


「まあ死者蘇生は難しいんですよ。で、試練を乗りこえますか自分の子を守るために」


 アトジの言葉に赤子の顔を見る。今まで大した幸福はなかったけどこのチャンスを逃したらずっと後悔し続けるだろう。女はそう思い、我が子を守るため覚悟を決めた。


「……乗り越えます。その試練乗り越えますこの子のために」


 アトジに覚悟を伝えながら赤子をなでる。赤子は笑う。そしてあとじも女の回答に笑みを浮かべた。


「では具体的な試練の内容を説明しますね。隠れる場所は暗闇の森の中です。あと管理所に頼ってはなりませんし、この事も内緒です」


 アトジは口に指を当てる。説明に困惑する女。


「暗闇の森に隠れるのは何故です?それに管理所に頼ってはならないのは?…」


「暗闇の森に隠れるのは、人目につかない。管理所に頼ってはならないのは、この事に関わっているからですねえ」


「……そうですか」


 (管理所は頼りにしてはならないか……)


 女は管理所に頼ろうとしていた。しかしアトジの言葉に不可とされてしまい、当てを無くしてしまう。


「ああそれと、この事は出来るだけ他言無用で……」


「わかりました」


「では明日頑張ってください。そして未来を手に入れてください」


 アトジはそれを言うと一瞬の内に消えてしまった。家には女と赤子の二人になった。女は明日乗り越えられると自分を勇気づけ、我が子の未来を手に入れようと考える。だが今は赤子が生きている現実を喜んだ。


 ―――<第二十一話 家族のためなら何でも>


 次の日の夕方、葉月はアサキシに呼ばれて管理所に来ていた。沈んだ顔で所長室に入る葉月。部屋には頭を抱えるアサキシに顔のアトジが居た。部屋に入ってきた葉月に話を始めるアサキシ。


「きたか葉月では話を始めよう。お前には暗闇の森にいる人間の赤子を殺してもらいたい」


「なぜそんなことを!?」


 アサキシの殺人の依頼に葉月は驚き恐怖した。話の内容に驚く葉月とは対照的に、アサキシは冷静で、アトジはただ笑みを浮かべていた。驚き困惑する葉月にアサキシは落ち着くようにとうながす。


「驚くな。アトジはその親に死者を蘇らせるカードを与え、死んだ赤子を甦らした」


「!?」


 アサキシはアトジがそんなカード誰かに渡したことにため息を吐き、葉月は死者が蘇ったことに驚く。そんな二人を見て笑っているアトジ。彼女は誰かが困り、もがく姿を見られればそれで良かった。アサキシは葉月に命令を下す。


「アトジが言うには赤子の命を奪わなければ、そのカードが手に入らないそうだ。私は何としてもそのカードが欲しい、奪いに行ってこい」


「嫌だッ!!」


 葉月は声を荒げて否定する。その態度にアサキシは怒りの表情を見せる。そして苛立ちながら葉月に言い返した。


「嫌だ、だあ? お前は親を甦らしたくないのか」


「それでも…… 赤子を殺すなんて……」


 殺人に動揺する葉月の態度にアサキシはイラつきながらも話を進める。


「人殺しは阿藤でやっただろ。やれ」


「……それは」


「何を迷っている。元々は死んでいた赤子だ。もう一度死なすだけだ。今ここでやらなければお前の親は蘇らんぞ」


「……時間が欲しい」


 殺人と親の蘇生を天秤にかけ、揺れ動く葉月は時間をくれと懇願する、だがアサキシは今ここでの返答を求めた。


「駄目だ。今すぐ行ってこい。アトジが言うには今日殺さなければならないそうだ。それにアトジが死者蘇生のカードの事を明確に話したのは初めてだ。この機会を逃したくはない」


 アサキシはアトジを見る。アトジは愉快に笑っている。それを見てまた、アサキシははため息を吐き、アトジが協力的であったならなと心の中で愚痴る。そんなアサキシに答えを求められて震え声で尋ねる葉月。


「……私以外に」


「私はお前が信頼できる人間か試しているんだ。お前ひとりで殺すんだ」


「…………」


 アサキシの言葉が葉月の心を揺さぶり、体を震わせる。


「今ここで全てを取り戻すか。それとも捨てるかだ」


「…………」


「取りこぼした命が救えるのだぞ」


 その言葉で葉月の頭に死んだ家族の影がちらつく。そして、


「……わかった」


 アサキシの頼みを引き受けた。葉月の答えに目を細めるアサキシに、この後の出来事を楽しみにするあとじ。

「わかればそれでいい。この事は話すなよ」


 アサキシは葉月に釘を刺した。葉月は話を聞き終えると、幽霊の様な足取りで部屋を出た。部屋には二人だけになり、アトジがアサキシに尋ねる。


「貴方が直接始末すればいいのに」


「ばか、赤子殺し何て下品な行いだ。葉月みたいな奴にさせればいいのさ」


「でも、もし失敗したらどうするんです?」


「一応私も隠れて様子をうかがう。こんな時のための狩猟用の道具だ」


 そう言いってアサキシは机の大きな引き出しから、武器を取り出す。それを見てアトジは

「ふーんそうですか。私は楽しければそれでいいですけど」

とつぶやいた。

―――



  葉月は暗闇の森へと向かい歩く。


 (私は屑だ…… 屑だ…… 臆病者だ……)


