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夢幻界 望み叶えるモノ  作者: はぎの
第一部 了、編
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第一話 青い月と神のカード 前編

了が主人公。 ブラウザのウインドウを狭めたら読みやすいかもです。主人公が男口調なのは訳ありで、名前は伏線です。


 夢幻界と呼ばれる異世界がある。その世界には人間のほかに妖怪が住んでいた。


 そんな人間と妖怪はある『人間』をきっかけに、血みどろの争いに発展した。


 だがそんな争いは、突如正体不明の大爆発により、終止符が打たれた。


 人間と妖怪は互いの生活を立て直すため、和解することになった。


 約五年前の話である。


 そして現在、吸血鬼が夢幻界にやってきた日を境に、月は青く怪しげに光る様になってしまった。

〈第一話青い月と神のカード〉


 江戸時代の様な街並みの『人里』では、人々は和服を着て、生活をしていた。店にはちょうちんが飾られてあったり、通りには焼き鳥屋やうどん屋といった屋台が並ぶ。そんな人里の大通りを行き交う人混みの中で、黒髪の少女、(りょう)の姿は人々から少々の注目を集めていた。

 注目を集める理由は、彼女の体がひときわ大きいだとか、小さいだとかでは無い。髪は肩にかかる程度で肉付きは十五歳の少女のもの。


 彼女が注目を集めている理由。それは彼女の服装が周りの人の様な和服ではなく、白のエナメルジャケットに、黒のシャツとスカート、ブーツを身に着けていたからだ。

 また了の容姿が可憐な花の様に美しく、スカートから健康的な素足が見えるため、男性の視線を集めてしまう。しかし了は、

 

 「ふんふんふーん」

 周りの視線を気にせず、鼻歌を歌い、行きつけの店に足を進めていた。


 その途中、銀行と書かれた店から――


「キャーーー!」

 叫び声が了の耳に届いた。


「何事だ!?」


 了が銀行の中をのぞくと、男が子供を捕まえて、ギラギラと光るナイフを向けていた。男が叫ぶ。

「今すぐ金を出せ!! 早くしないとこの子供がどうなってもいいのか!?」


 そう言って、男は刃物をちらつかす。男の言葉に銀行員は怯えて金を出そうとする。そんな騒然とした銀行内に了は何の躊躇(ためら)いもなく入り、男の真正面にたった。了が入り込んだことに、男は驚いて声を上げた。

「なんだてめえっ!?」

 その問いかけに了は冷静に答えた。

「おい、子供をはなせ。なぜこんなことをする? 理由を話せ」


 しかし男は彼女の言葉に逆上して、刃物を向ける。人質に取られている子供は怯え泣くのみ。

「警告はした‼」


 その言葉とともに了は、男に向かって走る。男は驚きながらも、刃物を了に向かって振りかざす。ナイフは深々と了の脇腹に、……刺さらなかった。刃物が肌に触れた瞬間、〈アイアン〉と奇妙な音声が金属音が共にこだました。

 男の攻撃を彼女は無視して、拳を男の顔面に当てた。拳は見事命中。男は後ろに反り返り、刃物を持つ手が緩んだ。それを了は見逃さず、刃物を素早く奪い取って遠くへ放り投げた。そして

