表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
34/84

第十四・五話 葉月の夢 中編その二

 夢の世界は葉月が封魔に入って、時間がたった頃を映していた。


 五年前の夜の夢幻界。

 葉月は妖怪と対峙していた。妖怪の姿はトカゲを巨大化させたものに、類似していた。口元に人間の血をふちゃくさせていた。しかし彼女は恐れていない。

 封魔の活動を経て、妖怪に対する恐怖心を消したのだ。それに対し妖怪は葉月のギラリと光る眼と刀に、恐怖していた。葉月はその心の在り方を見逃さない。


「ゼア”ッーーーー」


 彼女は叫び、妖怪に斬りかかる。刀は妖怪の首を切断し、相手に致命傷を与えた。大量の血が舞い上がる。普通ならここで、倒したと思うが、相手は妖怪。

 首を再生し、再び攻撃を仕掛けてきた。葉月は後方にのけ反り、すぐさま札を取り出して、投げつけた。


「雷よ!」


「ギャイイイイ!」


 葉月は念じることで、札の力を解放した。札から雷がほとばしり、妖怪を焼いてゆく、妖怪は断末魔を上げ雷の痛みで身を震わせた。やがて体の動きが無くなり、相手は絶命した。

 辺りには焼け焦げた匂いが立ち込めた。念のため、彼女は死体に寄り心臓部分に刀を突き刺す。そして反応がない事から、完全に死んだことを分かった。


 戦いを終え、彼女は辺りを散策し、退治した妖怪の被害者の遺骨を発見し埋葬した。


「どうか安らかに……」


 手を合わせて、葉月は被害者の魂の安息を願った。すると背後から声が聞こえ彼女は振り返る。

 そこに居たのは、暦とミヅク。

 ミヅクは葉月や暦を率いる今のリーダー的な存在である。


 葉月と暦は今に至るまで、多くの戦いに身を投じた。多くの封魔の死を見てきた。故に彼女たちは実力者であるミヅクが来てくれたことで死をこれ以上見ないと思い、心を少し軽くした。


 彼女たちの封魔の活動は、阿藤夫妻とは別で行動している。ミヅクは葉月に大丈夫かと声をかけ、それに彼女は大丈夫ですと返答した。暦は妖怪の死体を見て口元を手で押さえていた。それを見てミヅクは彼女を心配した。


「大丈夫か、暦。水を飲んで落ち着きなさい」


「はい…… ごめんなさい」


 暦は持参した水筒を飲み、心を落ち着かせた。彼女は妖怪との戦いで精神を消耗させ、異常行動がみられた。例えば突如大きな声で叫んだり、いもしない誰かに話しかけたり、暦は誰から見て異常者の手前だった。


 これらの他に彼女が抱える一番の問題がある。それは死を心に引きずることだ。

 妖怪に殺された被害者の死体を見た時、自分の親の死体と勘違いしたことや、殺した妖怪に対して予想以上の罪悪感を抱え、何度も倦怠感を葉月に訴えていた。

 この事で封魔の中で肉体や精神の治療に長けているミズクが葉月たちに加わった。


 ミヅクが彼女たちのリーダーになったのは、阿藤夫妻が二人の身を案じて、「ミヅクに助けてやってくれないか?」 と願い出たからだ。 

 ミヅクはこれを聞き入れた。理由は子供が死ぬのは見たくないからである。これらの事を葉月たちは知り、阿藤夫妻とミヅクに多大な感謝の念を抱いた。


 水を飲んだ暦は葉月のそばに近づき、何度も何度も手を握った。握られた葉月は暦の行動に驚いた。


「何だいきなり?」


「生きてるかなって…… 葉月生きてるかなって心配になって」


 彼女は何ともない葉月を見てそうつぶやいた。葉月は今の暦の精神状態は危険と判断し、ミヅクにアイコンタクトであることを伝えた。ミヅクはこれに気づき、暦に薬剤を溶かした水を飲ませた。飲ませた水には軽い抗うつ剤の様なものが入っていた。これにより、彼女は一時的に落ち着き、葉月から離れた。


「ふぅむ……」


 それを見てミヅクが手を当て何か考え込んでいた。葉月は気になり暦に聞こえぬ様に尋ねると、暦の封魔の脱退を考えていた。彼女は暦がこれ以上は持たない事。次に強いショックを受けたら精神は崩壊する事を葉月に話した。 


 彼女はそれを聞いて暦を見た。彼女は空を見上げている。何故見上げているのかは葉月には分からない。暦の脱退事態は前に葉月から勧めたことがあるが、彼女は拒否した。暦が何故拒否したのか葉月は不思議に思い、ミヅクに尋ねた。

