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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
33/84

第十四・五話 葉月の夢 中編その一

「全部持った?」

 阿藤は、家の玄関先で、葉月と暦を見てそう尋ねた。その言葉に二人は、「はい」と答えた。そんな二人の腰には刀が携えられていた今日この日から、葉月と暦は封魔の剣士としての活動が始まる。


「「それでは、行ってきます」」


 二人は元気よく答えて、扉を開けて、阿藤の家を出た。阿藤は別の場所で仕事があり、二人についていけない。

「…………」

 玄関で一人になった阿藤は、二人の身を案じて、かつこう思った。


(子供が復讐で戦うなんてね……)


 阿藤は二人の生活を援助するたびに、二人が闘いに赴く事を心のどこかで嫌がっていた。妖怪との戦いは命がけである。もし自分の子供の様に殺されたりしたら。そう考えただけで、胸が締め付けられた。

 彼女は玄関で二人を見送るとき、「行かないで」と引き留めようとしたが、出来なかった。

 何故できなかったのか、阿藤自身はわからない。しかし他人が見れば阿藤は自らの復讐の手助けのためと思うかもしれない。


―――

「葉月ィ 怖いよーーー」


 妖怪が暴れている目的地に向かう道中、暦は戦いの恐怖で涙を流してぐずった。それを見て葉月は呆れた。

「お前、今になっても言うのかよ!?」


「だって刀を使うんだよ!」


「妖怪相手にだ!!」


「でも、それって殺すことだよね」


 その言葉で、葉月は言葉に詰まった。復讐のため、封魔に入ったものの、何かを直接殺したことは無い。彼女自身いざ妖怪を目にして、殺すことができるか、不安で仕方なかった。


「……行くぞ」


 葉月は暦へ反論と己を奮い立たせるための言葉を、なんとか口から出そうとするも出来ずに、目的地へ向かう事しか出来なかった。

―――

 しばしの時間の後、葉月と暦は、目的地である『迷宮鉱山』の到着した。この『迷宮鉱山』と呼ばれる鉱山には様々な物が存在しているが、迷路のような坑道も存在している。坑道はいつ誰が作ったのか分からないが、下手に進むと出れなくなる。そのため鉱山で働くものは行方不明になることがある。この鉱山に妖怪たちが住みつき、働く者を襲っていると話があり、封魔が動いた。


 葉月たちは鉱山周辺にある小屋からランタンを借りて、鉱山の入り口まで歩き、中をのぞいた。中は薄暗く、冷たい空気が流れていた。

その空気を肌で感じた葉月たちは背筋が寒くなった。その時。


「おい、女ども何してんだ!!」


「「うわ!?」」


 背後から何者かに声をかけられた。葉月と暦は驚き、肩をすくめながら、振り返る。そこには腰に刀を携えた、葉月達と同年代の目つきが悪い男子が立っていた。暦は男子の目つきに怯えながらも尋ねる。


「あなた誰!?」


「おん、俺の名は久米(くめ)だ。封魔の剣士だ。お前たちこそ何者だ。刀なんか持って」


そう言って彼は、葉月たちの刀を睨んだ。葉月たちは相手が封魔の剣士だとわかると、安堵して、自らの素性を名乗ることにした。


「私の名は葉月。久米と同じく封魔の剣士だ」


「私の名前は暦。私も封魔の剣士」


「ふんそうだったのか。つまりお前たちも妖怪退治でここに来たと言うわけか」


 久米は葉月たちが封魔の剣士である事に鼻で笑った。それを見て葉月は突っかかる。


「なんだよ」


「いや、お前たちの様な子供が封魔の剣士だとはな 使えるのか?」


「アンタだって子供じゃん。お前こそできる奴なのかよ!!」


 葉月は久米の言葉に食って掛かかるが、久米はそれをいなす。


「フン、そんなことはどうだっていい。鉱山の中に行くぞ」


 久米はそう言って鉱山の中に消えていった。しかし彼は顔を赤らめてすぐに戻ってきた。


「ランタンを忘れた。貸してくれないか?」


「……ほらよ」


 葉月は呆れながらも久米にランタンを渡した。それに対して久米は「あんがと」と恥ずかしそうに礼を言った。葉月たちは久米と一緒に鉱山の中へ入り込んだ。


――――

 ランタンで照らされる薄暗く狭い坑道を、久米、葉月、暦の順番で突き進む。葉月と久米は、入り口のでのやり取り以来、話さない。そんな二人のせいか、三人の空気は悪かった。そんな空気を払拭しようと暦が、久米に話しかける。


