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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
32/84

第十四・五話 葉月の夢 前編その二

 

 夢の世界は移り変わり、葉月が『封魔』に入って少し時間がたった頃を映していた。


 五年前の夢幻界。夕暮れ時の山の開けた場所にて。


「今日はここでお終い」


 葉月は肩で息をしながら、阿藤の言葉を聞いて地面に座り込んだ。彼女は手から刀を離そうとしたが、指が疲れでうまく動かない。葉月の隣には、疲れからか泣いている暦が居る。暦とは葉月と同じ家族を妖怪に殺されて行き場を失い、封魔に入った少女だ。そんな彼女たちの修行の面倒を阿藤夫妻が見てくれている。生活も含めて。


「葉月ちゃん、暦ちゃん大丈夫?」


「はい……」


「ゴヒューゴヒュー」


 葉月は返事をすることは出来たが、暦は疲れからか、うまく反応できなかった。そんな暦に対して、阿藤は水を持ってきて、背をさすりながら優しく飲ませた。葉月が疲れからか刀から手を離せないことを察した阿藤は、葉月の指を刀から優しく外した。


「それじゃあ晩御飯にしましょうか」


 阿藤は動けぬ彼女たちを脇に抱え、自宅へと向かった。封魔の者の住居は山の中が多い、理由としては、山の中で修行することで、霊力を早く得ようとするためである。その他に封魔に恨みを持つ妖怪が、無関係な者に被害を及ばない様にするためでもある。阿藤夫妻もそうしていた。


 彼女たちは抱えられながら家に着く。木造建築の家の窓から煙が出ており、香ばしい匂いが鼻孔をくすぐった。その匂いに暦は思わず「ごはん!」と叫んだ。それを聞いて阿藤と葉月は思わず、笑った。


 家に入ると、阿藤の旦那が料理を机に移していた。彼は風呂の準備が出来ていると彼女たちに教え、汚れを落としてから食事をしようと話しかけた。その言葉で彼女たちは自分の衣服を見ていかに汚れてるのか知り、苦笑した。

 その言葉に応じ、彼女たちは風呂に入ることにした。風呂と言っても、かまど風呂であるが、何とか三人入ることは出来た。お湯により彼女たちの若い肌から汚れが落ちてゆく。暦と葉月は、阿藤に髪をや背中を流してもらった。本来なら、年下である葉月たちがするべき行為なのだが、阿藤が葉月たちにしたいため、行っている。


 阿藤夫妻が封魔に入ったのは妖怪に自身の子供が殺されたからだ。ゆえに子供である葉月たちに対して、親の様な行動をとりたがった。それは自分の子供にしてやれなかったことをしているのだ。


 その優しさは葉月たちにとって嬉しかった。そんな彼女達に阿藤は時折、


「あの子が生きていたなら……」


 と自分の子供の名前を口にした。葉月と暦はそれを聞いた時、悲しさと妖怪に対する怒りが湧き出てきた。こんな優しい人たちからなぜ、子供を奪ったのか、理不尽だとただただ悲しくなった。

 三人は体を布でふきあい、寝巻に着替え、食卓へと向かった。机には、焼き魚と山菜などの盛り付けが人数分置かれており、葉月たちの胃を刺激した。しかし葉月と暦の分は本来ならば出さなくていいモノである。


 なぜならば、葉月と暦はこの夫妻についている居候の様なもので、彼女たちは封魔の剣士の卵ではあるが、阿藤夫妻が食事の面倒を見る必要は無い。

 そもそも今の平和でない夢幻界では食が不安定である。家族でない者に食事を与えることは変で、葉月と暦たちは自分で何とかしなければならないのである。

 葉月たちもそう考えて初めて食事を出されたときは困っていたが、阿藤夫妻は構わずお食べなさいと促した。その言葉に彼女たちは素直に従う事にして、それ以来、阿藤夫妻と食卓を囲っていた。


 食卓に全員揃うといただきますとみんなで手を合わせ、食べ始めた。葉月と暦は初めのうちは遠慮の気持ちがあって、中々は箸が進まなかったが、食べていくうちに、遠慮の気持ちを食欲が上回った。二人はは勢いよく、食べ物を口入れる。阿藤夫妻はそれを見て笑う。


―――


 食事を終え、葉月たちは阿藤による勉学の指導を受けていた。勉強と言っても、読み書き、足し算引き算などの簡単なモノだ。阿藤は二人の前に座って優しく算数を教える。


「ここの数字を足すのよ」


「むむむ、暦助けて」 


 しかし葉月は阿藤の手ほどきがあっても、問題に頭を抱えて暦に助けを求める。


「葉月、こうするんだよ」


 葉月に反して暦はすらすらと答えた。彼女は剣や霊力の修行よりこちらが得意であった。反面葉月は勉学が苦手であり、非常に苦戦した。しかし、暦や阿藤が優しく手ほどきして、何とか進むことが出来ていた。


 夜になり、寝ることになった。葉月と暦は同じ部屋で寝ており、布団を隣り合わせにしていた。ある日葉月は夜中に音が聞こえ、眼を覚ました。

(なにこの音?)


 その音は暦から聞こえており、葉月が目を向けると彼女は泣いていた。暦が泣いていることに彼女は不安になり尋ねる。


「どうしたの……」


「死んだお父さんやお母さんの事を思い出しちゃって………」


 暦は眼をぬぐいながら答えた。その言葉に葉月は思わず死んだ家族の事をを思い出した。


「何でそんなこと言うの………」


 そして暦と同様泣き出してしまった。暦の言葉で、改めて家族が殺され居ない事を実感してしまったからだ。


「ごめんよう葉月………」


 二人が泣いていると、ガラと扉が開けられ阿藤が入ってきた。二人ははうるさくしてしまったと思い、大変申し訳ない気持ちになった。そして叱責を受ける気持であったが、阿藤は何も言わずに二人をを抱きしめ、優しく声をかけた。


「大丈夫よ…… 大丈夫」


 その言葉に二人は阿藤の胸の中で泣き、寂しさを紛らわした。何分か経ち、彼女たちは泣きやみ阿藤にもう大丈夫ですと告げ、感謝を述べた。阿藤はどこか寂しそうな笑顔で「わかったわ」と答えて、


「悲しくなったり、寂しくなったら何時でも私を呼んでね……」


 そう言い部屋を後にした。部屋には葉月と暦だけになり、静寂が包んだ。葉月は暦に話しかけた。


「強くなろうな、暦。二人で強く……」


「うん。絶対に……」


 そう誓いあい、妖怪から人を守る事と、やさしい阿藤夫妻に恩返しすることを決めた。


 ―――夢の世界は葉月の過去を見せてゆく


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