これで終わりだと叫び、男を再び殴り飛ばして気絶させた。


 了のとっさの行動に群衆は、喝采を送った。彼女は人質になった子供の目線へしゃがみ、優しい声色で

「もう大丈夫よ。怖かったね」


そう言って頭をなでた。子供が彼女に尋ねる。


「お姉ちゃん、なんて名前なの?」


「私の名前は了。さてと」


 了は殴り飛ばした男に近づき、肩を揺さぶり、男を起こした。男は周りを見渡して自身の行動が失敗した事を認識した。そんな彼に「おい、お前はどうしてこんなことをした」

 と美しい外見に似合わぬ口調で了は尋ねた。男は強盗に失敗して自暴自棄になったのか素直に話しはじめた。


「全部、母親のためだよ」


「母親のため?」


「母は体を壊して動けなくなったんだ。母の介護に多額の金が必要なんだ」

男はうなだれながら、真実を話す。了は家族のためと聞いて、同情の念を抱いた。

「そうか母親のためか」


「昨日の晩ふと『青い月』を見て、将来母親にかかる金にたいして不安になったんだ」


「青い月を見てか?」


「そうだ、だけどもうだめだ。あんたに阻止されちまったんだからさ」


 男は絶望して顔に影を落とす。彼にとってこれが最後の手段だったのだ。そんな彼に了は


「かもな。だけどここが銀行でよかった」


 そう言って、銀行員を呼び頼んだ。呼び出された銀行員は何がなんやら不思議な面持ちで了のそばに駆け寄った。了は銀行員に告げる。


「私の口座の金を、この男の母親にやってくれ」


 その言葉に周りは驚き、当たり前のことだが男はとても驚き、了に尋ねた。


「なんで俺なんかのために」


「あんたの親を思う気持ちに、うたれただけさ。私は財布にあるわずかな金だけでいい」


 その言葉に男は静かに、「ありがとう」と感謝の言葉を述べた。


「しかし強盗はいけない、罪を償ってくれ」


「わかりました」


 男の言葉に了は微笑み、銀行の外に出た。そして本来の目的地に向かった。


ーーー


 了は満腹屋と書かれた大衆食堂に入った。

 店内の内装は、居酒屋の様なカウンターに木でできたテーブルが並べられていて多くの者が食事を楽しんでいた。了が空きテーブルに座ると、陰鬱な空気を纏った女店員がやって来て注文を尋ねた。


「なににしましょうか」


「じゃあ月見うどんを頼むぜ」


 そう伝えると、店員は承りましたと厨房に向かった。了が椅子にもたれながら料理が来るのを待っていると、隣のテーブルに座る男たちの話が了の耳に入ってきた。


「なあ青い月は何時(いつ)まで続くんだ」


「さあな、しかし不気味ったらありゃしない。俺の近所も不安になってる」


 彼らが話しているのは、今起きている、月が青くなる事件のことだった。


「月が青くなったのは吸血鬼が、人里近くにある『暗闇の森』に現れてからだよな」


「そうだ。吸血鬼が月を青くしてるのさ」


「なぜそんなことを?」


「吸血鬼や妖怪は青い月で力を増すからだとよ」


「もしかして人を襲うために?」


「かもな。殺されたら、生ける屍(ゾンビ)にされちまって噂で聞いたぞ」


「ひいいい。恐ろしい」


 男たちは話ながら吸血鬼に怯えて震えあがる。了や彼らが住む『夢幻界』は鬼や天狗、河童に人狼などの妖怪たちや魔法が普通に存在する異世界で、現代の人間世界の様な高度な社会はない。


 そのため、人々は荒唐無稽な噂や話でも信じて恐怖してしまう。了は男たちの話を聞いて、腕をくみ考える。


(青い月や吸血鬼に怯えている人がいるのか。なんとかしたほうがいいのかも)


 了も吸血鬼や月が青くなっている事を知っていたが、今のところ実害がない事で気にせずにいた。しかも男たちの話を聞いて、周りの者がとても怯えていることを初めて知った。話をしていた男たちは席を立っても吸血鬼と青い月に怯えていた。


(しかし、怯え過ぎじゃないか? 月が青くなっただけなのに)


 了が男たちの異様な怯え方に疑問に思っていると、店を出る男たちと入れ替わる様に女性が入ってきた。その女性は了に近づき話しかけてきた。


「やあ、了」


 了は話しかけられて、そちらに顔を向ける。話しかけてきた女性の髪はあずき色の長髪で、後ろの髪を三つ編みでまとめていた。服装は周りの様な和服ではなく、仙人が着る道士服を着ており、道士服は白色を基調とした物で清楚な印象を周りに与えていた。了はその女性の事を知っていた。


