第十六話 真実の影
―――<第十六話 真実の影>
夢幻界。人里には出版社が存在していて、中でも有名なのは『人妖風説社』である。この出版社はその名の通り、人間と妖怪が共同して本や週刊誌、新聞に広告などを作成している。
この出版社は大災害後に建てられ、人間と妖怪が共に働いた。そのことで人間と妖怪の歩み寄りの象徴とされている。そんな出版社の難点は内容をわざと大げさにすることである。
その人妖風説社の編集室は多くの人や狐、犬、兎といった獣耳を生やした妖怪が机に向かい、タイプライターを叩いたり、紙に文字を書いていた。多くの者の机は紙にあふれていた。その編集室の編集長が手持無沙汰な記者に頼みごとをしようとしていた。
「オーイ恵みこっち来い仕事がある」
「なんすか、暇なんでイイですけど」
恵みと呼ばれた記者は自身の机から離れ、編集長のそばに行く。恵みは茶色の上着にベレー帽をかぶった人間の少女である。年は一五歳。やってきた恵みに仕事の内容を話す編集長。
「恵み、暗闇の森にいる吸血鬼への取材やってくれないか」
「え~、吸血鬼ですよ。しかも青月事件を起こした相手です。危険はやだなあ」
彼女はベレー帽を外し頭をかく素振りをする。危険を感じ編集長に仕事を断ろうとするが、その考えは読まれていた。
「安心しろ、護衛を頼んである。最近あった管理所襲撃事件の犯人を倒した人だ」
「へー怖い人なんすか」
「お前と同じ年ごろの少女だ。その人の家までの地図を渡すから合流してくれ」
「へえ私と同い年。わかりましたあ」
恵みは地図を受け取り出口に向かって足を運ぶ。
(同じ年頃だって。護衛として務まるのかな)
彼女はそんな思いを抱きながらも頼みごとを受けた。心のどこかで恵みは日々の幸せで退屈な日常に少しだけうんざりしていたのだ。
つい最近起きた、幽霊が溢れ出した事件も対して害は無く、平和な日々として過ぎ去った。故に彼女は
少しのスリリングさは良いことだと思っていた。
―――
「ここかあ」
恵みは小さな木造建築の家の目の前にいた。家を見て彼女は不安になった。
(この家少しボロイな、大丈夫か? いやしかしな編集長が選んだ人だもんなあ、変な人じゃないよあ)
彼女はそんな気持ちを押し込んで木の扉にノックする。
「すみませーん、もしもーし」
「……何だお前」
威圧的な声と共に中から現れたのは、青い袴をきたポニーテールをした美少女、葉月だった。彼女の目にはくまが出来ていた。恵みは相手の威圧的な対応に怯えながらも笑顔で対応する。
「あの~護衛を頼んだ出版社の者ですけど」
「そうか、そんなの受けてたな。少し待て身支度する」
葉月はそう言い家の中に戻る。恵みの眼に一瞬だが、葉月の家の中が見えた。家の中は酒びんらしきものが転がっていた。
(あれてるなあ)
恵みがそう思い待っていると葉月は刀を携え戻ってきた。葉月の持つ刀をみて恵みは恐怖で少し緊張した。しかしなんとか顔には出さず平静を保った。そんな恵みに葉月は詫びを入れる。
「待たせてすまんな」
「いえいえ大丈夫です。では行きましょう」
その言葉で二人は吸血鬼の館に向かって歩き出した。
―――
暗闇の森、吸血鬼の館へ向う道中。
(気まずい……)
先ほどから現在に至るまで葉月は、一言も発さず黙々と恵みの前を歩いていた。二人の間に足音だけ響く。恵みは葉月との間に流れている空気を換えるため、自己紹介をはじめた
「えっと、私の名前は恵みと言います。新米記者をやってます。貴方のお名前とご職業は?」
(緊張して丁寧な口調になってしまった。だって同い年ぽいのに怖い感じするし……)
それを聞いて、葉月は足を止めることなくだが恵みの言葉に反応した。
「私の名は葉月。普段は呉服屋で働いている」
(返答してくれた! 意外といい人かもしれない。思い切っていくつか質問してみよっかな。記者として)
