第六・伍話 放たれるアーチ
―――<第六・伍話 放たれるアーチ>
嫦娥事件が終わった頃の話。葉月と菫は診療所の病室で隣り合ってベッドで寝ていた。
葉月が菫に話しかける。話しかけられた彼女はしんどそうに顔を向けた。
「おい、菫とか言ったな。了とは親しいのか?」
葉月の言葉に怪訝な顔を向ける菫。
「んお…… 葉月とやらだっけ、いきなりなんだ。つーか何。気になる事でもあんのか?」
「いやさ、了がお前の事知っているぽいしな。私は了の事には何も知らない、だから了について聞きたい」
そう話しながら、了と戦った時を思い出す。葉月は戦闘能力に長けていた了を、ただ者ではないと判断したのだ。しかし菫の反応は意外なモノだった。
「知ってどうすんだよ、何かあれかもしかして」
菫は良からぬ事を想像して吐き気をもよおした。聞いた側の葉月は何のことだかは分からないため、尋ねる。
「あれって何さ?」
「……おまえ女が好きなのか…… えぇ」
「……はああああ?」
葉月は驚きの声を上げて否定した。しかし菫以外にもコレを信じず、穏やかに話しかける。
「まあ、人にはいろいろな趣味趣向があるからな、気にするな、だがわたしに寄るなよ」
「違う!」
「本当かー女が好きじゃないのかー? おーん?」
「違う違うううう」
声を荒げ、否定した葉月を見て、菫は葉月がそう言った性的趣向を持ち合わせてない事に気付いたが、おちょくるためわざと信じたふりをすることにした。これは月の出来事ごとへの復讐である。
「ほんとかー? ほんとにほんとかー?」
「本当に本当だああああ!」
「なら男が好きとか言ってみろ」
菫の言葉に羞恥を感じたが、菫の挑発に乗り大きな声で叫んだ。
「私は男が好き!」
叫びは診療所に響き渡り、診療所内で一時は葉月は男に飢えているとの噂が流れた。言わせた菫は葉月が言う事を拒否する思っていたため、顔を引きつらした。
「お、おうそうか、男好きなんだな……」
「……ああああ」
葉月は顔を赤らめ、布団にくるまった。勢いでやったため、羞恥といった感情が今になって襲ってきたのだ。 そして今日の事は酒をのみ忘れようと心の中で考え、死んだ両親にこんな娘でごめんなさいと謝った。布団にくるまる葉月を見て、流石の菫も多少なりの罪悪感に駆られて、了の事を話してやる事にした。
「了とはそれなりの付き合いで、あいつに基本的な仕事のやり方を教えたのは私だ」
「……昔はどんな感じだった」
布団にくるまりながらそう尋ねる葉月。さながらカタツムリだ。
「初めて会った時は今の様な感情豊かでなかったな。無口というかそう無感情だった。でアサキシが私に、了がこの世界で生活できる様に教育してくれと頼んだ」
「菫なんかにできんだろ……」
「その通り、基本的な道徳は教師やアサキシ、温厚な妖怪などに接しさせ、感情をはぐくませた。で私は了に戦う時の心のありようを教えた。」
「……お前が戦う時の心のありようなんて教えれるわけないじゃん」
月の都で菫が行った暴行を目にした。ゆえに信用が出来ない。
「ふん!何とでも言え。私はこう教えたのさ、敵は徹底的に潰せとな」
葉月の脳裏に了が言っていた菫はやり過ぎる奴だと言う言葉がよぎり、了も何やかんやで大変だったんだなと思った。
「なるほど。了の奴が甘い一因はお前を反面教師にしたからか……」
「違いますー了は私を敬い、参考にして今の了があるんですー」
二人が話をしていると部屋の扉がガチャリと開けられた。了が入ってきたのだ。
「見舞いに来たぞー…… て何で葉月布団にくるまってんの?」
「さあな、今お前の話をしていた所だ」
「へーん。どんな話? ていうか、仲良くなったのか?」
「そうさ、葉月の面白い叫びを聞いて友達になってね。私がお前をここまで育て上げたという、私の偉大な行いの話していた」
「アハハ、確かに菫には世話になったね」
「……月に行くとき了は菫の事悪く言ってたぞ」
葉月は了に告げ口を行う。これは正当なる復讐だ。 そう考えほくそ笑んだ。了は悪い悪いと菫に謝る。
「気にしてないさ。それが私の性格だからな。下手に、善人だよーて伝えられても困るし。それに私のこと誰かに紹介する時に悪く言えって言ったしな」
「菫は本当は良い奴なのになー」
「おい、そんなこと言うなバカ。葉月に聞かれるだろ」
「安心しろ聞こえている。何故悪く言うようにさせているんだ?」
葉月は菫に尋ねる。菫は一瞬、葉月から目線をそらし、
