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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
28/84

第十四話 剣と憎しみ 前編

 仕事が終わり、家に帰る。

 誰もいない。

 次の日、仕事が終わり家に帰る。

 誰もいない。

 何度も繰り返す。

 彼女は孤独だった。


 ―――第十四話 <剣と憎しみ>


(なんだおまえ)


 何もない真っ暗な夢の世界で葉月は、黒いジャケット着た見知らぬ女に、話しかけられた。女は(あなたにあげたいものがあります)と言ってエルカードを取り出し、葉月に差し出した。


 そして夢が覚めた。


 どんどんどん。

 家の扉から誰かの乱暴なノックが葉月の耳に聞こえた。葉月は休日の穏やかな眠りをそれに邪魔され目を覚ます。そして目に映ったものを見て困惑した。


「……なんだ」


 葉月の枕の横に、夢で渡されたエルカードが置かれていた。寝ぼけているのかと思い、幻を触れるかのようにカードに触れる。しかし、幻ではなくカードは手のひらに収まった。カードは確かに存在していて、表面には<アサルト>と記されていた。


「わけがわからん……」


 不可思議な現象と夢、それに現実のうるさいノック。余りに非日常的な状況に困惑し、彼女は布団に丸まって現実逃避する。反応せぬ葉月に対して訪問者の声が聞こえてきた。


「おい! いるだろ! 聞いてんのか!」


 葉月は外から聞こえる乱暴な声の主は菫のものだとわかった。


 (このまま放っておくと家を壊しかねないな)


 そう考えカードを服にしまい、扉を開ける。外に髪が黒と金色のでジーパンに薄紫のTシャツを着こなした現代のギャルぽい少女、菫が居た。


「いるじゃねーか、葉月よぉ」


 菫は葉月の顔を見て文句を垂れる。それにいやいやながらも葉月は相手をする。


「うるさい。何の用だ」


「人里に住む妖怪に対する辻切事件があった。管理所に来てもらおうか」


「なに、辻切だと」


 辻切という物騒な言葉に驚き、それを見た菫は怪訝な顔した。


「なにもしらんのか。お前」


 驚く葉月に新聞を見せた。新聞には大きな見出しで『被害続出。妖怪嫌いの犯行か』と書かれていた。菫は尋問するかの如く、葉月に尋ねる。


「葉月は妖怪に対して辻切を行った過去があるらしいな」


「そうだが……」


(……余り思い出したくない)


 葉月は過去の事で言い淀み、それに対し菫はニッコリとし笑い、葉月に


「はい逮捕」


 そう言って手錠をはめた。手錠をはめられた彼女は思わず大声を上げた。


「何のつもりだァーーー」


「うるせえッいいから来い!」


 葉月は抗議するが菫は意に介さず、管理所にずるずると引っ張っていく。


―――


「で、犯行が行われた時には、店で働いていたと」


 管理所には呉服屋の店主が居た。菫があらかじめ呼んでいたのだ。店主は葉月のアリバイを証明して葉月が今回の事件の犯人でないとわかると菫は舌打ちした。そして葉月に威圧的に話しかける。


 「おい、人里にいる封魔の者の居場所を教えろ」


  それを言われた彼女は菫の言葉に呆れた。がしかし、菫は今時妖怪に対して辻斬りを行う奴は封魔ぐらいだろと決めつけの言葉を言う。


 その言葉に、葉月は自身のを行いもあり反論できなかった。


「それに、被害者の妖怪の傷の治りが異様に遅い。こんなことができるのは封魔の存在が頭に一番に浮かぶ」


「それは、そうだが……」


 そう思案する葉月に菫は脅しにかかる。


「教えんのなら、お前を犯人にするだけだ」


「何!」


 葉月は何と恐ろしい言葉を吐くのだろうと、心底困った。困惑する彼女に、子供の様に催促する菫。


「なあ教えろよー海とか月とか山と一緒に行った仲だろう」


「そうだけどよ」


 その言葉に葉月は思考を巡らす。


 (捕まることで呉服屋に迷惑が掛かるかもしれん。まあ封魔で感情的に動いてしまうのは私だけだろう。教えても犯人は封魔の中からでてこないだろう)