彼女は葉月の返事を聞いて気を良くし、ペンを持ちながら尋ねる。
「そうですか。刀を持ち護衛を承るほどの技量はどこで習得なさったんですか」
「……封魔に居た頃に」
(封魔、確か妖怪から人を守るためできた組織。でも前に解散したんだっけ)
「そうですか、大変でしたね」
「大変なのは今も変わりないよ」
葉月は沈んだ声で返答する。恵みはまずいと感じ話を逸らす。
「ええっと、普段呉服屋で働いていらっしゃるのにどうして護衛を?」
「気分を変えるため。最近辛いことがあってね」
「そうですか」
「あんたはどうなんだ。毎日が幸せか?」
「はい特に不幸な目にも合わず幸せですね。あーでも最近は少し退屈してたかも雑用ばっかで」
「そうか、退屈でも幸せならそれに越したことはない」
「そうですかねえ?」
「そうさ。そろそろつくぞ」
二人は大きな西洋の館に前にたどり着いた。庭は美しく、噴水まであった。恵みは吸血鬼がボロイ所に住んでいると思っていたので面食らった。葉月は扉の前に行き扉を叩く。ギイイと音をたてて扉が開いた。
中から現れたのは包帯を巻いたメイド、ディナであった。
「何か御用でしょうか?」
「こいつが吸血鬼に取材したいとさ」
葉月は恵みを指さす。恵みはメイドの風体にビビりながらも前に出る。
「そ、そうです。お願いします」
メイドは彼女が動揺してるのに気づいたか、優しい笑みを浮かべた。
「お嬢様にごようですね。わかりました、少しお待ちを」
メイドは奥へ戻り、再び現れた。取材する恵みだが、いざ館につくと吸血鬼に対する恐怖で会いたくない気持ちが湧き出てきた。
「お嬢様が良いとおしゃっられました。どうぞ中にお入りください」
「ありがとうございます」
二人は歓迎され、メイドに案内してもらう。屋敷の中は美しい装飾品や高そうな絵画らしきものあった。恵みはそれを見て、はしゃぎとても羨ましいと思った。
「どうぞこちらにいらっしゃいます」
メイドが二人に案内したのはベランダであった。ベランダにはパラソルをつけたガラステーブルがあり、その椅子にステンドガラスの様な美しい翼を速し、西洋のドレスを身にまとった美女ブルーと、白いジャケットにスカートをはいた黒髪のショートカットの美少女の了が何やら話をしてた。メイドはブルーに恵みたちを連れてきたことを伝える。
「お嬢様、お客様です」
「む来たか。私の名はブルー、吸血鬼だ。ついでにこのメイドはディナ」
「ディナでございます」
ブルーにディナと呼ばれたメイドは恵みたちに改まって会釈する。
「私の名前は恵みといいます。本日はどうぞよろしくお願いいます」
「私は護衛の葉月だ…… 了は何故ここにいる」
葉月の言葉に反応する了。
「私はブルーと世間話をしてただけさ。なあブルー」
「そうなんだよ。私との戦いの褒美が布団だなんて」
ブルーはがッくりと肩を落とす。了は別に良いだろうと思った。恵みは了を見て食事処で見かけた事を思い出した。了は恵みの顔を見てハッとする。
「おっと私の自己紹介がまだだったな。了だ。管理所で働いてる」
「管理所ですか凄いですね。お金いっぱいもらえるでしょう」
「それなりにな」
「おい、私への取材じゃあなかったのか」
ブルーは不満顔で恵みを見つめる。ブルーの威圧に彼女はあせり、手帳を取り出す。
「ああっすみません。今初めます」
「良かろうなんでも答えてやるぞ」
「それじゃあ、今後夢幻界で何かしようと考えていますか?」
恵みはブルーが起こした青月事件を思い出す。そして彼女が何か企んでないか不安になった。聞かれたブルーは顔に手を当てながら答える。
「んー今何かしようとしてるかか、大したことはないが今調べ物をしている」
「調べものですかそれはいったい?」
「かつて夢幻界に起きた大災害や先導師アカネについてだ」
「それは何故?」
「まあ、まとにかく座れ」