「……私、自身が駄目な奴だと自覚しているからさ」
そうおどけてみせた。菫の心境を二人には分からなかった。菫はこの話題から話を変えるため、了に話しかける。
「まっ悪口言って悪いと思ってんなら、飯でもおごってくれよ」
「ああいいぜ、葉月もどうだ?一緒に来ないか?親睦も兼ねて」
「……了。私はお前を殺そうとしたんだぞ、なぜそう言う風に接せる?」
「葉月には重く悲しい理由があったのと、私は生きてるし五体満足、何ともない。それにムクも何ともなかった。だからさ」
「そうかい……」
「でもあんなことはもうするなよ、絶対にな。でどうする飯食いに行く?」
「行く……」
二人は白装束から私服に着替え、病室を出た。
三人は外出する際にミヅクに話しかけた時、葉月だけ後で説教があると言われた。年若い女の子があんなことを大声で叫んではなりませんと言うものだった。
この時、あの大声が病室だけでは無く、診療所全体に響き渡ったことを知り、葉月はひどく赤面した。
―――
人里にある、満腹屋と書かれた飲食屋に三人は来ていた。菫は了に耳打ちする。
「ここ私が教えた店じゃねーか、もっと高級な店だと思っていたぜ」
「私はここが好きなの、美味しいし、安いし、葉月はここに来たことあるの?」
「たまにな、確かにここのは味が良い」
「んじゃ注文すっかなすっませーん」
菫が大声を上げ、店員を呼ぶ、呼ばれてきたのは年若い少女、しみだった。
三人はしみに注文を伝えていく。そのとき店に新たな客がやって来た。青い髪の美しい女性アサキシである。
菫はアサキシに気づき、顔を伏せる、突如の行動にしみは目を丸くしたが、注文を聞き終えたため、厨房へと引っ込んでいく。
二人が、菫にどうかしたのかと話しかける。
「私たちの後ろの席にアサキシが座ってやがる……」
「ああそれがどうかしたか?」
菫の言葉に葉月は疑問を浮かべ、了はため息をついた。
「了の奴は知っていると思うが私はアサキシが嫌いだ」
「お、そうなのか…… で?」
「わかるだろうにさ! 嫌いな奴いる店で美味しくご飯をいただけるか!」
「そんな子供じみた理由か……」
「いつもこうなんだ、アサキシに関するものは嫌がる」
了はやれやれと言った手振りをし呆れている。
葉月はそうなのかと思いアサキシの方を見る、そして驚いた。アサキシは料理を成人男性以上に注文していのだ。
それを見て、アサキシの様な女があんなに食うのか、食費は大丈夫なのか? と目を丸くした。注文を受けたしみもさすがに驚き、本当に大丈夫ですかと聞き返したが、
「問題ない頼む」
「えぇ…… わかりました」
しみが注文を受け取り、厨房に持っていくと、悲鳴が上がった。おそらくは中々時間がかかるためであろうから。
葉月は了にいつもああなのかと恐る恐る聞いた。そしてそうだと返答され、よくわからない恐怖に包まれた。そんな彼女に了が私もあれぐらい食べると伝え、さらに葉月をよくわからない恐怖で包んだ。
「お待たせしました」
三人が頼んだのは焼き魚定食と言ったポピュラーな物だった。葉月は了に感謝し食べ始め、菫はアサキシを見ない様に急いで食べ、了に喉をつまらすと心配された。
―――
三人は飯を食いを喰い終わり、外に出た。菫は急いで食ったせいか、腹を抱えて痛そうにしていた。
「良し帰ろう…… 胃が痛い」
「急いで食うからだ」
了は腹部を痛そうに抱えている菫を見て、そう言い笑った。その言葉に菫は何も言い返せなかった。
葉月はこの後、ミヅクの説教があるのを思い出して肩を落とした。
「了…… エルカード使って、おぶってくれ…… 気分が悪い」
「しょうがないなあ…… ほら」
<グリフォン>
了の背に翼が出現した。菫は背に身を任せ、葉月は抱えられる形になった。彼女は了に抱えてもらうことを拒否したが、菫が無理矢理引き込んだ。一人抱えられるのは恥ずかしかったのだ。
「それじゃ飛ぶぞ!」
了は力を使い飛ぼうとした瞬間、菫がある言葉を発した。
「吐きそう…… てか吐くわ…… オローーーー」
菫の口からゲロがアーチの様に放たれ、了のジャケットと葉月の頭に降り注いだ。
「あああああああああああああああ」
「あああああああああああああああ」
二人の叫びが人里に響き渡った。
その後、新聞の小さな記事に人里でゲロを吐き、叫ぶ少女たちという文章が書かれた。
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