「あの久米さんはどうして封魔に? むぐう!?」


その言葉を聞いた瞬間、葉月は急いで暦の口をふさいだ。

「そんなナイーブなこと聞くか!?」


 葉月は封魔に入った理由が、理由なので、久米も悲しい過去があるとおもって暦の口をふさいだ。そして申し訳なさそうに久米に「すまん」と口にした。だが尋ねられた久米本人は大して気にしていない。


「別いいさ葉月。俺が封魔に入ったのは、家族を殺されて暮らしていけなくなったからだ。」

 久米の言葉に、葉月は同情した。


「それで封魔に入ったのか」


「ああ。暮らしていけなくなったから封魔に入ったんだ。俺は妖怪を殺して、夢幻界を妖怪のいない世界にしたいんだ」


「妖怪がいない世界……」


「それが封魔に入った俺の夢だ。お前はどうなんだ? なぜ封魔に入った?」


「私と暦は家族を殺されて、復讐のために封魔に入った」


「そうかい。大変だな。……そろそろ手を放してやったらどうだ。暦が窒息死するぜ」


「ああ!? ごめん暦!!」


 葉月はそう言って、暦の口から手を放した。暦は目をぐるぐるさせて、「あわー」とふらふらした。それを見た久米は呆れた。

「こんなので、ここに巣くう妖怪を殺せるのかね」


「此処に巣くう妖怪て、どんな奴なーの」


 ふらふらな状態から元に戻った暦が久米に再び尋ねる。


「大きなムカデみたいな妖怪らしい。そいつが坑道内で暴れている」


「ムカデってあの虫の?」


「そうだ、そいつを殺しに行く。お前たちは妖怪を殺したことはあるか?」


その問いかけに葉月と暦は、しばし沈黙して「ない」と答えた。それを聞いた久米は忠告する。


「妖怪を殺したことがある俺がいいことを教えてやる。殺し合いは、恐怖を捨てた者が生き残る。いいな」


 久米の言葉で、葉月と暦の気は引き締まり、緊張を与えた。それをみた久米が茶化す。


「怖くて、びびってんのか?」

 その言葉に葉月は「緊張しているだけだ」と言い返す。


「それをビビっているていうんだぜ。俺は殺し合いなんて怖くない。だから緊張もないさ」


 久米はそう言って笑う。三人はランタンで照らされた薄暗い坑道のを進む。妖怪を殺すために。


―――

(一体何時間、歩いているんだ……)


 葉月は、ランプの光で現れた自身の影を見てそう思った。葉月たちは時間の感覚すらうまくつかめないほど、鉱山の中を歩いた。三人は口にはしなかったが、ずっと続く坑道や、いつ現れるかもしれない妖怪の恐怖に神経をすり減らしていた。また歩きつづけるため肉体にも負担がかかる。水を飲みたいと思っても持参した水筒はとうに空になっており、舌が口内に張り付いた。


(妖怪はいつになったら現れる!?)


葉月がそう悪態をついたとき、ランタンの光が、前方にいる妖怪達の姿を照らした。妖怪の数は三体。姿は人の姿であるが、背中からクモの様な脚部を二本、生やしていた。その先端は鋭いナイフの様な爪が見受けられた。


「!?」

 ランタンを持つ久米は妖怪に驚きながらも、殺すため刀を抜いた。当の妖怪たちはやってきた久米に驚き、体を硬直。そんな妖怪たちを刀が襲い掛かる。刀は一体の妖怪の首を跳ね飛ばす。跳ねられた首はごろごろと後ろに転がり、暦の足にぶつかった。それを見た暦は思わず叫ぶ。


「うあああああああ」

 しかしそんな彼女を置いて、久米は構わず斬りかかる。坑道内で乱戦が始まった。


「人間ごときがなぜここに!!」


 妖怪たちはそう言って、背中から生えている脚部を使い、襲い

掛かる。それを久米は切り返そうとするが、刀一本では、二本の脚部を防ぎきることは出来ない。

「グゥ!?」


 久米は腹部をわずかに切り裂かれた。切り裂いた妖怪はそのまま突撃して、背後にいる葉月に迫った。それを見た葉月は頭が真っ白になり、何も考えられない。しかし体は動いた。葉月の手は阿藤の刀の訓練でした居合の構えをとる。そして飛びかかる妖怪相手に刀は走った。刀は吸い込まれるように妖怪の片方に生えている手と脚部を斬り捨てた。妖怪は痛みで叫ぶ。


