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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
38/84

第十五話 悲しみの救い 後編


 「なんだあれは!?」


 「あれは誰だ!?」


 人々は、球体が突然弾けた事に、声をあげて驚き、中から飛び出してきた了と切花に目をやる。空間を飛び出した当の了も人里の空の上に出たことに驚きの声をあげた。


「ここは、人里の空か!?」

 そう言って、眼下に広がる人里の街並みを見て、動きを止める。しかし切花は止まらない。彼女は戦いの意思をむき出しにして叫ぶ。


「さあ、まだまだこれからだ!」


 両手を広げる切花。青い雷が夢幻界の夜空を焦がし、青空の様にしてゆく。


「この雷は魂の嘆きだあ!」


 そして了に向けて雷の雨を振るった。雷の雨は矢の形になって了が居る方向へ襲い掛かる。それを見て了は心底恐怖した。

 (もし下手に良ければ、下の人里に被害が及ぶ!)

そう思い、人里に落ちそうな矢に向かって、大量の水弾を発射。水弾は雷の矢にぶつかり、水が蒸発する音をけたたましく鳴らした。これで人里に落ちる雷の矢をかき消す事は出来た。しかし、


「くそ! 間に合わない!!」


 自分に向かう矢の対処が遅れた。結果、矢は了の肩や、腹、足を貫いた。幸いカードを使用して人外の力を得たことにより、大火傷ですむが痛みで絶叫してしまう。


「ギャアアアアアアアア!」


 突き刺さった雷の矢は了の肉を焦がしてゆく。切花は了の叫びを聞いて、邪魔をするなという意思を了に告げる。

「痛いだろ苦しいだろう。それが我々が受けたものだ! わかったならここから引け!!」


 しかしそれにボロボロになりながらも了は、「わかったぜ…… だからあんたを止める」と切花に自らの意思を伝える。それを聞いて切花は、


「愚かな!」


 雷を大剣の形に変えて了に急接。了も剣を構える。剣と大剣はぶつかり合い(つば)()り合いの状態になる。


「貧弱!」


「グウゥ!」


 切花の力が了の力を上回っていた。了は鍔迫り合いから逃れようと後方へ回避しようと判断する。しかし、見逃さず追撃を仕掛ける。


「ハアアアアア」


「何っ!」


 切花の攻撃に了の剣は叩き折られてしまう。剣を折られて、驚愕する了にさらなる切花の攻撃が襲い掛かる。彼女は大剣を槍へと変化させて、了の喉元に突き刺した。槍は喉を貫通し、了の喉の肉を焼いた。


「ギゃアアアアアアアアア」


 あまりの痛みに絶叫。切花はそれを見て顔をしかめる。


「貴様は本来私の敵ではないのだ。これで勘弁してやる。引け」


 本来倒す目的でない了の姿に、切花は哀れみそう告げる。しかし、了は「い ……いやだ」と否定して、槍を掴み引き抜く。

 掴んだ手は雷に焼かれ骨が見えていた。そんな焼かれたのどを酷使しながら言葉を切花に伝える。


「ここで逃げたら、あんたは神仏に歯向かう罪人になってしまう。それだけは避けなくてはならない。あんたは元々計り知れない悲しみでそうなってしまった被害者だ」


 了は決意の言葉を発する。

「だから私は私のやり方であんたを止めるし世界も守る」


 了の献身的な言葉は、了が高位の存在だからだ。力を持つ高位の存在として、切花を救えなかったという罪の意識からきていた。その了の言葉に悲しげな顔をし否定する切花。


「……バカが」


 切花は槍から再び大剣に変える。了の掴んだ手は刃によって切り裂かれる。


<アイアン>


 了は今使用してる力を解除せず4枚目を発動した。それにより体に負担がかかる。が出血は少しは抑えられ、接近することが出来た。そして、


「ウオオオオオ」


 切花を掴み空高く投げた。それだけだった。不可解な行動に切花は困惑した。


「なぜ先ほどから攻撃を行わない」


「……あんたを止めに来ただけだからさ」


「強がりを」


「今私が受けている苦しみなんて、あんたたちが受けた苦しみに比べたら何て事はない」


 了が切花にこう向かうのは、魂の悲しみを見たからだ。暴力では悲しみは解決しないものだからだ。切花は了を見据える。顔は雷によって焼けただれ、のどには穴が開き、体も大きく負傷し、切り裂かれた手は歪な形になっている。その上エルカードの4枚同時使用による負担は耐えがたいものだった。


「死ぬのが怖いはずだ」


「怖いさ。でもあんたの悲しみも受けた痛みも少しでもわかりたい。あんたを……」


「もういい…… 次で終わりだ」


 距離を取り大剣を球体に変えて天に掲げる。球体から雷がほとばしり、まるで青い太陽の様だった。切花は了の覚悟を試す言葉を投げかける。


「……これを受け止めきれるか、私の私たちの全力だ」


「私の答えは決まっている」


 了の言葉は即答だった。


「そうかなら、行くぞ!」


 青い太陽は了に向かって落下。圧倒的熱量が了を襲う。了はそれを受け止める。悲しみの雷が了が居た空間を包み込み、燃やしていく。少しの時が経ち、雷は止んだ。


「…………」


 切花の前に了が居た。しかし了は片腕片足を焼失し顔は頭蓋骨が少し見やるほど焼けただれ、背の翼は黒く焦げ付き、グロテスクとも呼べる不格好になっていた。それでも切花の前に立っていた。了は切花に告げる。