  心の中で何度も何度も自己嫌悪を繰り返す葉月。しかし歩みは止めない。


 (どうしてこうなったんだろう。私は家に帰ろうとして……)


 あの日の事を彼女は思い返す。寒空の下、家に帰ろうとしたあの日、家族が妖怪に殺された日を。何度も何度も自己嫌悪を繰り返しながら歩いていると、森の入り口にたどり着いた。そして赤子を殺すため森の中に足を進めた。

 森の闇は、まるで葉月の未来を暗示しているかのように深く暗かった。


―――


 時は少し遡り、了と菫の二人は暗闇の森の中に居た。それは昼頃二人のもとにあとじが現れ今回の事を、一方的に伝えて消えたからだ。

 真偽はともかく二人は昼頃から暗闇の森へと赴き、狙われて居る親子を守ろうと駆けまわっていた。


 そして何とか親子を発見し、了と菫は自分たちが守りに来たものだと伝えた。女は疑ったが二人はアトジの事を話した。


 すると女は納得して守ってくれる者がいた事に安堵した。女が居た場所は前に月兎が隠れていた、ひらけていた場所だった。


「しかしよーまじに生き返ったのか」


「はい……」


 菫の疑問に女は答え、腕の中で眠る赤子を見る。


「私はこの子の命を何としても…… 守りたいのです」


「私たちが守ってみせますよ」


 了は安心させる様に言葉を吐く。女は二人に感謝した。


「お二人はなぜ、私なんかのために」


「ん、私はアレだ、むかつく奴が居てだな」


 菫はそっけなく返し、了も女の疑問に答える。


「私は理不尽に命を奪う行為が許せなくて、です」


「そうですか。……本当にありがとうございます。なんとお礼をすれば」


「気にするな。私たちが勝手にやっていることだしな」


「それによー、まだ終わったわけじゃーねーし」


 二人は辺りを警戒しながら返す。吸血鬼の館に避難する考えもできたが、巻き込みたくないという考えと、女が吸血鬼に対し恐怖を抱いていて避難する考えは消えた。それに誰が襲ってくるのか二人は知らなかった。 誰が来るか予想を了に聞く菫。


「誰が来ると思う」


「人狼かな」


 菫の問いにそう答えた。


「人狼ねえ、厄介だな」


 菫は舌打ちし、ズボンのポケットからエルカードを取り出す。了はそれを見て驚いた。なぜならば菫が取り出したエルカードは切花が使用したものだからだ。困惑しながら何故菫が持っているのか尋ねる了。


「何で持ってんの!?」


「幽霊事件あったろ、その時草原に倒れている了の回りに落ちてたんだよ」


 菫が持つエルカードは<ハート><リミットオーバー><バーサーク>で、強力な物だ。


「んでそれを拾い隠してたわけ、アサキシには当然内緒。ラウラとの戦っていたときはエルカードとスーツの調整に間に合わなかったのが悔しい」


「そうか、なるほどなあ」


「んで、このカードをお前にやる」


 菫は<ハート>のエルカードを了に投げ渡す。菫の行動に了は不思議な顔をする。


「なぜこれを? お前が持っとけよ」


「一通り試したところそれは私には合わなかった。私に合うのはこれだ」


 <リミットオーバー>のカードを見せ、<バーサーク>のカードは使いずらいと話す。それを聞いた了は菫の持つカードには危険があることを伝える。


「そのカードは危険だぞ」


「知ってる。一回使ってみたらやばかった。死ぬかと思ったがパワードスーツと相性いいのさ」


「しかしなあやはり、<ハート>のカードは持っていた方が」


「私なんかよりお前の事の方が心配だ。<エンド>のカードが使えないなら別の力で補強しといた方が良いだろ。命の危機に陥り<エンド>のカードを使い結果暴走するなんてことも考えられるしな」


「そうか、ありがと」


「そうさ、もっと感謝しろ」


「ありがとう」


「心を込めてだ」


「込めたつもり」


「あっそ」


 二人は緊張をほぐすため無意味な会話をしばらく続けた。


「……了、私は辺りを回ってみるわ」


「大丈夫か?」


「ああ、すぐ戻ってくる」


 この案を了は承諾し、菫はバイクに乗りこの場を離れた。


―――


 暗闇の森の中を黙々と歩き続ける葉月。

 葉月はこのまま、たどり着かなければいいのにと思いを巡らせた。そんな思いを持つ彼女に聞き覚えのある音、バイクの音が聞こえた。


「もしかしたら…… 菫の奴もアサキシの思惑にのって」


 そう思いあえて音がする方に向かった。もし菫がアサキシの思惑に賛同しているのであれば、多少なりの罪の意識が和らぐと考えたからだ。しかし心の奥底ではそんな考えに至る自分を恥知らずだと思い、自分に殺意が沸いた。

 菫はバイクに乗り、辺りを見ながらゆっくりと進んでいると、葉月を見つけた。どうやらあちらも気づいて近寄ってきた。バイクから降り、葉月と合流した。菫は気さくに話しかける。


「よう、珍しいな葉月。散歩か」


 気さくに話しかけた菫に対し、葉月は沈んだ声で答える。


「違う……」


「なら、もしかして誰かの命を狙いに来たとか…… そうッ例えば赤子何かを」


 菫はニタニタと冗談を話すかのように笑いながら尋ねる。それに対して葉月は菫に目を合わせずに話す。


「そうだ。……お前は違うのか?」


「…………」


 その葉月の言葉で菫から、笑みが消えた。

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