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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
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第十五話 悲しみの救い 中編

 菫が人里に戻ると時刻は夜になっていて、人々の不安の声が行き渡っていた。菫は何事かと思い、話を聞いてみると夜空に大きな黒い球体が出現しているのことだ。


「黒い球体」


 それを聞いて空を眺める菫。人里の真上の星空に、真っ黒の球体が佇んでいた。輝く星空の中に存在する、光を放たぬ黒い球体にたいして、人々は全てを飲み込む穴の様に感じた。黒い球体を見て菫は死神の言葉を思い返した。


「死神の奴、そういや夢幻界に魂を閉じ込めたとか言ってやがった。あれがそうなんだろうな」


 死神のこの行為に、菫は考える。


 (人間世界などの他世界に被害をださないためだろうな。夢幻界やら了の正体やらで驚いてこの事が頭からすっぽ抜けてたぜ。一応アサキシの奴に話に言った方が良いか。しかしなあ、どうなることやら。)


 そう思い、この事件に対して少しの不安を抱えながら管理所に向かった。


―――


 了が飛び込んだ先は、夜空に輝く星々の様に、多くの魂が漂う闇の世界だった。そんな闇の世界の中心に白装束に手足が見えない様包帯を巻いた女性の形をした魂、いわゆる幽霊が佇んでいた。

 女幽霊は了が来たことを感じ、了に威圧的な声で問う。


「貴様何者だ」


「私の名は了。夢幻界ちから今回の騒動を治めに来た者だ」


「そうか、ならば私も名乗ろう私の名は切花(きりばな)。救われなかった者たち代表者なり。神仏に深い悲しみを与える者でもある」


「救われなかった? 何を言っている」


 相手の言葉に了は困惑した。了の言葉に切花は悲しみの表情になり、そして怒りを込めた声で言い返す。


「そうだ! 生前神仏祈り助けを乞うたが救われず死んだのが私だ。そしてこの場に漂う魂は私の感情に同調し力を貸してくれている」


「そうなのか…… だけどあんたは罪も無く善の魂だ。死後の安息があっただろう。なぜ怒りを持つ」


「そういうことではないッ!」


「じゃあ一体なんだ」


「お前の言う通り、私も魂だけの存在となり閻魔に裁かれ、私は天の国極楽浄土行ける分かり喜んだ。が同時に深い悲しみが私を襲った」


「深い悲しみだと。天の国極楽浄土に行けるというのに、どういうことだ?」


「……悲しみの始まりは私が生きていた頃かもしれんな。私は生前重い病に罹っていた。そのせいで人々から差別されて生きていた。されど悪行は行わなかった。どこにも居場所が無くても理不尽な目にあってもだ」


「それはなぜ?」


「なぜなら何時かこの苦しい生活から、神仏が救ってくださると信じてたからだ。……救いが欲しかった」


 そう話す彼女は、生きていたころの苦しみや悲しみを思い出し、遠い目をした。


「だが私は救われず死んだ。誰にも看取られず、悲しまれずになぁ」


「…………」


 了は高位の存在として彼女の言葉に苦しくなって苦い顔になる。


「そして、魂だけとなり高位の存在いわゆる神仏の存在が、幻想でないことが分かった。そして先に言った通り裁かれ、天の国極楽浄土に行けるが深い悲しみが私に襲った」


 切花は手を握りしめ語る。


「悲しみとはなあ…… 幻想でなく確かな存在だったのなら、なぜ生前に救ってくだされなかったのか、か。なぜ、なぜと私の疑問はやがて神仏に対して悲しみと失望と怒りを生んだ」


