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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ふしぎのくに×百怪対策室 ~ヴィクトリア・L・ラングナーの解答~

作者: 中邑わくぞ

勝手にコラボしました。

素敵ですよね、セシャトさん。

 1


 キン、コーン、と呼び出し音が鳴った。


 「コダマ、依頼人だ。出迎えてこい」


 可憐な少女の容姿にはまったく似つかわしくないぞんざいな口調で百怪対策室室長、ヴィクトリア・L・ラングナーは僕、空木コダマにそう言った。


 「はいはい了解です」


 いつものことなので気にせずに僕は依頼人を迎えるために応接室から出る。

 普通のアパートでは決してありえない長さの廊下を進んで入り口のドアまで行く。

 (かい)(じょう)、そして解放。


 「ようこそおいでくださいまし……た……」


 挨拶しようとした僕は思わず息を呑む。

 なぜなら、ドアの前に立っていた人物がちょっと現実離れしていたものだから。


 「こんにちは、初めまして。セシャトと申します。お願いがあってお伺いしました」


 つややかに日光を弾く銀の髪。滑らかなチョコレートを思わせる褐色の肌。そしてなぜかカフェの店員みたいなブラウスにベスト、そしてロングスカート。

 控えめに言っても、かなりの美人が立っていた。


 なにこれ? 新手のどっきり?



 2



 「ようこそ百怪対策室へ。私が室長のヴィクトリア・L・ラングナーです」


 僕には決して向けることのない爽やかな調子で室長は挨拶する。


 「どうも初めまして。セシャトと申します。……ヴィクトリアさんにお願いがあります。この物語を答えを教えてもらえないでしょうか?」


 テーブルを挟んで対面するように置かれている四つのソファ。

 僕と室長、そしてセシャトさんはそれぞれ座っていた。

 そして、セシャトさんは肩から提げていたおしゃれなカバンから取り出したノートパソコンを開いて室長に向ける。


 その一瞬で、題名は読めた。


〈人形少女を誰が殺した?〉


 物騒すぎるわ。


 「これは?」

 「とある作者さんが書かれたweb小説なんですけど、解答が投稿される前に削除されてしまった作品なんです。解答が気になるんですけど、ちょっと私にはわからなくて」

 「なるほど。わかりました。引き受けましょう」


 珍しいことに室長は二つ返事で了承すると、書かれているweb小説を読むためにかノートパソコンを自分の方に引き寄せようとして――セシャトさんの手に(はば)まれた。


 「?」

 「推理モノですし、こういう趣向はどうですか?хуxоториxтупунобеннсённзу(Web小説世界疑似転生)」


 どうなっているのかは全くわからないけど、セシャトさんはどこからともなく金の鍵を取り出し、ノートパソコンの画面にぶっさし、あまつさえそれを捻った。

 そして、僕の視界は光に包まれた。



 3



 むっとするような死のニオイが充満している。


 視界が戻った僕が最初に見たもの、それは死体だった。

 少女の死体。

 ただし、尋常な死に方じゃなかった。


 まるで操り人形のように天井から下がっている何本もの紐が、その体のいたる場所に巻き付いていた。

 ここは……一人暮らしの部屋か? 多分そうだ。狭っ苦しいし、やたらにモノがあふれている。

 その中央に、まるでダンスの途中で停止した人形のような少女の死体が吊られていたのだ。


 「な、なんですか……これ」

 「私はweb小説の世界に入れるんです。詳しいことは秘密で」


 思わず漏れた僕の呟きにセシャトさんはいたずらっぽい調子で答えてくれる。同時にわざとらしく人差し指を唇に当てていた。

 やっべ、この人も室長と同じタイプか? 美人なのにもったいない。


 「で、セシャトさん。情報が欲しいんだが、どうすればいい?」


 すでに僕に対する口調と同じようになってしまっている辺り、室長もセシャトさんがただ者ではないと感じているのだろう。いや、これでただ者であると思うほうがおかしいけど。