 そう頭の中で考えて、菫に話した。


「わかった教えよう。だが捜査には私も同行しよう」


「なぜだ」


「おまえが何か仕出かさない様に」


「……わかった行くぞ」


 こうして彼女は菫と共に、昔の仲間に会いに行くことになった。


―――


  葉月は一度身支度をすませるため家に向かって、人里の中を走る。人里は人々で活気にあふれていた。その中には妖怪も紛れ込んでいる。その光景をみて複雑な気持ちを抱きながら彼女は家に戻り、身支度をすませて、菫と合流。そして封魔が住む場所へと歩き出した。


 道中、葉月は菫に人里にいる封魔は何人と尋ねられたので、自分を除き三人と答えた。菫は数の少なさに少し驚いた。


「ふーんもっと居るのかと思った」


「妖怪と仲良くなって人里では暮らしづらいと言う人もいる」


 葉月がそう答えると、菫は納得して、「ほーん」と気の抜けた言葉を発した。二人は他愛もない話をしながら目的地に向かい歩く。


「ここだ」


 二人は一つ目の目的地に着いた。診療所である。この診療所を運営している者が封魔の一人であるミヅクだ。菫はそんなことは知らないため、声を大きくした。


「あん、ここって診療所じゃねーか」


 診療所に封魔がいることに菫は驚く。そんな彼女をよそに葉月は中に入り、人を呼ぶ。


「すみませーん。ミズクさんいますか?」


 その言葉で足音が二人もとにやってきた。赤毛の妙齢の女性ミズクが現れ、二人の相手をする。


「どうしたんだー。て葉月か」


「すみません。管理所の奴が」


「おい、あんた最近起きてる妖怪に対しての辻切事件のことは知っているな」


 菫は葉月の言葉を遮り話を進める。


「ええ知っているけ。、何、もしかして疑われている?」


 ミズクは不快な顔になった。当り前である。いきなり辻切の犯人として疑われて、気を良くする者はいない。仮に気を良くした者が居たとして、その者は狂人だろう。菫はミヅクの心情を構わず、話を続ける。

「封魔の奴らは妖怪に対して、恨みがある奴が多いらしいんでね」


「私はたしかに封魔の者だったけど、辻切が起きた時間は診療所に居ました」


 菫の話にため息を吐くミズク。菫の隣にいる葉月はそれを見て、菫がこれ以上変な事を言わないか戦々恐々だった。ミヅクは怒ると、とても恐ろしい事を知っているからである。

 封魔に居た時に葉月が自分の怪我を無視し動こうとしたら、ミヅクに大変怒られ、余りの怖さに半泣きになったのだ

 ミヅクの怒りに恐れている葉月に菫は感づかず、ミズクにアリバイを求める。


「それを証明できる奴はいるのか?」


「あなた方の知り合いの了がここに入院している。そしてその看護もしている。これでいいかなぁ?」


 菫の問いにミズクは食い気味に反論する。もしミヅクが辻切を行っていたのなら了はそれに気がついて防いだだろう。


「そうかい、邪魔したな」


 ミヅクの答えに、菫は言葉を吐き捨てて診療所を出た。そんな菫を葉月は逃げるように追いかけた。ミズクは二人が来たからか疲れがどっとあふれ出た。


―――


 道中、歩きながら葉月はあんな言い方は無いだろうと菫に文句を言うが、菫は何とも思ってないらしく逆に反論された。


「強く言わないと喋んねーかも知んねーじゃねーか。次行くぞ次」


「あーわかったよ、クソ」


 確かに、強く言わなければ答えないこともある。葉月は何か反論したかったが、うまく言葉にできない。そして、思わず菫の様に悪態をついてしまった。葉月の態度に菫は足を止め、距離を離す。