「……もういいのか」


「ああ、もういい。すまないな」


「気にすんなよ、私がやりたくてやっただけさ」


「ありがとう。私たちの怒りを悲しみを受け止めてくれて」


 切花の力が次第に弱まっていく。切花に力を貸していた魂も切花と気持ちは同じだ。了と切花の対話は終わった。その時だった。


「おいおい白けますね、こんなんじゃねぇ」


「!」


「!」


 了と切花はその声に聞き覚えがあった。その声の主は。


「アトジ……」

 黒いジャケットを着た少女、アトジだった。アトジはにやにや笑みをたたえながら切花に話しかける。

「ええそうですよ。切花さん。貴方に用がありましてきましたあ」


「何の用だ」


「あなた神仏に仇名(あだな)したくなかったんですか。ここで諦めるんですか」


「ああ、私の気持ちを了は受け止めてくれた」


「そうですか、なーら」


 アトジはにやけながら切花に向かってエルカードを投げつけ発動した。


<リミットオーバー> <バーサーク>


「何ィ!? ガアああッ!」


 切花は与えられた力に驚き、叫びを与えた。アトジが与えたエルカードの力は自身を犠牲にし限界以上の力を出すもので、魂だけの存在である切花にとって自我を崩壊させる危険なモノだった。


 その上新たなエルカードの力を加えられたことにより、今発動している<ハート>を含め3枚のエルカードの負担が襲う。了はアトジの凶行に驚き睨みつける。


「何をするんだ!」


「何をって私がしたいことをするんですよ」


「何を言っている!?」


「私も了と同じでこの世界に関わるうちに気付いたんですよお。可能性とは混乱の中から生まれ、悲しみから生まれ、狂気から生まれます」


「何を言いたい!」


「つまりですねえ…… 騒ぎが起きるのはとっても楽しい!! てことですね」


「お前! 苦しんでるんだぞ!」


 苦しむ切花を見る。切花は強力な力を得た反動により魂の根幹である自我を失いつつあった。そんな彼女を見てもアトジはどこ吹く風。


「あらら、大変ですねぇ。それではまた」


「まて!」


 アトジを追いかけようとするがエルカードを使われて逃げられてしまい、二人だけになった。了は切花に顔を向ける。


「クソ、切花」

 切花の姿は、おどろおどろしい虹色の光に包まれていた。この光は与えられたエルカードによるもので、それによって、切花の体の一部分が泡の様に破裂して、切花を苦しめていた。このまま放っておけば、切花の魂までもが破裂して、天国や地獄にも行けなくなるだろう。


 そんな切花は了に手を伸ばして助けを求めた。


「了…… 私が私で無くなっていく」


 切花の目から涙がこぼれた。了はそれを見た。そして答える。


「今助けてやる!」


 手を掲げ、念じる。すると手のひらに透明なエルカードが現れた。そして何も迷わず叫ぶ。


「発動せよ!」


<エンド> すべてに対して終わりを与える。


 暖かで優しい光が全てを飲み込んだ。


―――


 了と切花は草原に横たわっていた。切花が目覚め、隣に居る了に声をかける。


「ここは…… 了!」


「無事だったか…… 切花」


 切花は了が生きていたことに喜び、そして気づいた。


「そうか…… 助けられたのか。私は」


 そのつぶやきに了は答えない。切花は了に顔を向け、感謝の言葉を告げた。


「了、助けてくれてありがとう……」


「構わないさ」


 そう言葉を告げると、切花は光となって天に昇った。


「安らかに……」


 了はそうつぶやき、眠る様に気絶した。


 その後、倒れている了を菫が発見しすぐさま診療所に連れて行った。

了の怪我や失った手足は<エンド>のエルカードを使ったおかげで無くなっていた。しかし疲労があり少し入院することになった。そんな了の代わりに菫が事件の調査をまとめてアサキシに伝えた。


 了はベッドの上で新聞を読んでいた。記事の内容は大量に湧き出した魂が居なくなったと書かれていた。死神のゆげんもやってきて今回の騒動の解決に対し感謝と切花達の魂は罪なく天の国極楽浄土へ行けたことを伝えた。すべてが丸く収まったことを知り、胸をなで下ろした。


「さてご飯でも食べるかな」


 彼女は診療所の食事が気に入っていた。前に入院した時に食べてとても美味しかったからだ。置いてある食器に手をつけて食べようとする。しかし、


「……何をしようとしたんだ?」


 自分がなぜ食べる行為をしていたのか疑問に思い、食べるのをやめた。

 <エンド>のエルカードの代償により人間性の一つである食事を失ったことに気づき、少しだけ悲しくなった。だけど使ったことに後悔はなかった。

 今はただ<エンド>の力を使いなお、人間性の多くが自分に残っていることに安堵した。

続きが読みたいや、おもしろいと感じたら、評価やポイントしてもらえると嬉しいです。

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