第二話 剣と被害者 前編
―――5年前の秋
冬の到来が間近であると感じさせる枯れ葉が舞う夕暮れの寒空の下、家に向かって少女がニコニコと歩いていた。
名は葉月という。友達との遊びから帰る途中だ。遊び疲れから足取りは緩やかである。
「楽しかったな」
鬼ごっこ、かくれんぼ、ままごと、今日のことを振り返りそうつぶやく。
「今、私は幸せなんだろうなぁ」
ふと立ち止まりそんな風に考えた。この世界は「夢幻界」と呼ばれ妖怪や狂人、災害が襲ってくる。そのため家族や親しき友人を亡くす者が多くいる。その上、今妖怪の行動が活発になっており、そのせいで多くの人命が失われている。
そんな中、葉月には家族がいて、生きている。帰る家がある。それはとても幸せなことだ。葉月は家族のことを考えてたら寂しくなり、立ち止まるの止めて向かい風が吹く道を走った。
もうすぐ葉月にとって長い冬がやってくる―――
―――<第三話 剣と被害者>
夜中、了は買ったばかりの布団に包まれながら幸せそうに眠っていた。しかし、
ドンッドンッドンッ
夜中の突然の訪問者にたたき起こされた。了は何なんだ、こんな時間によと苛立ち頭をかきながらも起き上がって扉を開ける。
「助けて……」
扉を開けると、着物にマフラーを纏った黒髪でボブカットの女性が、背から血を流し助けを求めていた。了は驚愕し、「おいどうした!!」と尋ねる。すると相手は「何者かに襲われて」、と答えた。そんな夜中の訪問者は人が居た安心感からか気を失ってしまった。
「何なんだ?」
了は突然の出来事にただ困惑しながらも、傷の手当てを行った。
―――朝
「ここは…… どこ?」
了の家に来た女は窓から入ってくる日差しと鳥のさえずりによって目を覚まし、どこだここはと思いながら、自分の身を確認した。
そして体に包帯が巻かれているのに気がつき、誰かに助けられたことを知った。すると、
「おっ気が付いたか」
「わあッ!?」
窓から了が顔出し女に声をかけた。女は驚いて声を上げた。
「おっと驚かしてすまん、辺りを監視していたんだ」
そう言うと顔ひっこめ、扉から入った。入ってきた了の目にはくまができていた。了は女を治療して、夜通し警護していたのだ。了は女の前に座り話しかける。
「いやー怪我人が急に現れて驚いたぜ」
「あんたが私を助けてくれたのか?」
女は自身にまかれた包帯を見ながら尋ねる。
「そうだ。その調子じゃ大丈夫そうかな、私は名は了。あんたは?」
座布団を敷いて座り挨拶をする彼女。それにつられ女も述べる。
「私はムク。ろくろ首の妖怪だ。助けてくれて本当にありがとう……」
命の恩人に心からの感謝を伝えた。それに照れて顔赤くする了。
そんな了は感謝された恥ずかしさからか話を変える。
「えっとあっ! 手当てするときにマフラー外したら首が無くて驚いたよ」
「うふふ、ろくろ首の妖怪だもん」
ムクは了が驚いたと知り、妖怪としてつい嬉しくなった。妖怪は人を驚かしたり恐怖させたりすることで、力を得る存在だからだ。
ニコニコ笑顔でマフラーを触りながら話すムク。
「普段は首がないのをマフラーで隠してるの」
「ろくろ首の妖怪て首が長い奴だけかと思ってた」
「2種類いるのさ。首が無いやつと長いやつ、私は無いやつ先祖が飛頭蛮なの」
了はそれを聞き納得し、怪我のワケを尋ねた。
「しかしなぜ怪我をしてたんだ? 何かあったのか」
「ああ、そうだ。昨日誰かに斬り付けられたんだ」
思い出し背に手を当てるムク。
眠りから目覚め彼女はすっかり忘れていた。ムクの言葉を聞いた了は険しい目に変わる。
「何、詳しく教えてくれないか」
「私は普段人里で働いているんだ。仕事が終わり呉服屋の店員の友人と会ったりして、その後、家に帰ろうと暗闇の森に通じる道を歩いていたんだ。すると急に鋭い痛みが背中に走ってふりむいたら……」
昨日の事を思い出しムクは恐怖で体が震えた。了は無理しなくてもいいと言うが、彼女は話を続ける。
「狐の仮面で顔を隠し刀を持った奴がいたんだ。妖怪の力は感じられなかった。たぶん人だと思う」