「ギゃヤアアアアアア」


 その叫びを聞いた瞬間、葉月の心の中に罪の意識が芽生えた。しかしそれに構ってられない状況がこの場に居る葉月たちに、襲い掛かる。突如地響きが坑道内に響き渡った。

そして葉月たちの間に、巨大なムカデの妖怪が飛び出した。


 ムカデはその身をくねらせて、壁や天井を破壊して動き回る。天井や壁は破壊されて、瓦礫と化し葉月たちに襲い掛かった。

 葉月は事態にうまく呑み込めずにいた。そんな彼女の目が映したのは自身にむかって落ちてくる大きな岩の塊だった。


 ムカデは坑道を無茶苦茶にして去った。


――――

「体が痛い」


 葉月は体に走る激痛で目を覚ました。そして自分に何が起きたのか整理するため辺りを見渡す。

辺りは土煙や岩の欠片が散乱していた。葉月は自分がムカデの妖怪のせいで、落盤事故にあったことを認識した。


「クソ…… 久米! 暦! 無事か返事をしてくれ!!」


 呼びかけるも返事は無かった。彼女は二人を探すため、痛みに耐えながら足に力を入れて、立ち上がった。

「クソ痛む……」


 そう悪態をつき、地面に落ちていた自分の刀を拾い杖代わりにして歩く。しばらく歩ていると、彼女は恐怖の光景に出くわした。


「!?」


 岩に下半身が押しつぶされた久米の体を先ほどの妖怪の一体が捕食していた。その光景を見て葉月は叫ぶ。


「お前何してんだ!!」


 刀を構え葉月は妖怪に斬りかかった。妖怪は背後からの葉月の声に驚き、思わず振り向いた。

その妖怪の口には久米の臓物が付着していた。葉月の刀はその顔を貫き、壁に妖怪を固定した。


「ギゃアアアアアアアアア」


 妖怪は叫び声ををあげる。そんな妖怪をしり目に葉月は、倒れている久米に駆け寄る。久米の体は血と臓物をまき散らした。そんな彼に声をかける葉月。


「おい、大丈夫か!?」


「……これが大丈夫に見えるかよクソ 岩に押しつぶれて動けない」


 葉月の声に久米は消え入りそうな声で答えた。


「久米! 今助けてやるからなしっかりしろよ!」


「もう無理だ…… 感覚がない…… 死にたくない」


「ない言ってんだよ久米! お前は死なない」


 葉月は懐から札を取り出して、霊力で治癒に当てるが、もはや手遅れだった。久米の命はもはや風前の灯火だった。そんな彼が最後の言葉を葉月に伝える。


「葉月…… 俺を妖怪のいない世界に連れてってくれよ……」


「え……」


「妖怪なんていなければ 俺は死ななくてよかった。 ……封魔なんて入らずに生活できた」


 久米は消え入りそうな声で、妖怪を憎む。

「妖怪なんていなければ…… 妖怪なんていなければ。俺は殺し合いのたび虚勢を張らずに済んだのに」


「虚勢……」


「そうだ葉月。殺し合いなんて怖くないて言ったよな。本当は怖かったんだ…… 妖怪と戦うのが」


「久米……」


「葉月…… 鉱山の入り口で馬鹿にして悪かったな」


「そんなこと謝るなよ。気にしてないよ」


 そんな久米の言葉も、訪れる死によって終わらされる。


「死にたくない。…… 寒い…… まだ生きたい」


 最後、彼は涙を流して、絶命した。葉月は泣きながら、久米を揺さぶる


「おい嘘だろ…… 嘘だと言ってよ。 今日あったばかりで、話したばかりだろ。何で……」


 しかし死体は喋らない。葉月は久米が死んだことが、わかった。葉月は久米の死体を見て、自分の家族と重ね合わせた。そして久米から離れて、突き刺した妖怪のもとに近づく。


「久米。私が、お前が望んだ世界。妖怪がいない世界にしてやるよ……」


 葉月はそうつぶやきながら、刀に手をかけて、引き抜いた。妖怪は支えが無くなり、地面に叩き付けらる。妖怪は葉月に目をやり懇願する。


「いやだ死にたくない…… 俺があいつを食ったのは、生きる為なんだ だから許してくれ。お願いだ」


「…………」


「頼む。頼むよ…… 死にたくない」


 しかし葉月は刀を手に取り、ゆっくりと妖怪の心臓部目掛けて刀を突き刺した。妖怪は刺された瞬間うめき声を上げて悲しみの言葉を発する。


「死にたくない…… 死にたくない……」


 そう言って妖怪も絶命した。妖怪も久米の様に死にたくないと願って死んだ。葉月はその言葉を聞いてどす黒い感情が心に満ち、その感情が葉月に決意させる。


(命乞いする妖怪を殺した。……私はもう戻れない。ならすべての妖怪を殺して、久米が望んだ世界にしよう)


