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種田山頭火のおいしい俳句  作者: 種田潔
鰯さいても誕生日
3/26

牛肉: 牛肉とシクラメン

飾窓の牛肉とシクラメンと


これは昭和7年3月5日の日記にある句だ。

この日、山頭火は佐賀市を旅しているので、ここに詠われている牛肉は今ではブランド牛として知られる佐賀牛であるのかもしれない。

肉屋のショーケースならぬ飾り窓にシクラメンと並んで牛肉が飾られている。ステーキ肉の塊だろうと私は見たが、肉の赤とシクラメンのピンク、それが四角い飾り窓越しに見られるこの句。まるでシュールな絵画を見ているかのようだ。


この数日、友人からの送金で珍しく懐のあたたかい山頭火、前日の3月4日には一杯やってから活動に出かけた。活動といっても奉仕活動でもなければ、スポーツをしに行ったのでもない。

映画のことである。

見たのは「妻吉物語」と「爆弾三勇士」。「爆弾三勇士」は涙なしに見る事が出来なかったと日記に書いている。

「爆弾三勇士」とは1932年の第一次上海事変で敵陣を突破して自爆し、突撃路を開いた独立工兵第18大隊(久留米)の三人の兵士を描いた無声映画。


旅先の家々の前でお経をあげ、そのお布施でその日暮らしの旅を続ける山頭火にとって佐賀の食べ物が安いのは有り難かったようで、大バカモリうどんが五銭、カレーライスが十銭だと日記に書いている。

大モリうどんなら聞いた事があるが、「大バカモリ」とはどんなバカげた大盛りなのか。

うどん好きの私にとっては大いにチャレンジ精神を刺激される。

この佐賀では大隈公園も訪れている。そこは大隈重信の生誕地である。この日から30年前、早稲田大学の学生であった山頭火は、大学の庭園で早稲田創始者の大隈と記念写真を撮ったことを回想している。


さて、酒とは切っても切れない深い縁の山頭火だが、酒の肴についてはこんな言葉を残している。

「酒の下物さかなはちよつとしたものがよい、西洋料理などは、うますぎて酒の味を奪ふ、そして腹にもたれる。」(昭和8年1月27日の日記)。

そうは言っているものの「ちょっとしたもの」とは言いかねる、鍋料理の横綱であるすき焼きが実は山頭火の好物である。

日記にはこんな言葉が見られる。

「夕方、約の如く敬治君が一升さげて来てくれた、間もなく樹明君が牛肉をさげて来た、久しぶりに三人で飲む、そして例の如くとろとろになり、街に出かけてどろどろになつて戻つた。」(昭和9年3月14日)。

「夕方、Kさんが牛肉と酒と蚊取線香とを持つて来て飲まうといふ、飲む、食べる、歩く、唄ふ、そして帰る、」(昭和11年8月18日)。

「不死身を誇る私も人並みに風邪らしいものに襲れましたが鋤焼で一杯やれば、すぐよくなるので、」(昭和6年1月31日 木村緑平宛て葉書)。


飲めや歌え、歌えや踊れのすき焼き鍋を囲った山頭火の宴席に、願わくば私も同席させてもらいたかった。


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