第二十話 かわりのかわり 前編
小雨が降る夕方、人里のある一軒家にて灰色のジャケットを着た褐色の女が冷たい目で座り込んでいる男を見つめていた。
男の隣には目の前にいる女に殺された妻子が転がっていた。男はなぜこうなってしまったのかわからなかった。わかるのは突如、女が上がり込み妻子を殺したことだ。
何とか妻子を守ろうとしたが、女は強くどうしようもできなかった。周りに助けを求めようとしても、恐怖で声が出ない、周りの音が聞こえない。死の恐怖による錯乱状態。
「何で……」
男は女に自分の運命に困惑をふくめた声で尋ねようとしたが、女は答えず男を妻子同様に首を絞め殺した。その動きは機械の様に早く正確で、首を掴み殺した。ごきりと骨が折れた音が部屋に響いた。
「…………」
女は男が死んだことを確かめ、何事もなかったかのように家を出る。外の雨は止み、星々が美しく輝く夜になっていた。その時、女の近くから声がした。
「こんにちわァ」
「…………」
女が声の方に振り替えるとそこに居たのは、黒いジャケット着た少女アトジだった。アトジは女に優しく話しかける。
「私と似たような存在を感じて来てみたんですがぁ」
「アトジか……」
「あら私の事ご存じなんですね。あなた私と同じ『代行者』何でしょう? そのジャケットを着ているというわけは?」
そう言って女の灰色のジャケットを指さす。アトジの問いかけに女は頷く。
「そうだ。お前と同じ代行者。我が名はラウラ」
「ラウラさんですね。ラウラさん。貴方は一体何の代行者なんですか?貴方の役目は?」
「私は正確には代行者ではない。私は―――」
ラウラは自分の正体を話し、それを聞いたアトジは大声を上げて笑った。
「アッハハハ。そうなんですかァ、全くご苦労様です。なるほどね…… もしかして私も?」
「アトジはちゃんとやっているから」
「そうですか。……あなたに会えてよかったですよ。そうだ貴方に力をあたえましょう!」
彼女は何もない空間からエルカード取り出し、ラウラに渡した。ラウラは頭を下げ礼を言う。
「感謝する」
「いえいえ、お仕事頑張ってくださいね」
ラウラに応援の言葉をかけて、アトジはこの場から煙の様に消えた。
―――<第二十話 かわりのかわり>
人里にある甘味処の店の前にある長椅子に座り、了はうなだれていた。
「アサキシの元を離れたのはいいが、今後の生活どうしよう。しかも……」
隣にある団子をみる。今の了は力の代償で食欲というものが無かったが、以前の癖で団子を頼んでしまった
「この団子どうしようか ……ん?」
困っている了を見る者がいた。了はその者の視線に気がつき、そちらに顔を向ける。
そこには鳥の刺繍をあしらった着物をきた少女がいた。子供は了が気がついたのに気付き、話しかける。
「姉ちゃんダンゴ食べないの?」
「うん。代わりに食ってくれないか」
「いいの本当に?」
「いいさ。隣に座って食べな」
了は優しく促し、少女はニコニコ笑顔で座り団子を頬張った。
「おいしい!」
「ここの団子はうまいからなあ」
了は団子を食べる少女を羨ましく見た。もう自分は食べることができないから。
「どうしたの、やっぱ食べたかった?」
了の顔見てそう尋ねる少女。それを首をふって否定する了。
「いやいいんだ。私は食べることが出来ないから」
「なんで、できないの?」
「色々あって出来なくなった。前は食べれたんだがなぁ」
そう寂しげにつぶやくと少女が憐れんだ。
「お姉さんかわいそうだね」
「別に平気さ、私の代わりに食ってくれ。他にも食べたいのがあれば言いな。おごってあげる」
「やった! ありがとうお姉さん ……あとで何か言わない?」
「いわんいわん。遠慮無く頼み」
了のその言葉に少女は店員よび多く頼んだそれを見た了はちゃんと食えるのかと尋ねると、少女はにっこりと笑い食べれるよと言った。そのとおり出されたもの甘味はすべて食した。
「くったくった」
そう言いながら彼女は腹をさすった。
「おいしかったか?」
「うん。おごってくれてありがとう。なんかおごってもらってたくさん食べてごめんね」
「いいさ、気にするなって」
「うーんでも、おごってくれて何もしないのはなぁ。そうだ何か困ってることない!」