「仙人の雪梅(シュメイ)じゃないか。どうしたんだ?」


「偶然店に入ったらお前がいたんで、頼み事を聞いてもらおうと思ってな」


「仙人で学校の先生が私になんだ?」


 雪梅に声をかけられて、了は疑問に思う。そんな了の疑問を察してか雪梅は了の対面に座り、話をはじめた。

「青い月と吸血鬼について、お前は知っているか」


「ああ知ってる。隣の人もそのことを話していたよ」


「そうか。私が頼みたいのは、了に青くなった月を元に戻してもらいたいんだ」


 彼女は頭を下げて、了に頼み込んだ。彼女が了にこんな事を頼むのは、了が事件解決者という職に就いているからだ。

 この世界では唯の人間が事件を起こすほかに、特別な力を持った者や妖怪達も事件を起こす。


 そういった力を持つ者達の事件を解決することを生業にしている者たちがいた。その者たちは事件解決者と呼ばれている。了もその事件解決者の一人だった。


 雪梅の頼みに、了はやや不思議な顔した。


「今さっき隣の人の話を聞いて、青い月は何とかしようと考えていたけど、なぜ早期解決を望むんだ」


「あの青い月は、人の心を惑わす術がかけられている。そのため人々は異様に不安がっている」


「それは本当なのか?」


「本当さ、私は仙人だからわかる 人が青い月をみると心に悪の考えや恐怖心が芽生える様にしてある」


 雪梅の言葉に、了は先ほどの強盗騒ぎを起こした男の言葉を思い出す。

(そういや さきほどの男も青い月を見て、母親にかかる金を心配して強盗を考えたと話していたな)



「このまま青い月をほおっておくと、恐怖心が増大され、人心の乱れが起きて大変な事になるかもしれない」


「雪梅は学校の先生だから、考え過ぎじゃないか」


「学校の教師をしているからだよ。もし生徒に何かあったら耐えられない それに『五年前の事』がある。異界からやってきた者には注意しなければならない」


 『五年前』のことを思い出して、彼女は険しい顔で手を握りしめた。それを見た了は雪梅を安心させる様に優しく声をかける。


「わかった。私が今夜、月を元に戻すよ」


「本当か!?」


「ああ、安心してくれ、絶対に元に戻して見せるよ」


「そうか、ありがとう」


 雪梅は深々と頭を下げた。それを見た了は気恥ずかしさから顔を赤くした。

 その時、


「お待たせしました。月見うどんになります」


 店員が注文した月見うどんを持ってきて、了の目の前に置いた。雪梅は月見うどんを見て驚く。


「もしかして、私が青い月の話をする事を知っていて頼んだのか?」


「ふふ、そんなわけないよ」


 了は笑い返し、月見うどんの卵を青い月に見立てて、卵に箸を突き立てた。


―――



 その後月見うどんを食べ終えた了は雪梅と別れて、店と人里を後にし、自宅に戻った。


 彼女の自宅は、人里から離れた野原にある小さな丘の上に立っていた。家の姿はまるで小屋の様なもので、他者が了の家を見ると、少女である了が住むには不安になるほどである。


 そんな家に住む了は、家の前に設置されているポストに手紙が入っていることに気がついた。


「おっとなにかな」


 ポストを開けて手紙を手に取り 家の中に入った。家の内装は家の外観

にふさわしく、テーブルや箪笥や、布団といったものが存在せず、がらんとしていた。そんな家の床に座って手紙の封を開ける。


 手紙にはこう書かれていた。


『吸血鬼がやってきて以来、月が青く染まり、人々は怯えている。吸血鬼の調査・青い月の解決を願いたい。月を戻せば褒美を出す。退治の際、もし吸血鬼を殺害したなら、さらに褒美を出す』

  

 手紙の内容は雪梅同様、青い月に関してだった。了は手紙に書かれた『殺害』の文字に眉をひそめながらも、青い月で多くの人が困っていることが改めてわかり事件解決を誓う。


「やってやるさ」


 そして、床に転がり 夜になるまで仮眠をとることにした。

―――

 青い月が浮かぶ夜。

首に鈍い痛みが走り、了は床から起き上がった。そして、首に手を当てて、つぶやく。


「くそ、全然眠れんかった」

 

 吸血鬼の時間の夜になるまで、仮眠をとっていたが布団が家にない為、十分な眠りを取ることができなかった。そのため肩や腰に痛みが走りため息をついた。


「褒美で布団をもらうか」


 そして『カードホルダー』を持って家の外に出た。外は夜。冷たい風が吹き、野原の草花を揺らす。了は冷たい風を浴びながら吸血鬼が居る場所に足を進めた。


 青い月が夜道を照らした。


続きが読みたいや、おもしろいと感じたら、評価やポイントしてもらえると嬉しいです。

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