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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
35/84

第十四・五話 葉月の夢 後編

 夢は葉月に彼女自身の過去を見せてゆく。


 五年前の夢幻界。


 虫や梟の鳴き声が聞こえる夜の山で、葉月は大勢の様々な妖怪と対峙していた。妖怪は天狗につるべ落とし河童、妖狐など様々で、刀や槍で武装していた。それに対するは葉月ただ一人。


「死ねェーーーーー!」


そう叫びながら葉月は電光石火の如く、妖怪達に斬りこんでゆく。妖怪たちは切り刻まれ、血の雨を降らした。しかし妖怪たちも意地がある。負けじと牙や武器で葉月に襲いかかった。


「死ねやァ人間!」 


「それはお前の方だッ!」


 ある妖怪が剣を振りかざし、命を狙ったが葉月にはじき返され切り殺された。襲った奴は断末魔を上げ絶命。

葉月は切り殺した妖怪が持っていた刀をすぐさまを奪い、近くいた妖怪に投げつける。刀は風を斬り、河童の頭に突き刺さった。そうした後、彼女は妖怪たちから離れるように走り出した。妖怪たちは声を上げ追いかけて行く。


「逃がすかッ!」


「殺せ! 殺せ!」


 妖怪たちは葉月を追いかけていく。あと少しで葉月に近づきそうになった瞬間。妖怪たちに向かって反転し、斬り込んだ。突如の行動に先頭を走っていた妖怪は対処できず、即死した。先頭の妖怪の死に、一瞬だが妖怪たちの行動は乱れた。葉月はそれを逃がさない。


「ゼア”ーーーー!」


 叫び声を上げながら、猪突猛進し、最後尾まで斬り進んだ。そして通り抜けると、木々の陰に身を潜めた。

 妖怪たちは死の恐怖に包まれた。

 大勢の妖怪は、先ほどの切込みで、大なリ小なりの手傷を負っていた。唯の傷ならば、なんてことは無いが相手は封魔である。妖怪の弱点の霊力を用いて斬り裂いたため、妖怪たちは疲弊した。


「ハア…… ハア……」


 木々の陰に隠れた葉月は返り血をぬぐいながら息を整えた。そしてわざと自分の居場所を知らせる様な言葉を妖怪たちに向ける。


「どうしたッ!! ゴミくず共ッ私はここにいるぞ‼」


「こっちいるぞッーーーー!」


「八つ裂きにしてやれェ!」


 妖怪たちは挑発に乗り、激高し罵声を上げなら、葉月を追いかけて行く。


「……ついてきやがれ、妖怪ども」


 葉月は山に再び走り出す、妖怪たちはそれを追う。本来なら大きく負傷した妖怪たちはここで、逃げる事をしなければ、ならないが、敵が葉月一人なのと、女である事、こちらの数の有利がある事が妖怪たちの戦闘思考を鈍らせ、挑発に乗せられてしまう。


 妖怪たちは葉月を追いかけていくと、近くから煙が立ち込めた。妖怪たちは驚き、皆足を止めた。そして自分たちが罠にハマった事に気がつく。煙は幻覚作用を引き起こす薬草を事前に葉月が焚いたものだ。

 妖怪たちを確実に殺すために、葉月があらかじめ自らの陣地を作り、罠を仕掛けていた。

 そして、この陣地に誘い込むために、最初はわざとやけっぱちともとれる様な戦いを葉月はして、相手をここに引きずり込む算段だった。そして成功した。


 「グウアア……」


 妖怪たちは立ち込める煙を吸引し、重度の幻覚作用にさいなまれていた。一部の妖怪はこの煙から、抜け出そうと、煙で先の見え無いのにもかかわらず、進んだ。他の妖怪たちは、意識が朦朧しながらも引き留めようとしたが進みを止めることは出来ず、やがて煙の奥から妖怪の叫び声が上がった。


「煙を吹き飛ばせば!」


 翼を持つ者が煙を吹き飛ばそうと画策するが、煙は以前として妖怪たちを包んだままだった。その者は吹き飛ばせなかった事に動揺した。

 その瞬間、煙の中から現れた刃によって、首を切断された。 首を失った体は膝をつき、血を噴水の様に辺りに咲かした。妖怪たちの周りに血煙が立ち込める。

 煙を吹き飛ばせなかったのは、この場所の周りに強力な結界を敷き、煙の胡散を防いでいた。もちろんこの事に妖怪たちの思考は幻覚や恐怖に惑わされ、たどり着くことは出来なかった。