「急にキレんなや…… ドン引き気だぞ」


「お、お前……」


 葉月は菫に軽い殺意が沸いた。


―――


 歩きながら、菫が葉月にあることを気軽に尋ねた。


「お前、了と戦ったらしいな」


「ああ、それを誰から聞いたんだ?」


「了、本人から聞いた」


「仲いいよな、お前たち」


「まっ気軽に話をするぐらいにはね。なあ葉月、お前は了を殺そうとしたのか?」


 この言葉に葉月は後ろめたさを感じて少し沈黙し、そうだと答えた。


「封魔の奴は人間を殺さないと聞いてたんだが、ありゃ嘘か?」


「嘘ではない。私の行動は私個人の怒りから来たもので封魔全体の意思ではない。だけど了と対峙したとき、……奴はどこか人間とは思えなかった」


「妖怪と思ったから斬っていいのか?」


 菫の言葉に対し彼女は、「その時の感情に身を任せてしまった」と言い訳めいた事を口にしてしまう。

 すると菫は「そうか、そうかい」と口にしただけだった。


 葉月は了を斬りつけたことを非難を受ける覚悟をしていたので、それ以上何も言わない菫や刀で襲った事をとがめもしないムクや了に対して、大きな罪悪感が葉月の心の底から湧き出る了や菫、ムクの事を心の中では、友人と思っているからだ。そんな罪悪感から逃げるように葉月は話を変えようとする


「今日さ、変な夢を見て目覚めたら、枕元にエルカードが置いてあったんだ」


「あーん。ホントかよそれ」


「本当だ。どうしたらいい? アサキシの所に持っていけばいいか?」


 その言葉に、服からエルカードを取り出して菫に見せた。それを見た菫は目を開いて驚く。


「マジで持っていたのか。アサキシになんかに渡さず自分で持っておけ。役立つこともあるだろう」


「そうか、そうする。しかしなぜ私にエルカードが……」


「どんな夢を見たんだ? どんな奴が渡したんだ?」


「どんなやつだっけな。えっと……」


 思いだそうにしても、不思議と夢の内容が浮かばなかった。


「思い出せないか?」


「すまん」


「いいさ。夢なんてすぐに忘れるものだからな」


 二人はそんなことを喋っていたおかげか、時間を気にせず次の目的地の民家についた。菫は目的地に着き声を大きくして驚いた。


「ここにいるのか。てか、管理所の近くじゃーねかよ」


 そのため、辺りを通る人々に視線を向けられ、彼女たちは少し恥ずかしい思いをした。

 目的の家は管理所から歩いて5分くらいだった。「よしいくぞ」と菫は扉に向かうが、葉月が「まてい」と引き留めた。止められた菫は不満顔になり抗議の目を向ける。そんな彼女にある提案を話す葉月。