話を了は黙って聞き、犯人の正体を考える。
「何とか反撃しようとしたけど……ソイツ強くてさ。また斬られて、痛みで気絶したんだ」
その後、夜に目覚め意識が朦朧としながら助けを求め、了の家についた。話を聞いた了はムクに、襲われた心当たりはあるか尋ねる
「大変だったなそれは、しかし人に斬り付けられるなんて人を傷つけたり、襲ったりしたか?」
「そんなことしてない!」
しかしムクは了の言葉を強く否定した。
「人里で働いている時や、買い物するときは脅かさない様マフラーで首を隠している。あんただって知っているだろ、人里で働けたり住めたりできる妖怪は善良な奴だけだって……」
ムクの言葉を聞いた了は、それもそうだと肯定する。ムクが語ったことは誰もが知っていることだった。
「そりゃ私も妖怪だし人を驚かしたりするけど、傷つけたり、ましてや殺めたりしないよ」
自分が襲われたことに彼女は疑問の念が大きくうなだれた。
「……そうか、ところで体の調子はどうだ。妖怪だろう、傷もう治ったんじゃないか」
了に言われ、傷に手をあてる。彼女の体に鋭い痛みが走った。そして声を上げて困惑した。
「あれなんで! 妖怪なのに!?」
妖怪は人と違い回復力の差が違う。人にとって重症でも妖怪であれば2日もあれば全快する。だが傷はそれ以前に血がにじみ出ていた。それを知った了は少し考え口を開く。
「犯人の目星がついたかも知れない……」
「なんだって!」
ムクは誰なんだとまくし立てる。そんなムクに了は犯人は『封魔』の者だと告げた。それを聞き、彼女は恐怖で青ざめた。
「…… そんな、私は何もしていない。第一に封魔は解散したはずだろう」
「ムクの治らない傷。妖怪に対してそんな風にできるのは、霊力を操る封魔の者だ。犯人が人だと考慮してだした考えだ」
『封魔』とは
妖怪と人間の争いにおいて人間を守るために設立された組織で霊力と呼ばれる力を持ちいて戦う。
霊力は人外や妖怪にとって弱点で、霊力を帯びた武器で攻撃されると人以上に傷つく。
そんな封魔は夢幻界に『大災害』が起きて人間と妖怪の争いが終結。人間と妖怪が和解したため解散となった。
「しかしなぜ封魔はお前を襲ったんだ。封魔は良い妖怪を退治しないと聞いているが」
了が考え込んでいる中、ムクはある考えを口に出した。
「決めた。襲った人と会って話をする。なんでそんなことをしたのかを聞く」
「何言ってんだ!? 命が狙われたんだぞ!」
彼女はその言葉を聞き困惑した。マフラーに刺し傷があった。もし首が無ければ死んでいただろう。
しかしムクは覚悟の言葉を語る。
「それでも、何もしてないのに襲われたんだ。人里と関わりを持つ妖怪が今後狙われるかも知れない。私の友人も人里で働いている。だから襲った人とあって話がしたい」
「死ぬかも知れないぞ……」
「それでも」
ムクの覚悟の言葉を聞いて、了は手を組んで考えて口を開いた
「そうかなら、私にも手伝わせてくれ」
会ったばかりの了の言葉に戸惑うムク。
「私を助けても何もならないよ。それに命を助けてもらった了に危険な目に合わせるのは……」
「ムクみたいな良い奴をほおっておけないよ。それに傷も治っていないだろ、だから手伝わせてくれ」
「でも……」
「頼むよ」
了の言葉に少し考え込み、ムクこちらこそ頼むと承諾。その言葉に了は感謝した。話を終えてムクはあることに気がつき、ハッとしてしまう。
「そう言えば襲った人にどうやって会えばいいんだ?」
「それについていい考えがある。任せておけ」
作戦内容を話す了。それを聞いたムクは不安になった。
「いけるかなぁ?」
「大丈夫でしょ、作戦は明日行う。薬でも塗って明日に備えるぞ」
「わかった」
「私は寝る」
了はムクに塗り薬を渡し、疲れから横になって寝た。
次の日、ムクは人里にいた。里には多くの人が行き渡っており、中には妖怪も存在した。平和はそのものだった。彼女は朝から昼までロウソク屋で働き、昼ごろには呉服屋にいた。そこで働く友人の葉月と話をしたりして、平和な日常を送っていた。