 当の葉月は、煙を吸引しない様、顔を防護し、自分の衣類を風景に溶け込ませるため、泥を被っていた。この用意周到さは、葉月の怒りから来ていた。葉月は混乱する妖怪たちを煙と風景に紛れ次々と惨殺していく。

妖怪たちは反撃しようにも、幻覚に邪魔され、狙いは葉月でなく関係ない仲間に当たった。これら誤認によって、葉月が手を下さずとも同士討ちによる被害が妖怪たちに襲った。


 しかし、混乱する妖怪たちにも幸運が訪れた。一部の妖怪が葉月の影をとらえたのだ。すぐさま、この事を他の者たちに伝えるため叫ぶ。


「女はここから直進した先に居るぞッ!ここで殺せッ!」


 この声に妖怪たちは、わずかな冷静さを取り戻し、血まみれになりながらも、煙の中をを直進した。このときの妖怪の数は葉月と交戦した当初より数を大きく減らしていた。進んでいくと次第に煙は薄れてゆき、妖怪たちに標的が居ることを思わせた。

 妖怪たちは葉月にあらん限りの殺意をぶつけんとした。そして、煙の悪夢から抜け出し、葉月と対峙した。

 妖怪たちの眼前に現れた葉月は、刀を天に掲げていた。葉月が持つ刀は電光と月の光で怪しく光っていた。葉月は妖怪たちに怒りの叫び声を上げて、刀を振り下ろす。


 「死ねェエエエエエエ!」


 妖怪たちが最後に見聞きしたのは、眩しい光と轟音だった。振り下ろされた刀から、大量の雷が発生。それが妖怪たちを感電死させ、炭に変えた。この場にもはや妖怪たちはおらず、葉月、唯一人になった。

 衣服は返り血と泥にまみれているが、この戦いは葉月の完勝だった。葉月は結界を解き、煙を霧散させた。


「次はどいつだ……… ッ!?」


 新たに獲物を探そうとこの場を離れようとした時、遠くから夜を朝に変えるほどの大きな光と何処までも聞こえるとも思える爆発音が響いた。葉月はとっさに眼を閉じ、耳を塞いだ。そして再び開く。先ほど光った場所に大きなキノコ雲が昇っていた。


「何だアレは……」


 それを見て、得体のしれない恐怖で全身から汗が噴き出た。そして、妖怪の仕業かと考え情報を集めるため、ここから近くに存在する人村に向かった。


「……何これ」


 たどり着いた村には生者は居ず、死者で溢れかえっていた。手足を失った者、皮膚が焼けただれた者、全身から血を溢れ出している者、汚物を垂れ流している者、その光景は地獄絵図だった。そしてその中には封魔の者も存在した。


「オゲエエ」


 その光景を見て思わず嘔吐した。彼女は気が狂いそうになりながらも、村を離れて無事な者を捜し歩いた。

「ここにもか……」


 葉月は焼け野原になった田畑を歩いていると、川を見つけた。しかしその川は清らかではない。多くの焼死体が水に浮かんでいた。肌や目は溶けていた。中には水分を含みトマトの様に赤く膨らんだ死体があった。死体たちを見て葉月の心に大きな不安と恐怖湧き出て、その場から逃げるように足早に去った。


「この地獄はどこまで続くんだ…… あれは」


 彼女は多くの死体を見続けながらも、村を見つけた。


「生きているものはいるよな……」


 彼女は不安になりながら村の中に入った。その村の中にもやはり死人が居たが、大勢のけが人や、怪我をしていない者も存在した。無事である村を見つけて彼女は歓喜した。


「よかった! 私地獄にきていない!!」


 実のところ葉月は凄惨な光景を見て心が疲弊して、自分が地獄に落ちてしまったのでは?と勘違いしていた。そして無事である者に何があったのか尋ねた。すると怪我人たちは先ほど葉月が聞いた爆発によるものだと言う事が解った。彼女は原因を聞く。