 暦を探すためと、ムカデの妖怪を殺すため、葉月は刀を杖に、歩き始めた。


―――

 葉月はムカデの妖怪が通った道を通り、ムカデの後を追った。やがて彼女は広い空間にたどり着いた。

その空間の中心に長さ百メートルほどのムカデが鎮座していた。ムカデは葉月を見るやいなや、体当たりを仕掛けてきた。


「フンッ!!」


 それを葉月はジャンプして回避。そして体当たりしてきたムカデの頭に刀を突き刺した。頭から液体が飛び散り、ムカデははグネグネと苦悶しているかのように動く。葉月は叫ぶ。

「これで死にやがれ!!」

 懐から、お札を取り出して、刀に張り付かさせ霊力を込める。

「雷よ!!」

 その言葉で刀と札に激しい電流が流れた。電流はムカデの頭の中を焼き焦がす。電流を受けてムカデは鳴き声を上げ、葉月を引き離そうと体を天井にぶつけて、葉月を殺そうとする。だがそんな行動は葉月にはお見通しだった。葉月は天井に叩き付けられる瞬間。刀から手を放して、ムカデから離れた。


 ムカデは勢いよく天井に頭をぶつけて自滅した。ムカデの頭が叩き付けられた衝撃で、頭に突き刺した刀は、よりムカデの頭の奥へ斬り込んだ。葉月は床でありったけの霊力を込めた。


「雷よッ。ムカデの脳髄を焼き払え!!」


 その言葉でムカデの頭の中にある刀が発光。雷と呼べる程の電流が雷と札に発生。哀れ、ムカデの頭は黒焦げになり、地面に倒れ込んだ。葉月は遠目からムカデの命の確認する。


「死んだか」


 ムカデは葉月の言う通り死んでいた。葉月は倒れたムカデの頭に近づき、服に隠していた短刀で頭を切り裂いた。頭の中は黒焦げになっており、その中心に黒焦げになっていない刀があった。葉月は刀を手に取り、久米のもとに戻った。


―――


 暦は落盤事故で、葉月と久米とは違う場所に移動していた。彼女も落石に見舞われて、気絶していた。そんな彼女は何者かに体を揺さぶられて、気絶から目覚めようとしていた。

「うう……だれ」


 暦は体に走る痛みに、顔をしかめながら、ゆっくりと目を開けた。


「え……」


 そこには血だらけの久米を背負った、血だらけの葉月が居た。暦は恐怖して叫ぶ。


「うああああ!!」


「暦私だ。妖怪じゃない」


「……ああ、葉月に久米なのね。でも二人何で血だらけなの」


「……私の血は久米の血だ。久米は妖怪に腹を食われて死んだ」


「え」


 久米が死んだと言う言葉に、暦はあっけにとられた。そんな彼女に葉月は背負う久米を見せる。

久米の腹部からは臓物が垂れ下がり、下半身は押しつぶされたトマトの様になっていた。それを見た暦は思わずゲロを吐いた。ゲロが地面に広がって久米の血の匂いと混ざり合い、辺りに不快な匂いを漂わせた。

「うおお…… げえええ」


「おい大丈夫か」


 葉月は血にまみれた手で、暦の肩に手を置いた。その手を見て、暦は殺された家族を想起してしまい、泣き出してしまう。


「ううう……」


「どうした暦!?」


 突然泣き出してしまった暦に葉月はうろたえてながらも泣き止ますために、声をかけようとした。その時。辺りからうめき声が聞こえた。葉月と暦は驚きそちらに目をやった。

 そこには崩れ落ちた岩の下敷きになっている妖怪の姿が。その妖怪は、葉月たちが遭遇したクモの様な脚を持つ妖怪の一人だったそれを見て暦は怯えた。


「妖怪…… 葉月!?」


 葉月は妖怪を見ても何も言わず、妖怪に近づいた。妖怪は人間が近づいている事に気がつき、命乞いの言葉を葉月に投げかけた。


「止めくれ殺さないで」


 しかし、葉月は反応を返さず、無言で刀を抜いた。そして命乞いをする妖怪の首をはねた。その光景を見た暦は恐怖した。妖怪といえど、友人がいともたやすく命乞いをする者を殺したのだ。そんな暦の感情を察したのか、葉月は暦に振り返って、微笑みながらこう言った。


「安心して。もう殺したから」


 暦は葉月に恐怖した。


―――

 その後、葉月達は迷宮鉱山を抜け出した。久米の死体は、彼が住んでいた場所に埋葬された。

 この戦いの後から、暦の心はゆっくりと壊れていき、葉月は妖怪を殺すことに抵抗感がなくなった。


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