第二十話 かわりのかわり 中編その四
菫は助けてくれた了に驚きながら尋ねる
「どうしてここに」
「お前が帰ってくるのが遅くて心配して見に来たんだ…… こいつが殺しまくっている奴か夕暮れ時の暗殺者か」
怒りの形相でラウラを睨む了。ラウラは地面から起き上がり了と対峙する。了は菫に河童を連れて避難するように伝える。
「私が相手するから、菫は河童を連れて逃げろ」
「わかった。勝てよ了」
そう了を鼓舞し菫は河童を連れ辺りから離れた。
了は殺されたきぬ達を思い浮かべながら、ラウラに尋ねる。
「なぜ多くの者たちを殺した」
「価値が無いから殺した」
「それだけの理由か。恨みつらみは無いのか?」
「ない。殺した奴らは生きていても価値がないから殺した。終わらせてやったんだ」
「貴様ッ!!」
その言葉に激怒し剣を構え襲い掛かる。それに対しラウラはエルカードを発動して対抗する。
<バンディット>
了が持つ<オーガ>のエルカードを奪い発動する。
<オーガ>
ラウラの頭部の装甲を貫き鬼の角が出現。鬼の力で了の攻撃を刀で迎え撃つ。
剣と刀はぶつかり合い、了の剣は折られてしまった。鬼の力を得たラウラは鉄を斬ることが出来るようになったのだ。
了は剣が砕かれたことで追撃を危惧し、空に飛びあがってラウラの間合いから逃げる。空に逃れた了を見て新たなエルカードを発動させるラウラ。
<サンダーバード>
<サンダーバード>のカードは発動すればその身に雷の翼を得る。サンダーバードとはアメリカの部族の間に伝わる雷の翼を持った大きな鷲の姿をした神鳥。ラウラは背にその神鳥の雷の翼を出現させ、了に向かう。空は太陽が沈み月が昇る夜に移り変わっていた。
了も新たにエルカードを使い迎え撃つ。
<アイアン><ドラゴン>
肉体を鉄にし、ガントレットを装備する。
「ハアッ!!」
風の力と水の力で、ウォーターカッターを作り出しラウラを狙う。ウォーターカッターは命中するがパワードスーツの装甲に阻まれダメージを与えることが出来なかった。鬼の力を使いラウラは火をおこし、翼の雷と混ぜ合わせた。
辺りは灼熱の赤と黄色に照らされ、それらの残滓が地上に落ち木々を燃やしていく。ラウラは刀に火と雷を纏わせ、突き刺そうと素早い動きで突撃してきた。
それを了は水の竜巻を発生させ防ごうとするが、火の勢いに水は蒸発され徒労に終わってしまう。了の眼前に刃が迫る。
「やばい!」
<フェイク>
分身をラウラの目の前に出現させ、盾にして攻撃から逃れる了。分身は攻撃をモロに喰らってしまい串刺しになり、火と雷によって炭に変えられた。了の鼻こうに肉の焼けた匂いが漂った。
「ふん」
ラウラは活動を停止した分身から、刀を引き抜き了を見る。その瞳はまるで虫の様な生気が感じられないものだった。そんな彼女は了を追い詰めるため、エルカード発動する。
<ザ・ワン>
<クリティカル>
<ハーフ>
「手札がありすぎるぞ!!」
了はラウラが持つエルカードの数に恐怖した。そんな気持ちをつゆしらず、ラウラは雷と炎をまとい了に突撃。自分の力以上の攻撃に了は反応できず直撃した。直撃した瞬間、了の肉体が弾ける音が辺りに響く
「ゴバァッ」
痛みで口から血へどを吐き吹っ飛ぶ了。了は普通なら地面に叩きつけられるのだが、ラウラはそうさせなかった。
「ハアアアアアア!!」
「ゴブッ!?」
彼女は吹き飛ぶ了に追いつき、空へと背中を蹴り上げた。了は余りの事で対処できない。
了の背中は肉が抉れ落ち背骨が見えていた。空にあげられた了に再び追撃を行う。そして先ほどの様に先回りし、吹き飛ばす。
「ギャアアアアア!!」
了は大量の血と叫びをまき散らしながら、ピンボールの玉の様に何度もラウラに叩き付けられる。しかし了もただ喰らうだけではない。
「分身私を逃がせ……」
<フェイク>
「!!」
再び分身を出して足場にし、ラウラの攻撃から逃れる。ラウラも分身に気がつき攻撃を取りやめ、了を探す。
とうの了はラウラの上空に逃れていた。そして月を背にラウラの無防備な背中に向かって、ウォーターカッターでの攻撃を仕掛ける。水の刃がラウラを襲う寸前に、ラウラは攻撃に気付き、カードが発動。
<ミス>
攻撃はラウラが発動したカードの力で、あらぬ方向に吹き飛び、了の位置を知らせてしまった。
「クソッ」
攻撃が失敗したことに思わず悪態をつく了。そんな了をラウラはゆっくりと振り返り、視界に捕らえた。
「逃げる事は出来るんだな、お前は」
そう了を挑発するラウラ。ラウラの実力は了の上であった。それは了自身もわかっていた。例え体を鉄にした状態であってもあの灼熱の刃は金属の体をものともせず貫き、了を燃やして殺してしまうだろう。
二人が浮かぶ空は黒雲を渦巻き雨を降らせた。それにより星々は姿を隠し辺り一帯はより暗くなり闇を深めた。が、ラウラだけは違う。
エルカードの火と雷の光が彼女をスポットライトの様に照らし出していた。その光景はまるで彼女が世界の中心であるかのように思わせた。それを闇の中で見る了はある決断を下そうとしていた。
(こいつは強い。エンドを使うしかない。だけどそうしたらこいつを殺してしまう)
自身の葛藤が心の中に渦巻く。だがそんな思いは、ラウラの言葉や首が折れたきぬの死体、多くの者たちの犠牲者を思い返して怒りで消え去った。
(こいつはきぬを価値が無いと決めつけて殺したんだ!)
