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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
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第十九話 了と葉月

 ―――<第十九話 了と葉月>


 アサキシの件から数日が立ち、了は呉服屋に行き、葉月を改めて尋ねた。葉月は服のお整理をしていた。店内で服の整理をしている葉月を見つけ声をかける。

「よう葉月」


「……了か」


 返事をする葉月の顔は暗く、元気がない。


「お前がと話がしたい。少しいいか?」


「いいよ。店の裏に来い」


 葉月は仕事の手を止め了と一緒に店の裏に行く。

 店の裏は梱包された箱が積まれていたり、酒ビンが転がっていた。また建物が日光を遮り、薄暗く冷たい空気が漂っていた。葉月は建物の壁に背を預けながら了に尋ねる。


「話とは何」


「昨日アサキシの家で何かあったか」


「……部下になれと言われた」


 了の言葉に暗い顔をし答えた。それに驚き目を見開く了。


「!! それでどうした。承諾したのか!?」

 

「ああ、した」


「なんで…… お前の苦しみの元凶だろう」


 葉月は後ろめたさを感じて、了の目を見ずに話す。


「奴の下につけば奴が…… 私の家族を、死んだ家族を生き返らせてくれるんだ」


 か細い声で答える。その言葉に驚く了。


「何だって!? アサキシにそんな力が」


「力を持つのはエルカードだ。それに奴にはアトジがついている。可能性はあるんだ……」

 

「アトジの狂言かもしれないし、アサキシの嘘かも知れない。本当だとしてもアサキシが約束を守る確証もないぞ」


「だとしても!! 私はお父さんとお母さんにもう一度会いたいんだ」


 了の言葉に大声で涙を目に浮かべながら葉月は答えた。そして息苦しそうに話す。


「それに私が、アサキシの提案を蹴ったら家族を見捨てたことになる」


「……そんなことは」


「家族が居ないお前にはわからないだろうな」


「…………」


 その言葉に了は悲しくなり何も言えなくなった。了の沈黙に葉月は自らの言葉の過ちに謝罪する。


「……ごめん言い過ぎた」


「いいよ……」


 葉月は話を変えようとあることを尋ねる。


「了が 人間じゃないなんてな」


「ああ、そうだ。黙っていて悪かった」

 そう言いながら、頭を下げる了。


「謝る事じゃないだろ。前に了に誰かを殺したりしない理由を聞いたが、それは自分が代行者だからなのか?」


「うん…… 私はこの世界で生きるのにあたって人間の心と人間性を知った。そして終わりの代行者としての存在が嫌になり」


「今のような人になったのか」


「そうだ。私は人の心と人間性を持って人になれて良かったと思う」


その言葉に疑問に思い、目を了に向けて聞く葉月。


「それがアサキシの都合でもか? お前はアサキシによって都合のよい存在にされたのかも知れないんだぞ」


 その言葉に了は目を細め答える。


「たしかに人の心と人間性を持ったことで、自分の力を嫌悪し封じることにした。だけども良いんだ、私はこれが良いと思ったんだ。裏があったとしても」


「……人間の心と人間性を持ちたいと思えるきっかけでもあったのか」


「ああ二つ程な。一つは困っている人を助けたら、感謝されたんだ。私は終わりの代行者として感謝されたことは無かった。誰かを傷つけるだけだからだ。でも終わりの力を使わずに生きたら感謝されたんだ」


 了は顔を上げ空を見ながら語る。


「そうして私は人に興味を持ち知っていこうとしたんだ。そうして知るたびに終わりや無を与える事はとても罪深い事じゃないかと思い始めたんだ。そうして二つ目のきっかけに出会った」


「それはどんなのだ」


「罪人と会ったことでだ。その罪人は金に困り多くの家に盗みに入ったんだ。終わりの代行者である私から見たら、価値のない消してもいい存在だった」


「消してもいい存在か……」


(アサキシも価値の無い、消していい存在だと判断して多くの者達を殺したのかな)