「菫、言いたいことがある」


「なんだあ」


「私が話聞き出すからおとなしくしていてくれ」


「何でー」


「元封魔の私が話した方が話も上手くいくだろ」


「-ん、じゃまかせるわ」


 菫はあっさりと聞き入れた。葉月が聞き出すことで事が進む方と考えてのことだ。

 その言葉を聞き葉月はほっと胸をなで下ろした。


 診療所でのやり取りみたいなことをされたら、相手に迷惑をかけるからだ。

 そして彼女が扉を叩いた。中から、顔に傷をおった白銀の髪をした女性が現れた。女性はおっとりした雰囲気を纏っていた。


「あら、葉月ちゃん久しぶりね」


「お久しぶりです。阿藤さん。実はお話ししたいことがありまして」


 阿藤は葉月の顔を見て、笑顔で迎えた。彼女の笑顔に葉月つられ微笑む。


「それなら、家にお入りなさい。連れの方と一緒に」


 彼女は菫の方を見てなにかに気づいた。菫の方もじっと見て、何か考えていた。


「あなた、管理所で働いている菫さんよね」


「そう言うあんたも、管理所で事務として働いているの見たことあるぞ」


 葉月は二人の意外な接点に驚き、阿藤に尋ねる。


「お知り合いで、阿藤さん」


「いえ、知り合いてほどじゃないんですけど、菫さん管理所では有名だから」


「なるほど ……菫のほうは知らなかったみたいだな」


「……うるせいよ」


 その言葉に菫は目をそらした。阿藤を知らなかった事が恥ずかしいと感じたからだ。


「お話は外でなく、どうぞ中に」


 阿藤は二人を客間に招き入れた。葉月は今回起きた事件の内容を話した。


「そうですか」


「ええ」


 阿藤が出したお茶を葉飲む葉月。葉月は封魔に居た頃に阿藤に大変世話になった。そのため辻切がどうだこうだ聞くのは気が引けていた。

 そのせいで中々、話を聞くことが出来ず、思わず辺りを見た。客間に生活感を感じられるものは見かけなかった。誰かと暮らしている後もなかった。寂しい空間が広がっていた。

 葉月はこの寂しい空間を作り出しているのは阿藤の過去が尾を引いている事に気がついた。

 その空間に唯一存在感を放っていたのは、飾られていた刀だけであった。この世界では自衛のために武器を持つのは珍しくない。葉月が何も言わないのに対し、菫がしびれを切らし、口を開く。


「実は封魔の者の犯行だとみている。あんたその日、その時間何していた」


「その日は休日で家に居ました。一人で」


 彼女は困った顔で菫を見た。菫はその言葉には懐疑的だ。


「でも私はできませんよ」


「なぜだ。ワケでもあんのか」


「ええ、あります」


 菫の問いに阿藤は上着を脱いだ。彼女の体には痛々しい傷跡があった。耳もかけていた。それをみて顔をしかめる菫。阿藤は出来ない理由を並べる。


「私は封魔に入って、戦いこうなりました。もう戦うことは難しいでしょう」


「そうかい…… なあ個人的に聞きたいんだがいいか」


 阿藤さんは上着を着きなおし、了承した。 葉月は黙っていた。


「お前はなぜ封魔に入った」


「…………」


 場の空気が凍った。菫は阿藤に追及する。


「何だ、言えんのか」


「いえ、言えますよ。私が、私たちが封魔に入ったのは妖怪に子供を殺されたからです。憎しみ一心で夫と一緒に封魔に入りました。その後活動していくうちに、葉月ちゃんたちと出会いました。しかし戦いが続くにつれ夫も死に、多くの人が傷つきました。その後は大災害によって平和になって今の私になりました」


 阿藤の話を聞いた菫は静かである。葉月は阿藤の過去を菫が茶化すんじゃないかと不安したが杞憂であった。

「ふーん、今一人で住んでんのか」


 菫は部屋を見渡し、そう尋ねた。誰かと一緒に住んでる形跡は無い。


「そうですよ」


「そうかい、邪魔したな」


 それを聞き満足した菫は立ち上がり、去ろうとする。葉月も会釈しこの場を後にしようとする。しかし、阿藤に止められた。


「何か様ですか阿藤さん?」


「ねえ葉月ちゃんは、今でも妖怪を恨んでいるの?」


 そう言って不安げに葉月に尋ねた。その言葉に、ムクを思い出し、後ろめたさを感じて、目を伏せながら葉月は答えた。


「ええ……」


 そう肯定する葉月の言葉に対して、阿藤は悲しい笑みを浮かべた。


「そう、呼び止めてごめんなさいね」


「では、お元気で」


 葉月も家を出た。外では菫がぼーっと空を見ていた。目線の先には何もなく、雲が浮かぶ青空が広がっているだけだ。


「次行くぞ」


「ああ」


 二人は次の目的地に向かい歩く。葉月は独り言のように菫に話しかける。


続きが読みたいや、おもしろいと感じたら、評価やポイントしてもらえると嬉しいです。

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