ブルーは空いている椅子を指さす。
「あっはい」
二人はブルーに促され椅子に座る。ブルーはディナに何かを持ってこさせ、テーブルに置いた。置かれたものは新聞や本、週刊誌といった情報媒体だった。それを見て恵みは不思議な顔をした。
「これはいったい?」
「これはだな大災害や先導師アカネについて書かれたものだ」
ブルーの言葉に置かれたものを恵みは手に持ち見る。恵みはアカネの事はよく知らない。大災害も人里の元になる村に住んでいたため被害をまぬがれていた。
そのためあまりそれについて深く考えたこともなく対して興味もわかなかった。何処か遠いことの出来事に感じられたからだ。それに恵みは調べたところで何か意味がある。終わったことだと思っていた。
また、この世界では悲しい記事はウケが悪く、彼女の会社も取り上げる気がないだ。 恵み自身も悲しい記事は取り上げる気は無かった。
記事のウケが理由は、夢幻界に住む者たちは過去の惨劇を忘れて、気楽に生きたいと思っているからだ。そう思うのはこの世界がゴミ箱世界の様な世界であるから。
夢幻界住む者は、不要になった、捨てられた者達なのだ。みんな元居た世界ではゴミ同然の存在で、多くの悲しみを経験してきた。その上来てしまった夢幻界は生きにくく、命を試す世界である。
夢幻界で生きることは、多くの苦しさ悲しみと出会うと言う事。
故にこれ以上の悲しみに構いたくない気持ちが、目を大災害といった惨劇からそむけてしまう。悲しみに関わらない為の悲しい処世術。それは平和な今の時代でも根付いていた。勿論、恵みや葉月たちの中にもあり、そのせいか『大災害』について調べる気が起きなかったのかも知れない。
夢幻界に住む者がそれ持っていた故に受けた恩恵も、もちろん存在する。それは悲しみに構わず、今の生活を豊かにしようと気持ちが持てたことである。
別に『大災害』について、知らなくても、生きていけるのだから。
しかし、ブルーと了は、大災害から復興した平和な時期に来た力ある者。彼女たちも悲しみを経験してきたけれども、夢幻界で『大災害』の被害を経験したわけでもない為、気になる気持ちがあった。
恵みはブルーに何故調べているのかを尋ねる。
「なぜこんなものを調べようと? ブルーさんはつい最近にこの夢幻界に来たのでしょう?」
「まあね。だが大災害やアカネについて聞いて少し疑問がわいてね。夜中散歩をしたりして情報を集めていた」
「疑問ですか?」
「そうだ。妖怪というものは天変地異といった自然のものから生まれることが多いのは知ってるな?」
「ええ、もちろん」
「なのに、大災害が起きたことで生まれた妖怪は調べた限り居ない」
(そう言えばそんなこと聞いたことなかったな)
「でもそれは先導者アカネが起こしたものだからでは?」
「そうかもしれんな。しかしアカネが起こしたとは考えづらいだよ」
「何故そんな考えを? この世界は摩訶不思議なことでいっぱいですよ」
「そうだが、アカネは人間世界からやってきたと聞いたんだが」
「それの何か?」
「私はメイドのディナを使い、人間世界からやってきた者達の事を調べた。その全てが大した力を持っていなかった。なのにアカネは持っていた。大災害を起こしたと考えられるほどの力をな」
「でもそれはアカネが特別なだけで、それ故に人間世界から迫害されこの世界に来たのかもしれませんよ」
「そうかな、力を持つ者は迫害をされかねんが、大災害起こしたと考えられるほどの力をアカネは持っていた。それならどこかの国や組織に保護または重宝されるんじゃないか」
「えっとつまり」
「アカネはこの世界に来て力を得た。そして何者かの考えで先導者と呼ばれる存在になった」
「力が与えられるのは、稀にあるのでは?」
「そうだな、でも可能性は限りなく低い。与えられたとしても先導師と名乗りこの世界に変化をもたらそうとふつうは考えるか」