 浮遊する魂達も切花の言葉に呼応して僅かに震えていた。そんな浮遊する魂に切花は目を向ける。


「私の思いに同調してくれた魂もおりそのおかげで力を得た。また、アトジと名乗る不可思議な女がエルカードなる力を私に渡した」


「アトジに会っているのか!?」


 アトジの名が出て、驚く了。それに頷く切花。


「奴は私の思いに同調したわけではなさそうだが、力が手に入った奴の考えなどはどうでもいい。神仏に悲しみを与えるためにはな」


「……神仏など高位の存在は気軽に現世に干渉してはならない」


 声を絞り出すかのように答える了。しかし切花は睨み問いかける。


「圧倒的理不尽に見舞われ、救いを求める物がいてもか?」


「それは……」


「なら貴様に見せてやろう多くの苦しみと悲しみをなあ!」


 切花の言葉に、突如漂う魂が光を放ち、闇の世界を塗り替えていく。突如の事に了は声をあげる


「何をする気だ!?」


「黙ってみているがいい! 私たちが受けた大理不尽を見たければなあ」


 魂の光は閉じ込められた世界を塗り替えていく。そして了を魂たちの記憶の世界へいざなう。


―――


「ここは…… どこだ!?」


 二人がいたのは何処かの収容施設である。内装は汚れ不衛生だった。そんな中に多くの人がいた。人々の顔は暗く絶望が支配していた。人々は了達には気づいていない。


「ここは、ある人々を差別し迫害しやがて死にいざなう施設だ!」


「何!? 助けなくては! あんた達!」


 了が人々に声をかけるが、まるで聞こえていなかった。こちらの存在が認知されてない様子である。切花は悲しげに話す。


「無駄だ。これはある魂が映し出してる記憶の世界だ。干渉する事はできない。もう終わったことだ」


「そんな!」


 了は人々の顔を見る。何もかにも疲れ果てている顔だった。切花は叫ぶ。


「それだけではない!」


 叫びと共に、世界は再び変わりゆく―――


「今度は何!?」


 世界が変わりあたりを見渡す。先ほどとは違い広く明るい外だった。しかし、了達の周りには大勢の死体があった。頭を砕かれた者、首を斬られた者、どれもこれもが無惨な状態だった。切花は話す。


「この惨劇は人が持つ優越感や他者を見下したい思いが引き起こしたものだ」


「まさか」


 どこからか悲鳴が聞こえ、了はすぐさま向かう。目の前には親子と思しき者が武器をもった者に殺されようとする瞬間だ。


「やめろおおお!」


 親子を庇うように立ちふさがるが武器は了の体をすり抜け、親子の命を奪った。切花は了に近づき、言葉を発する。


「無駄だといったはずだ!! この世界は魂の記憶の世界、救うことはできん!!」


「ああそんな、そんな」


 了の足元に血が広がる。さっきまで命だったものが消えたことを意味していた。


「この場においても神仏は助けなかった。救わなかった!!」


「なにか…… 何か理由が」


「誰でもいいから救ってほしかった」


 切花の泣いていた。叫びと共に世界は変わり、もと居た空間に戻る。切り花は語る。


「妖怪などの幻想存在が住む夢幻界も『大災害』と言う惨劇はあった。それも救いはなかった」


「もう十分だ!」

 切花の言葉に声を荒げる了。


「まだあるぞ。謀略によって命を奪われたもの。人により奈落に落とされた者…… 神仏はなぜこれほどの多くの絶望や悲しみがありながら助けなかった」


「それは…… 人や自然が起こしたものだから。……神仏は干渉できない。与えられるのは死後の安息だけだ」


「これまで見てきた者に言えるかな? 生きることはできない、神仏は助けないとな」


「それは……」


「私たちは、死後の安息よりも、生きる明日が欲しかったんだ……」


 悲しげにそう話し、了も悲しくなり何も言えなくなった。切花は悲しみを怒りに変え叫ぶ


「全てを救えぬ者は要らない!! そんな存在はまやかしは不要!」


 了は浮遊する魂に目をやる。


 (ここに漂う魂はみなそうなのか ……悲しみの中で死んでいった者たちなのか)


 記憶の世界を体験してそう考える。そんな了に問いかける切花。

 

「さあ先ほどの記憶の世界をみても私の行動はおかしいと思うか、止めようとするか」


「……あんたの行動で多くの無関係な者が傷つくかもしれない。それでもやるのか?」


「そうだ。私の怒りは抑えられん」


「そうだか、そうだよな」


 了は沈痛な面持ちである。了もまた切花が非難する力を持った高位の存在だからだ。そんな了が切花に対して絞り出すかのように伝える。


「……私はあんたを止める」


「何だと!!」


「あんたの気持ちは怒りは確かに伝わった。だけども今あんたがやろうとしているのは、八つ当たりでもあるんだ……」


「貴様ッ!」


 了に否定されて鬼の形相にかわる切花。切花の怒りに触れたものは皆恐縮して何も言えなくなるだろうしかし了は話を続ける。


「だけど怒りや悲しみはわかる。だからこそあんたを止めなきゃいけないんだ」


「大した思いも無い存在が!」


「そうだ私にはない。だけど…… あんたの怒りも悲しみを知った。だから私が全て受け止める」


「ほざけッ!」


 切花は怒り、エルカードを取り出して発動した。音声がエルカードに書かれた力を伝える。


<ハート> 


 切花が発動したのは感情を力に変えるエルカードだ。切花の体に蒼い雷が出現。この雷は切花の感情、怒りと悲しみを表していた。辺りの魂も切花の雷に集まり、より勢いを増す。切花は叫ぶ。


「受け止めるだといいだろう!! 良い覚悟だ!! 死んで後悔するだけだがなあッ!」


「後悔はしない!」


 <オーガ><グリフォン><ドラゴン>三枚同時発動した。切花の力がそれほどまでに強力と判断したからだ。


「喰らえや!」


 切花は閉じ込められている空間ごと了を破壊しようとと殴りかかる。


「グゥウッ」


 了は防御するがあまりの力に吹き飛ばされてしまう。そして二人を閉じ込めてた空間は切花の余りの力によって破壊され、二人は夢幻界の夜空に現れた。


続きが読みたいや、おもしろいと感じたら、評価やポイントしてもらえると嬉しいです。

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