「原因は何だ、妖怪か!?」


「わからない……」


「わからない!?」


 その答えに困惑した。話している間にも村に、怪我人が多数押し寄せてきた。その中には葉月の見知った顔がいたミヅクである。彼女は五体満足で生きていた。葉月はミヅクの無事を知って喜び駆け寄る。


「ミヅクさん! ご無事ですか!? その血は!?」


 ミヅクの体は血で汚れていた。葉月はもしやと最悪の想像をして青ざめてしまう。


「ああ、これは返り血だ、問題ない」


「良かった……」


 その答えに心底安堵する葉月。そしてミヅクにもこの状況の原因を尋ねたが、わからないと返されてしまった。ミヅクはつぶやく。


「これから、怪我人はもっと増えるかもな」


 ミヅクの言葉に葉月は何も言えなくなり、立ち尽くしていると、二人に話しかけてきた者が現れた。声がした方に向く。声をかけてきたのは美しい青髪の女だった。だっが二人とは面識のない人物であった。

女は笑みを携え、名をなのる。


「突然すみません。私の名はアサキシと言います。この村の村長をしております。あなた方は封魔の者とお見受けしますがよろしいですか?」


「そうだが、何か」


 アサキシの言葉にミヅクが反応する。アサキシが身に着けている服はとても清潔であり、葉月の血や土で汚れた服や死体たちや怪我人たちと正反対だった。アサキシはミヅクに頼みでた。


「封魔の者は霊力を使い、怪我を治したりできるそうですね。それを使い怪我人の救助を手伝ってくれませんか?」


「かまわんよ…… 葉月、お前も手伝ってくれるか」


「構いませんよ」


「これは、これは、ありがとうございます。私だけではとても対処に追いつきませんので」


 彼女は笑い、葉月たちを治る見込みがある怪我人の元へと連れて行った。葉月とミヅクは大爆発に関して、疑問だらけであったが、目の前の怪我人を治すことで、頭から振り払った。


 翌日にはさらに大多数の人間や妖怪が村に避難しに来た。これをアサキシは私財を使い助けた。ミヅクは妖怪を助けることに初めは抵抗していたが、妖怪の友人が居る人間から、助けてほしいとの懇願が来たため、止む終えず治療した。 治療を受けた妖怪はミヅクに泣きながら、感謝の言葉を述べた。


「ありがとうございます…ありがとうございます」


「……ぐウ」


 ミヅクはその感謝の言葉に封魔の者として、居たたまれ無くなり、無心で全ての者に対して治療を行った。葉月も妖怪に対して何も考えない様にただ働いた。


 夢幻界に黒い雨がしとしとと降っていた。


 そして、しばらくの時が流れた。


 人間と妖怪、双方がこの爆発で傷ついたため、今までの事は水に流し、共に協力することになった。

この歩み寄りのきっかけは、アサキシの人間、妖怪を問わず助けた事と、封魔であるミヅクが妖怪を助けた事がきっかけになった。

 アサキシは今回の件で、管理所という公的組織を作った。作った理由としては、今後このようなことを未然に防ぐためであると、熱弁した。

 私財をなげうって人間妖怪を助けたアサキシの言葉と行動に、誰もが賛同して賞賛した。そして管理所は多くの者の心の拠り所になり平和を守るモノとなった。


 ミヅクはアサキシから診療所を作るので、そこに勤務してほしいと頼まれた ミヅクこれを渋ったが、ミヅクによって助けられた者から、どうか診療所で働いてほしいと頼まれた。アサキシもミヅクに対して、診療所に勤務すれば、生活費の譲渡や、封魔の者の移住を認める事を伝えた。彼女はそれを聞き、他の封魔の事を思い了承した。


 管理所は謎の爆発の正体は、先導師が起こしたものと発表した。これは多くの者が考え、噂していたのと似たような物であったため、多くの者は受け入れそれを信じた。そしてアサキシ自ら、


 「先導師はこの世界にはもう居ない、これからは平和だ」


 と告げた。またこの爆発は『大災害』と名付けられ、多くの者の胸に刻み込まれた。大災害の被害によって、人村はアサキシの村だけになった。村がアサキシの村だけになったと聞いた時、ミヅクと葉月の二人は大きなショックを受けた。