そんなムクの様子を少し離れた所で了が隠れて見守っていた。ムクは襲われた日と同じ行動をしていたのだ。
了が立てた作戦はムクが無事であることをアピールして、襲った者をおびき出すものだ。
「今のところ何もないな」
了は少し安心したが周囲の警戒を怠らなかった。
夕方、ムクが人里を出て暗闇の森に続く道をうつむきながら歩いていた。すると
「これはッ……」
道の端に血の跡がある事に気がついた。そして辺りを見渡し、自分が襲われた場所だと気づいた。 彼女は血の跡を見て襲われたときの事を思い出し血の気が引いた。そんな時、
「やあ」
ふと誰かに声をかけられた。彼女は驚き顔を上げ周囲を見渡す。
道の横に並ぶ木々に背負を預けている人が居た。背丈は小さく髪はポニーテール。鮮やかな青の袴を着て顔を隠すように狐の仮面をつけていた。ムクは眼を見開いた。
相手は刀を持ち、なおかつ襲ってきた者と同じ狐の仮面をしていたのだ。それがわかり恐怖で体震え、動揺した。そんな様子を見て仮面の人間は笑う。
「どうしたんだ。恐ろしい者を見たって感じだけど」
「あ、あんたが昨日私を襲った奴か」
ムクの問いかけに相手は平然と答えた。
「そうだ。顔を隠してたせいかうまく切れなかったか。念のため首を刺したんだがなあ、なぜ生きてるのかな?」
「私は首のない妖怪だ。そんなことよりなぜ襲った! 誰かと勘違いしてないか」
震え声で相手に無実を訴える。
「何もしていない……」
しかし、相手は訴えを聞いて、大声で笑った。それにムクは不快感を示した。
「何がおかしい……」
「妖怪なんているだけで害。存在しているだけで罪だ。襲った理由はそれだけだ」
相手はそう言いきった。余りにも酷い理由にムクは言葉を失った。
「今日は仮面をとるよ、確実に仕留めるためにね」
そう言って仮面を取り外した。現れたのは若く花の様な愛らさを持つ少女であった。その顔にムクは見覚えがあり、名を呼ぶ。
「葉月……」
「そうさ、呉服屋で働いているあんたの友人のね」
「……嘘だそんなの」
相手の正体が友人であることに、彼女は信じられず、頭が真っ白になった。
「ムクのこと人間だと思ってたんだがある日、気付いたんだ。かすかな妖気で妖怪だって事にね。気付いた時は人に紛れて何かしないかと冷や冷やしたよ」
そんな葉月の言葉に思わず、ムクは涙し言葉を口にしようとする。
「私は妖怪だ。だけど人間と仲良く……」
しかし辛くて、これ以上の言葉はでなかった。
「……それが最後の言葉でいいな」
葉月は刀を構えムクを見据える。ムクは精神的ショックで動けなかった。葉月の殺意がムクに向けられたそんな中、第三者の声が響く。
「言い分けないだろ」
「!!」
「!!」
二人は第三者の声に驚き、そちらに顔を向ける。そこには了がいた。了は葉月に向かい話しかける。
「話を聞いていたが、ムクはアンタのこと友人だと思っていたんだぜ。その上、妖怪はいるだけで罪だとかいってさ。あんた刀を向ける相手が違うぜ」
それを聞いた葉月は殺気がこもった声で言い返す。
「なんだお前。そこの化け物をかばうつもりか?」
「その通り、それに彼女は化け物じゃないムクだ」
「ならばお前から斬ってやる。化け物をかばう奴なんてロクなやつじゃないからな!!」
そう告げ了に刀と敵意を向けた。了もカードを取り出し戦闘態勢に入る。辺りは緊迫した空気に包まれた。
「死ね!!」
相手は了に対し、素早い動きで上段斬りを仕掛けた。それと同時に了はカードを発動。
<アイアン>
自分の体を鉄の様にし、刀を片腕で受け止め様とする。刀は鉄を斬れないそう考えてた。しかしそうではなかった。腕は切断とはいかなかったものの、深く斬られてしまう。それに了は驚いた。
「何ッ!?」
「なにを驚いているッ!!」
驚く了に構わず、葉月は追撃を仕掛ける。その攻撃を紙一重で避けて了は距離を取った。斬撃を避けれたものの、了の心中は穏やかではない。
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