ブルーの言葉に恵みは考え込む。
(もし私がすごい力をもったなら自分の身の回りの事しかしないだろう)
考える彼女にブルーは話す。
「アカネとやらが自分や誰かのためを思って行動したにせよ、先導師何て名乗って活動なんかしないだろう。私の考えでは誰かに力を与えられ、そういう風に仕立てられたんじゃないかと思う。たとえばエルカードの様なものを与えられてな」
ブルーと葉月は了を見る。了は気まずそうにしていた。
「でも、じゃあなんで大災害を起こしたんですかね。そしてアカネも姿を暗ましましたし」
「そもそも大災害を起こしたのは本当にアカネだったのか。別の誰かじゃないのか」
「それは管理所がそう発表したから」
その言葉にブルーは「おいおい、他人の言葉をうのみにするのか」と手をひらひらさせながら呆れた。そんな彼女の言葉にムッとしたのか、恵みは反論の言葉を捲し立てる
「だって大災害の混乱を治めた管理所のアサキシさんの発表ですよ。アサキシさんは混乱で大変だった村を人里にして、管理所を設立して平和な世の中にしました。」
これらの事があり、恵みはアサキシの事を信頼していた。しかし、吸血鬼は語る。
「おまえにとってアサキシは好人物なのか知らんが、実態は分からんぞ。まあここまでの話は推測にすぎん。現在手詰まりでね。了を呼び、話を聞こうと思っていたんだ」
「そうですか」
「しかし、たった今私は全てを知る方法に気づいた!」
ブルーは声高々に叫ぶ。それを聞き恵みは、これほどまでの自信だ、すごい方法なのだろうと期待し尋ねる
「それはいったい?」
「それはアサキシの屋敷に忍び込み調べる」
「……はあ?」
恵みは思わず吸血鬼にたいして、無礼な言葉を滑らす。了と葉月もブルーの発言に驚いていた。
「んで、今日の夜忍び込む」
「オイオイ、何言ってんだ!?」
ブルーの言葉に了が突っ込む。彼女はケラケラ笑いながら了を相手する。
「しかし、了お前も大災害について知りたいとは思わないか」
「それはまあ」
了は井戸立ちを襲った赤いドクロの怪人と大災害との関係があることを不思議に思っていた。もしドクロの怪人の正体がわかれば井戸への暴行の件で捕まえることができる。、そのためかブルーの言葉に言い淀んだ
了の悩む姿を見て、ブルーは目線を葉月に移す。
「それに葉月だったかな。了から話は聞いてるぞ。おまえ『封魔』だったんだってな。気にならないか封魔の者として大災害について」
『大災害』は妖怪との争いがなくなった原因であり、『アカネ』が妖怪との争いの発端であった。その二つは葉月にとって因縁の出来事と人物である。そして今の自分の境遇を作り出したきっかけでもあった。知りたくないわけがない。
「……ああ気になるな」
葉月は頷き、ブルーの言葉を肯定した。それに喜ぶブルー。
「クックッ、そうか、恵みお前どうだ? 記者だろう。どうだ一緒にこないか」
「えっとその」
恵みは了と葉月を意見を求めるような目で見た。了がそれに察して口を開く。
「……私は行ってみる。気になるしな。ブルーが何かしない様にもな」
「私も同じだ」
了と葉月はブルーに賛同した。ブルーは笑みを浮かべる。
「そうかい、ありがたいことだ。で恵みお前はどうする?」
「むむむ…… わかりました行きます」
彼女はこれをチャンスだと考え乗ることにした。大災害やアカネの真実を知ればとんでもないネタになるからだ。ブルーは全員が賛同したことに喜び、ディナにワインを持ってこさせた。
「では夜になったら人里のアサキシの屋敷に向かう。それまでここでゆっくりしててくれ」
こうして了、葉月、恵み、ブルーの四人はアサキシの屋敷に潜入することになった。
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