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第一章② 『癒しを求めて空を飛ぶ』


「それって、『ここはどこ? わたしはだれ?』ってこと?」


「はは。うん、まぁそんな感じかな」


 俺が自分の置かれた状況を理解した直後。

 サミュちゃんは、森の中で寝てた奇妙な少女(の姿をした俺)に興味津々な様子で、たくさんの質問をしてきた。

 その一つ一つに、丁寧に答えた結果が、これ。


 名付けて――


『ドキッ! 母性が溢れちゃう? 記憶喪失設定で、ロリっ娘にいっぱい甘えちゃおう大☆作☆戦!(ポロリもあるよ)』


 ――だッ!!


 クックック……嗚呼、我ながらなんたる策士!


『JSは、自分よりか弱い生物をみると保護欲に目覚める』という完成された定理の下、今のシチュエーションを最大限に活かすこの手腕!

 もしや俺、諸葛孔明の生まれ変わりなのでは? とすら思ってしまうほどだね!


 まぁ、いくら夢とは言え、純粋無垢な幼女の優しさにつけ込むようで、罪悪感がなくもなくもないわけではないが……。


「じゃあとりあえず、うちにくる?」


 そう思った矢先、はやくもサミュちゃんに『JSの定理』が効力を表したようだ。

 まさかここまで上手くいくとは……いや、俺の妄想だからか?


 なんにせよ、ここで断る理由はない。


「行っていいの?」


「もちろん! 記憶喪失の女の子をこんなところに置いていけないよ!」


「それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


「うんっ! じゃあ、え~っと……名前がないと不便だね……」


 あはは……と、困ったように笑うサミュちゃん。

 本当はあるんだけど、いかんせんこの見た目には合わなくてね……申し訳ない。


「そうだ! せっかくだし、今つけちゃおうよ!」


 ぱんっ! と手を合わせてそう言うと、サミュちゃんは人差し指を顎に当て、う~ん……とうなり始める。

 マジか、まさか俺の人生で、ロリに名付けてもらえる日が来るなんて……。あぁ、夢のようだ! まぁ夢なんだけど!


「うーん……森……湖……」


 なかなか真剣に考えてくださってるご様子。これは期待できそうかな?


「みずうみ~……みずうみみずうみ、みずうみ~……あっ!」


 おっ、何か閃いたようだ。


「ふっふ~ん、良いの思いついた!」


「おー! どんなの?」


 聞くと、サミュちゃんは自信ありげに胸を反らし、それっぽく咳払いをして立ち上がる。かわいい(小並感)。


「おっほん。それでは、発表します!」


 パチパチパチ~。


「今からあなたの名前は~っ!!」


 「ドコドコドコドコ~」と、口でドラムロールを演出しながら、もったいぶるサミュちゃん。

 くぅ……ここに来て焦らしプレイかっ! ドキドキしてきたぁ! でもかわいいから許すっ!


 たっぷりと間をとって、ついにその不敵な笑みが、こちらに向けられる。……来るぞッ!


 すぅぅ、と大きく息を吸い、開かれた口から勢いよく飛び出してきた言葉。


 それは……。


「――ミミズちゃんです!!」 


 …………はい?


 あ、聞き間違いかな? 全く、俺の耳は肝心なところで役立たずだなぁ!


「ごめんサミュちゃん。もう一回いい?」


 今度こそ聞き間違えないよう、しっかり耳を傾ける。


「うん? あなたは今から、ミミズちゃん、です!」


 ……あっれぇ、おっかしいなぁ?


「ミ、ミミズ?」


「うん、ミミズ!」


 聞き間違いじゃない……だと?

 いや待て、まだ慌てるような時間じゃない。落ち着け。

 ほら、もしかしたら俺が知るあの『ミミズ』とは別に、何か深い意味があるのかも……。


「ち、ちなみにサミュちゃん、どうしてその名前に?」


 というわけで、ひとまず俺がミミズになってしまった由来を聞いてみることにする。


「え~っとね……わたしたち、湖のほとりで会ったでしょ?」


「う、うん……」


「だから『みずうみみずうみ~』って何回も言ってたら、なんとなく思いついたの!」


 あの『ミミズ』ではなかったけど、特段深い意味もなかった!


 しかし、となるとサミュちゃんは、これを純粋に、心から良い名前だと思っているわけで……。

 でもせっかくなれた幼女の名前が『ミミズ』って……。


「むぐぐぐ……」


 俺がどう答えるべきか決めあぐね、頭を抱えていると……。


「あの……」


 スッと視界に影が落ち、反射的に俺は目線を上げる。


 と、そこには、再び地面に腰を下ろして、俺の顔をのぞき込むように見上げるサミュちゃんが。


「……いや、だった?」


「そんなわけないよむしろ最高ミミズ万歳!」


 そんな上目遣いで見られたら、嫌だなんて言えるはずがないじゃないですか!!