 消してもいい存在という言葉に、葉月はアサキシに殺された犠牲者たちの事を思い浮かべた。葉月の思考をよそに了の話は続く。


「んでそいつは捕まり、私はそいつを消そうとした。すると被害者たちから罪人に対し猶予をやってくれと私に対し嘆願した。私はそれを不思議と思いながらも承諾し見守った」


「それで猶予を与えられた罪人はどうしたんだ?」


「罪人は自身の行いを恥じ、罪と向き合い更生した。それで被害者たちも罪人を許し人の輪の中に迎え入れた。その後、罪人はそれ以上罪を犯さずまっとうに生きた」


「罪を悔いたのか」


「ああ、それを見て終わりの代行者としてやってきたことは、残酷なことじゃないのかと思ったんだ」

その言葉とともに了は自分の手のひらに顔を向けた。


「代行者のときは迷いは無かったのか?」


 葉月の疑問に対して 悲しげに答える。


「無かった。代行者として生きていたときは、更生の機会も与えず相手の有無を言わさず殺して終わらせていた。……私は代行者としての自分が嫌になり人にあこがれた」


「その二つのきっかけが了に、人間の心と人間性を与えたのか」


「ああ、おかげで今みたいに人の様に生きていられる」


(人はそんなにいいものじゃない。了は人を良い存在と夢を見過ぎている)


 了の話を聞いて葉月は内心そう思った。


 (罪人のことも他の者に全て当てはまることではない。人が良い存在ならアサキシはどうしてあんなことをしたのだろう。私もムクや了に酷い事をした、自分勝手な理由で…… 人でない了やムクが良い奴なのに、人である私は)


 そう思考し、ある考えがよぎる。それは人とは何を指して人なのかというのものだった。


(もしかしたら化け物とは私やアサキシといった善を知りながら悪をおこなう者の事ではないのか? ならば善を知り悪をおこなわない者が人なのか。それなら了の言う人というものは良い存在だろう)


「……菫の奴に昨日の事を話したのか」


 葉月は考えを頭の隅に置いておき、了に尋ねる。


「ああ、私が家に行き話した」


 了は葉月に家を向けて答えた。


「なんて言っていた」


「知ってしまったのか、と」


 その言葉で葉月の脳裏に菫の言動が想起されて、菫のアサキシに対する嫌悪の意味を悟った。


「そうか、なるほど。真実を知っている者ならアサキシを嫌うし今の平和を乱す者を容赦なく叩くよな。だから今まであんな言動を。……菫は平和を守るため、陽気にふるまって 真実を喋らなかったんだな」


 菫に対して申し訳なさを感じてしまう葉月。そして菫の過去の言葉を思い返した。


(思えば月での封魔に対しての言葉は当たっているのかも知れない。誰かに騙され凶器を振り回す者達。真実を知っている者からしたら、滑稽で哀れな存在だ。さらに哀れなのは平和になった今でも妖怪に対し復讐心を捨てきれなかった私と阿藤さん)


 葉月は更に考え込んでしまう。


(暦は戦うことをやめて正しかった。菫の奴は私に対して、妖怪を憎むのをやめろと言っていた。それを私に話したのは意味のない事だと知っていたからだ。復讐をやめるように言っていたのは妖怪も被害者だからか)


 そう考えかつての自分の言葉を思い出す葉月。


(ミヅクさんに何も終わっていない。死んだ者たちは何だったんだと言った。だけど何もかも初めから終わっていて、死んだ者たちは……)


 『無価値』


 そう葉月が思う前に、


「どうした葉月? 考え込んで」


 了が話しかけた。もし葉月がこのまま思考を続けていたら、葉月の心の中にどす黒い負の感情が生まれていただろう。葉月は何もないかのように表情を取り繕って答える。


「何でもない。 ……了も菫もすごいな誰かを思い行動していたなんて。それに比べ私は」

 

「葉月、自分を下げるな。お前は何も」

 

「悪い。もう仕事に戻らないと」


 葉月は了の慰めの言葉を遮り、仕事へ戻ろうと了に背をむけた。そんな葉月に了は言葉を伝える。


「困ったら私に相談してくれ! 力になるから!」


「……ありがとう」


 背を向けながら礼を言って葉月は仕事に戻った。

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