 「ちょっと邪道なんですけど……えいっ」


 何もない空間で金の鍵を捻る。

 すると、じわじわと浮き出すように空間に文字が浮かび上がってきた。


 しっかりと血を連想させる赤い文字なのは余計だと思ったけど。


 〈被害者:(まわり) 明日音(あすね)。死亡。死因は窒息死。死亡推定時刻は午前十時と推定される〉


 〈第一発見者:牛宮(うしみや) 彼方(かなた)。明日音の友人。警察に通報。通報は午後三時。遊びに行く約束をしており、そのために訪問したと主張。メールでのやりとりを確認済み。午前十時時点ではアリバイが存在〉


 〈被害者の友人:梶尾(かじお) 芳紀(よしのり)。廻の知り合い。廻に告白したが振られる。死亡推定時刻のアリバイが存在せず〉


 〈被害者の友人:佐々羅(ささら) ()()。廻の知り合い。梶尾に想いを寄せる。廻を恨んでいた。犯行時刻のアリバイが存在せず〉


 〈死体発見時、玄関のドアは開いていた。その後の警察の調査によって、他の出入りできる場所は施錠されていた。マンションには監視カメラがあり、玄関から出入りした人物確認されていない〉


 次々に情報が浮かんでくる。


 どうやら、いわゆる密室殺人的なモノみたいだ。

 玄関のドアは開いていても、監視カメラがある。それに見つからずに室内に侵入したいところだが、他の場所は施錠されている、と。


 そして、問題は被害者の死に方だ。

 操り人形のように何本もの紐で上から吊されている。


 自分でこれをやるのは無理だろう。

 首を吊る前に手足に紐を結んでしまったら首が絞まらないし、逆に首を吊った後に手足に紐を結ぶような曲芸はできまい。っていうか人間じゃない。


 「…………なるほど。解けた」

 「流石です」


 あっさりと解いてしまった室長と、うれしそうに褒めるセシャトさんだった。

 再び僕の視界が光に包まれて、僕達は百怪対策室の応接室に戻ってきていた。


 「では、ヴィクトリアさんが至った解答を教えてくださいますか?」


 うきうきとした調子でセシャトさんは答えを急かす。

 数秒の沈黙の後に、室長は言った。


 「これは自殺だ。廻明日音の自殺と、それを装飾した牛宮彼方の物語だ」



 4



 自殺。室長はそう言った。

 しかし、それじゃあクリアできない課題がある。


 「でも室長、自殺だとしたらどうやってあんな……操り人形みたいなことになるんですか?」

 「普通に首を吊ったんだ。その前に天井から何本も紐を垂らしていただろうがな。後は死体を発見した協力者が死後硬直の本格化前に紐を結ぶ。それで完了だ」


 あ、なるほど。それなら監視カメラの問題も関係ない。

 紐を結ぶぐらいなら警察が来るまでに完了してしまうだろうし。


 「そうでしたか。お見事ですね」

 「まあ、私の推理だから、もしかしたらもっとどんでん返しがあるのかもしれないがな」

 「いえいえ、きっと……ヴィクトリアさんの推理が当たっていると思いますよ」


 にっこりと笑うと、セシャトさんは立ち上がる。


 「ありがとうございました。では私はこれで失礼します」


 丁寧に頭を下げると、優雅にセシャトさんは退室していった。


 「……なんか、不思議な人でしたね」

 「そうだな。私も初めて出会うタイプだ」


 絶対嘘だ。


 

 5



 百怪対策室応接室。


 コダマが帰ってしまったその中で、ヴィクトリアはノートPCを開いていた。

 いくつかのフォルダから、一つのテキストファイルを開く。


 題名は、『人形少女を誰が殺した?』だった。


 いくらか前に、(たわむ)れとばかりに書いて投稿した作品である。

 更新を忘れていたので面倒くさくなってしまい削除したのだが、まさか発掘されてくるとは思っていなかった。


 「……私がこれを書いた者だと知っていた? ……まさかな」


 マウスを操作して、今度こそヴィクトリアはテキストデータを削除した。


 


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