この考えはきぬの死体を頭によぎらせ、了の心の中をどす黒い憎しみと怒りで満たし、力を発動させた。
<エンド>
了の体に青い光がまとわりつく。それを見たラウラは了から奪った<オーガ>のカードを捨て、<ヴァンデッド>のカードを発動した。
<ヴァンデッド>
<エンド>
「!?」
しかし、<ヴァンデッド>のカードは<エンド>の力によって無力と化し、消え去った。カードが効かない事に動揺するラウラに了は冷めたい口調で告げる。
「無駄だ。お前はもう終わりだ。エンドはすべてを無に帰し終わらせる」
その言葉道理にラウラが持つエルカードの力はすべて無力化され、奪った物も使えない状態に変化していた。
それによりラウラから光は消え、姿を闇に隠される。それに対し了は先ほどのラウラの様であった。青い光を身にまとう了だけがこの夜空に輝いていた。
了は砕けた剣を天に掲げると青い閃光が発し、ラウラの体を貫いた。ラウラは虫の様にもがき苦しみ、地に落下。戦いは了が制した。
了は落下したラウラに近づく。
ラウラが山の木々背にし倒れていた。体は青い光の粒となって少しづつ闇に消えてつつある。人形のような目でラウラは自信の死を見つめていた。そんなラウラの目の前に了は立ち問いかける。
「なぜこんなことをした。最後くらい理由を話せ」
「……私が殺した理由は殺すことが役目だったからだ。すべてお前の代わりに殺したんだ」
「私の代わりだと!?」
「そうだ。私は、価値のない奴を殺す役目を果たさないお前の代わりに、世界によって作られた終わりの代行者の代行者だ」
「嘘を言うな!!」
ラウラの言葉に了は動揺し、声を荒げる。それに対し静かに語るラウラ。
「嘘ではない。私はお前の代わりに役目を果たしただけだ」
「お前が被害者たちを価値がないと断じたのは、世界がそう決めたからか!?」
「そうだ。世界は奴らを不要と判断していた」
「そんなことないッ どうにかならなかったのか!?」
その了の言葉でラウラはため息をついた。
「どうにもならない。お前が役目を全うしていたら、私が生まれることは無かった。しかし私が生まれぬと言う事はお前が人間性と人間の心を得ず役目を果たしていること」
「そんな……」
「……どっちにしろ殺された奴たちは終わっていたのさ。私やお前が生まれた時点で。お前は私なんだ」
「私はお前じゃない!! お前なんて!!」
了はラウラの言葉に泣き出しそうな声で叫び否定する。だがラウラは淡々と事実を述べていた。
「私がやったことは、すべて役目から逃げ出したお前の代わりにやったこと。 ……本当はお前がすることだったんだ」
「黙れ!!」
了はラウラに手をかざす。すると青い光がラウラを包み込み、この世から姿を消した。残された了は雨に打たれながら一人たたずむ。
殺されたきぬを思い浮かべる。励ましてくれた少女。殺されてしまった少女。
その少女は殺された、了のかわりによって。それを了は知ってしまった。
了は悲しみと絶望でその場にうずくまって自分を断じた。
「私は生まれるべきではなかった」
その後、菫がうずくまる了を発見し診療所に連れていった。そしてラウラの最後を聞き出し、アサキシに伝えた。
―――
数日後
菫は手に果物や了が好きな食べ物をもって診療所に来ていた。
了がショックを受け傷心状態としり、励ましてやろうとしたのだ。
「元気が出てくればいいが」
そう思いながら、了がいる病室の扉を開けた。
「了?」
だが、部屋には了は居ず、白くて綺麗なベッドと皺一つないシーツだけであった。