 そしてミヅクは葉月の前で声を大にして泣いた。目の前で泣かれた葉月は驚いた。それは、葉月たちの目の前ではミヅクはいつも冷静な大人だったからだ。葉月がいくらミヅクを慰めようとしても、泣いたままだった。それを見て、葉月は何もできない自分を呪った。


 封魔は妖怪と人間の和解が成立したことで、不要な存在となり解散することになった。このことは多くの者は喜んだが、葉月は違った。妖怪を許せないままだった。納得できなかった。青春を奪われたのだ。

 そんな葉月は裏で妖怪を襲うのではないかと危惧され、ミヅクを含む封魔の者に説得されることになった。その時、葉月はミヅクたちに涙ながら告げる。


 「家族は妖怪に殺された。共に戦った友人の多くも妖怪に殺された。それでも戦ったのは妖怪がいない世界にするため。誰も妖怪に傷つけられない世界を。なのに和解だなんて、殺された家族や友人は何なんだ。戦った私は何も得ていない……」


そう告げた後、行方をくらました。



―――夢は葉月に過去の葉月を見せる。



 行方をくらました葉月は親と暮らしていた村に来ていた。


「お父さん…… お母さん……」

 しかし、その場所にもう人はいない。彼女はかつて住んでいた家に入ることをせず。外から眺めていた。今の弱った精神では、親が死んだ家に入る勇気がなかった。彼女は外からぼうっと昔住んでいた村を眺めていた。幸せだった思い出に浸りながら。


 葉月はしばらくして、人里へ戻り、生活を始めた。夢幻界は大災害から五年経過しており、平和だった。平和で刀を振るう事のない事に悩み、働く場所を探すのに困っていた所、診療所で働くか、管理所で働くか、呉服屋で働くかとの紹介があり呉服屋で働く事にした。


「…………」


 働きながら今の生活について考える。行方知らずだった暦はあれから、人に発見され管理所の保護を受けている。彼女は幻覚を見ていて葉月の心苦しくさせた。

 阿藤も保護を受けながら管理所で働いていた。ミヅクは診療所で働いて命を守っている。葉月はつぶやく。


「何が残った……」


 彼女は呉服屋で働くのにしたのは、封魔の者とあまり会いたくないと考えたからだ。会ってしまうと過去の事を思い出してしまうのだ。

 人里で暮らす上で妖怪と接することもあるが、なるべく親しくしないようにしていた。親しくしたら、封魔の時の事をすべて否定すると思ったからだ。

 働いていると声をかけられた、振り向くと着物にマフラーをした少女が居た。


 「葉月いるー」


 「いるよムク」


 そんな葉月も呉服屋で働くうち友人が出来た。それが目の前に居るムクという少女だ。彼女はロウソク屋で働いており、いつもマフラーをしている。

 ムクがここに訪れた際に、友人となった。気が合ったのだ。ムクとたわいのない話をする。


「んじゃ私帰るね」


「うん、気を付けてね」


 手を振ったその時、ムクから微かに妖気を感じた。それを感じ取った葉月はとても動揺した。妖気は妖怪からでしか発せられない物だからだ。


「違う、嘘だ………」


 言葉で現実を否定するが、戦いの中で培ってきた霊力が彼女にムクは妖怪だと教える。


「私は…… 妖怪と仲良くしていたのか」


 (妖怪は私から大切な者を奪った、決して許すことが出来ない存在。なのに私は……)


 そう思い呉服屋を早退し、家に帰って刀を見つめた。心の底から妖怪に対する怒りがふつふつと蘇ってきた。 顔を隠すための仮面と刀を携え、急いでムクの跡を追った。

 葉月の心には、どうしようもない怒りが溢れていた。そして、夜、葉月は夜道を歩くムクを見つけて、刀を振り下ろした。



―――その瞬間夢の景色は歪み、真っ赤な血に変わった。


「うあああああああああ」


 葉月は絶叫し、眠りから目覚めて飛び上がる。体からは汗が噴き出ていた。辺りを見渡す葉月。


「ここは…… 私の家か」


 酒瓶が転がるだけの何もない自分の部屋を見渡して、過去の夢を見ていたことを知り、


「ごめんなさい…… ごめんなさい」


 涙をこぼして謝り続けた。

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