「……しいて言えば元気がない。かな」
「元気がない? なんでないの?」
「まあいろいろあって」
「話してみてよ。 ……つーかおごってもらったのに自己紹介もまだだったね」
「私の名前は了だよ。君は?」
「私の名前はきぬ」
「いい名前だね」
「うふふ、ありがとうねぇ。よし自己紹介もしたし聞くね。何で元気がないの?」
「実はさ、私の恩人がとんでもない悪人で、友人を悲しましているんだよ。そしてその恩人は自分のためだけにこれからも多くの悪事を行うと思うんだ」
「それはとても悲しいことね。恩人が悪い人だったなんて」
「うん。私はそれを知ったとき私の心の中がグチャグチャになった。怒りと悲しみで……どうしてそんなことをするんだろうて」
話をしていてうなだれる了。そんな彼女に優しく問いかけるきぬ。
「その人の事を今どう思っているの?」
「私はその人の事は良い奴だと信じたい。悪人だと分かっても ……綺麗ごとだよな」
「いいじゃん綺麗ごとで良いじゃん」
「……どうしてそう思う?」
「現実だけ見ても明日は生きれないから。希望を持たなくちゃ」
「希望?」
きぬの言葉に首を傾げる了。そんな了にきぬは優しく語る。
「そう了が信じたいならそれでいいと思うの」
「でもそうじゃなかったら?」
「その時はその人を体を張って止めるの。そして話し合うの」
「でもそれは」
その言葉に了は少女の顔をみる。きぬは笑っていた。
「やってみなくちゃわからないよ。世の中心の底から悪い人はいないと私は思うし」
その言葉に了はアサキシと過ごした日々をを思い出す。アサキシとの日々は悲しいものではなく、了にとって良きものだった。
(アサキシは自分に人の善の心と人間性を与えた。彼女は否定したが、善良な心があると思いたい)
そう考え了はきぬに伝える。
「……きぬの言う通りだ。私信じてみるよ。綺麗ごとかもしれないけど、希望をもって頑張ってみるよ」
「そっか。私は話相手になれた?]
「ああ。きぬ相談に乗ってくれてありがとう」
頭を下げ感謝を述べた。それにきぬは恥ずかしそうに笑う。そんな彼女に了は尋ねる。
「よし。きぬ何かしたいことは無いか! 出来る事なら叶えてやるぞ」
「ん~じゃあ空を飛びたい。なんちゃって」
了の突然の言葉に冗談交じりに答えた。それに対して、まかせておけといわんばかりに、
「わかった。エルカード発動!」
了はエルカードを発動させた。
<グリフォン>
了の背中に翼が出現。それを見たきぬは大きな声をあげて驚く。
「何それ何それ!?」
「エルカードで生やしたのさ。さあ空を飛びたいんだろう。私の手を握って」
手を差し伸べると少女は喜んで手を掴み了に身を委ねた。
「良し飛ぶぞ」
二人は快晴の空を夕方になるまで飛びまわった。二人とも笑顔だった。
夕方になり、二人は元の甘味処の前に降り立った。きぬは興奮しながら礼を言う。
「了すっごいよかった! 楽しかった!」
「喜んでもらえてなにより」
「明日もお願いしていい?」
「いいよ」
「本当に? やった!」
きぬの喜ぶ姿をみて了はやってよかったと心の底から思った。
「それじゃあ私帰るね夕方だし、親が心配しちゃう。また明日ね了!」
「ああまた明日。話を聞いてくれて本当にありがとう。会えてよかった」
「大げさだよ。うふふふ」
了の言葉にきぬは笑いながら家に帰っていった。甘味処に一人になり了は呟く。
「信じてやってみるよ」
―――
「ただいまー」
きぬはさめやらぬ興奮で勢いよく家の扉をあけた。
「あれ、お客さん?」
扉を開けた先には銀髪で灰色のジャケット着た褐色の肌の女、ラウラが立っていた。ラウラはきぬに告げる。
「お前に価値は無い」
「え」
きぬが言葉に動揺した瞬間、ラウラはきぬの首を掴みへし折った。きぬは首を折られ絶命。体は支えを失ってかのように床に倒れた。
そんなきぬが最後に見たものは、部屋の隅で血を流して死んでいる両親の姿だった。
次の日
「遅いな」
了はずっと甘味処で待っていた。きぬが死んだことを知るのはこの日の夕方であった。
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