 ミヅクは暦が脱退しないのは、自分の居場所が消えてなくなるのは嫌だと言う思いがそうさせていると語った。


 暦が何故そう思うかは、葉月にもミズクさんにも理解できた。封魔に入る者は大抵、妖怪に家族と暮らした居場所を奪われている。だから今ある居場所を守ろうとしているのだ。例えどんなに苦しかろうとも。この考えが暦にもあり、そして彼女の思考を悩ませ、狂わせていた。


「とりあえず、いったん帰るか…」


「そうですね…」


 ミズクと葉月はため息を吐き、この場を去ることにした。葉月は暦の手を引いて夜の道を歩き、阿藤の家へと向かおうとする。その時木陰から、名の知らぬ封魔の剣士が飛び出してきた。

 それに彼女たちは驚き何事かと尋ねた。すると相手は大きく負傷した怪我人が出てミヅクに治療を願いたいと話した。


 ミヅクはすぐさま場所を聞き、向かおうとする。葉月や暦も一緒に行こうとしたが、ミヅクは

「私一人で大丈夫だ。お前たちは休め」

 と言い、名の知らぬ剣士と共に、この場を後にした。


  葉月は暦の手を引き、阿藤の家に再び足を進めた。暦が道中、星が綺麗と呟いた。それに葉月も空を見上げた。夜空には星々がキラキラと瞬いていた。

 彼女も思わず綺麗とつぶやき、現状の辛さから目を背けることが出来た。夜の山道を彼女たちは歩く。

 明日の恐怖と今ある生きている喜びを胸に抱えて。


 歩いて何時間かかったか、二人はようやく阿藤宅へと戻ることが出来た。そして扉を開け、


「「ただいま、今帰りました」」


 そう告げたが、返事は無く、家には誰もいなかった。誰もいない家はひどく静かであった。阿藤夫妻はまだ封魔の活動から帰ってきてなかった。


 彼女たちは妙な胸騒ぎを抱えながら、明日には阿藤夫妻の元気な姿を見れると思い込み、布団に入った。

 

 翌日、ドンドンと勢いよく戸を叩く音が聞こえ、彼女たちは飛び起きた。なんだなんだと思い、戸を開けてみると、そこには大きく負傷した阿藤を抱えたミヅクが居た。


「阿藤さんッ!!」


 暦は阿藤に駆け寄る。葉月は怪我をした阿藤を見て頭が真っ白になり思考がマヒした。


「中に入ってもいいかな?」


「え………あはい」

 

 気の抜けた言葉で葉月はミヅクに応対した。ミヅクは抱えた阿藤を布団に寝かせて、突如の訪問理由を話した。そのさい暦は、席を外すよう促されたが、彼女はこれを拒否した。この事から葉月はある程度察してしまった。ミヅクの口から葉月と暦にとって聞きたくない言葉が語られる。


「昨夜 阿藤夫妻は妖怪と戦い、旦那さんが阿藤の命をかばい死んだ。妖怪は生き残った阿藤と救援に駆け付けた者で始末をつけた」


「嘘だ……」


 葉月は思わず、否定した。がミヅクは本当の事だと言う。震えながら葉月は暦の方を見た。暦は顔を伏せて沈黙していた。ミヅクは極めて冷静に言葉を発した。


「今夜、妖怪との大きな戦いがある。参加するか葉月」


「はい、私は妖怪を殺します」


 妖怪に対する怒りで葉月は即答した。心は妖怪に対する冷たい殺意で満ちていた。ミヅクはそれを聞いて分かったと頷き、葉月に阿藤を参加させるなと告げ、家を後にした。


 横になる阿藤を葉月は眺めた。体には包帯がまかれていた。片耳は欠けていた。それをみて彼女は封魔であるからこうなることは在りえたかもしれない、と何度も何度も自分に無理矢理言い聞かせ涙を抑えようとした。


「うううう……」


 が駄目だった。人目をはばからずに泣いてしまった。


 「どうして優しい人がこんなに、苦しまなければならないの……」


 葉月が泣いていると暦が急に立ち上がった。そんな暦に顔向ける葉月。


「どうしたの……」


「私 ……家に帰らなきゃ。みんな待っている……」


「…… 暦?」


「こんなの現実じゃない…… 私の家族も阿藤さんも葉月もみんな幸せで…… こんなの全部嘘よ…」


 暦はそう言い家を飛びだした。葉月は止めようとしたが、阿藤が何か呟いているのに気がつき、そちらに顔向けてしまう。再び暦に目をやると彼女の姿は陽炎の様に揺らめき、葉月の視界から消えてしまった。残された葉月は悲嘆にくれ、阿藤の元に戻り呟きに耳を傾けた。


「―――」


 阿藤は死んだ子供と旦那の身を案じる言葉を発し、涙を流していた。阿藤の呟きを聞いた葉月は悲しみで気が狂いそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