「ほんとっ!? よかったぁ~」


 俺が答えると、曇ってた表情が一気にパァァ、と晴れる。


 くっ……ミミズはこの笑顔の代償だと思って、甘んじて受け入れよう……。


「それじゃあミミズちゃん! さっそくだけど行こうか!」


 サミュちゃんが元気よく立ち上がり、お尻に付いた土をはらう。

 はい、ミミズはサミュ様について行きますとも。


 俺も慣れない身体を持ち上げ、同じように尻をはたいた。おぉぅ……やわ~か~い。


 ぺしぺし、ぺちぺち……ぺちんぺちん、ぱしんぱしん……バシッ!


「だ、だいじょうぶ?」


「ハッ!?」


 マズい、つい我を忘れて夢中になってしまった!

 このままじゃ、俺が自分の尻を叩いて気持ちよくなってる変態さんだと思われちゃう!


「あ、いやあの、これは……そう! ずっとここで寝てたから、土がこびりついちゃって!」


「あ、そうだよね。ちょっと見てもいい?」


「えっ?」


 言うが早いか、俺の背後に回り込むサミュちゃん。ちょっ、そんなにじろじろ見られると、流石に恥ずかしいんですが!?


「よしっ、このくらいの汚れ、わたしの魔術で落としてあげるよ!」


 ま、魔術……だと……!?

 そういえばさっきこの子、魔導学園の四年生とか言ってたな。

 なるほど、魔術が使えるんですか、そうですか……。


 改めて思うが――


 流石に妄想がすぎるぞ、俺ぇぇぇ!!


「ちょっと待っててね」


 内心で頭を抱える俺を尻目に、サミュちゃんが少し離れてかごを置き、こちらに向き直る。


「おぉ……!」


 そこから俺に両手を向けると同時、俺の足下に薄緑に光る幾何学模様が広がった。

 すごい……これが魔術か!


「よし、準備完了! あ、目はつぶってた方がいいかも」


「はーい」


 返事をして、言われたとおり目を閉じる。

 何が起こるんだろうワクワク。


「それじゃあ行くよ! 3、2、1、――風よ!」


 サミュちゃんの透き通った声が、耳に届き……。


 ――ビュオォォッッ!!


 直後、すさまじい風の奔流が俺の身体をまとった。


 うおっ、すげぇ!! もはや息できねぇ!!

 確かにこれにかかれば、少々の土汚れなんて目じゃないだろう。

 それにしても、なんて威力だ。風圧が強すぎて、まるで飛んでるかような錯覚が……。


「わあぁっ!! 強すぎてミミズちゃん飛んでいっちゃったぁ!?」


 ……今なんて?


 理解しがたいセリフが聞こえたような気がした瞬間、吹き上げてくる風が弱まったので、俺はうっすら目を開く。

 しかし、その視界に飛び込んできた光景は、木々が立ち並ぶ湖のほとり――ではなく。


「――!?!?」


 それらをドローンで撮影したかのような景色。

 即ち――


「空飛んでるぅぅぅ!?」


 俺の身体は何故か……宙を舞っていた。


「いやぁぁぁ!? なんでなんでなんでぇぇぇ!?」


 眼下に広がる森林の、さらにさらに上空。

 ついに俺の身体の運動エネルギーが、一瞬だけ0になり……


「あぁぁぁ落ちるぅぅぅ!!」


 今度は位置エネルギーを勢いよく減らし始めた。


 あぁ、俺これ知ってる! 落下する直前で「うわぁぁぁ!」とか叫びながら目が覚めて、「ゆ、夢か……」ってなるあれじゃん!

 イヤだぁぁぁ! せっかく幼女になれたのに、高所落下で現実直行なんて、絶対イヤだぁぁぁ!


 しかしそんな間にも、地面はどんどん迫ってくる。

 いや、この位置なら水面だな! どちらにせよだけど!


「ちくしょう……こうなったら!」


 俺は覚悟を決めて、歯を食いしばり身体を丸める。

 あんなテンプレ通りになんて、なにがなんでもなってやるもんか!


 そして――


「ミミズちゃぁぁぁん!!」


 俺は、サミュちゃんに呼ばれる声をBGMに、ドッパァァァン!! と、派手な着水をキメたのだった。

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