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種田山頭火のおいしい俳句  作者: 種田潔
鰯さいても誕生日
19/26

アンパンの後ろ姿

秋の日かたむき餡パンたべてもう一ト山


これは昭和8年の秋に山頭火が詠んだ句である。

昭和8年9月15日、彼は山口県小郡の其中庵から広島に向けて旅に出ている。山頭火がアンパンを食べながら越えていった山は私の住む広島県の山であったかもしれない。


アンパンは山頭火が生まれる7年前の明治8年に、東京銀の木村屋によって考案された

さて、この句のアンパン、山頭火はどのようにして手に入れたのだろうか。

昭和8年当時コンビニはもちろんなかった。

墨染めの僧衣の山頭火は行乞の旅の際、家々の門口に立ってはお経を唱え喜捨を受けた。そこで与えられた金を宿賃としながら旅を続けた。

金の代わりに米を与えられることもあった。

ここからは私の想像だがこのアンパンはそのようにして彼に与えられたものだったのではなかろうか。

ある家の前で彼がお経を唱えていると、たまたま一人で留守番をしていた男の子が、自分のおやつであったアンパンを彼に恵んでくれたのだ。

やさしい男の子のくれたパンに力を得て、山頭火は(もう一山)と山に分け入っていったのだ。


私の子供時代(昭和30年代)、菓子パンの三大スターと言えば、アンパン、クリームパン、ジャムパンだった。メロンパンも無視は出来ないがこれは中身系(?)ではないのでここでは取り上げない。

アンパン、クリームパンはあれから半世紀を経た今日もなおパン屋の店頭で確固たる地位を占めている名門だが、ジャムパンはすっかり影が薄くなってしまった。しかし、ジャムをトーストに塗って食べる作法は家庭やホテルの朝食のテーブルで現在ごく普通に見かける光景だ。

思えばこれはジャムには向日性があり、すなわち、明るく風通しの良い環境を好むのに対して、餡は日陰を好む性質があるせいではなかろうか。

ジャムには朝食のテーブルを照らす朝陽が良く似合い、一方、アンパンには電灯の光が似合うことを考えれば両者の性格の違いはさらにはっきりする。

陽性のジャムに陰性の餡と同じ役割を求めたことがジャムパンの今日の衰退の原因だと私は思う。

自分の個性を十全に発揮できるジャム・オン・トーストが正道となった今日、一番喜んでいるのは私たちに毎日食べられているジャムではなかろうか。


逆に、朝食に餡をトーストに塗って出されることを想像してみると、食べることで何か得になることがあるか、朝飯後、(もう一山)無理やり歩かされることでもない限り、私ならすすんで食べたい気持ちにはならないし、山頭火の句も違ったものになっていたはずだ


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