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種田山頭火のおいしい俳句  作者: 種田潔
鰯さいても誕生日
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鰯: 鰯さいても誕生日

鰯さいても誕生日


昭和5年12月3日、この日は山頭火の48回目の誕生日だった。

この年の秋、山頭火は九州を旅しており、この日は句友の次郎さんの家に泊まっている。次郎さんは、遠来の山頭火の誕生日を祝ってくれた。

その日の日記にはこうある。

「今日は第四十八回目の誕生日だつた、去年は別府附近で自祝したが、今年は次郎さんが鰯を買つて酒を出して下さつた、何と有難い因縁ではないか」

この日の日記に残した句が「鰯さいても誕生日」である。


その日その日のお布施でもって旅を続ける彼にとって、鰯が安いのはなんといってもあり難い。そのため山頭火は旅先でもしばしば鰯を食べた。

刺身で食べ、時には宿のおかみさんに頼んで酢漬けにしてもらって酒の肴にした。

昭和7年11月27日には茶店で鰯の卯の花鮨を食べ「うまかった」と日記に書いている。

「うまかった、うますぎだった」

「鰯、鰯、鰯ほどやすくてうまい魚はない、感謝する」

「鰯十尾十三銭」

「なんと安い、そして何と肥えた鰯だろう」

などという鰯讃歌が繰り返し彼の日記に現れる。


友人を招いての酒宴にも、彼の手料理の鰯がたびたび卓上をにぎわした。

彼の鰯料理は主に刺身、焼き、酢漬けであったようだ。

彼の生まれは山口県だが、隣の広島県ではこいわしを刺身で食べる習慣がある。

包丁を使わず手で頭と腸をとり、薄い塩水で洗う。徹底的に洗って鰯の臭みを取る。

「7たび洗えば鯛の味」と広島の人は言い慣わす。

7回も洗う手間をかけてやっと鯛の味になるのなら最初から鯛を食べたほうが効率がよかろうにと、へそ曲がりの私などは思うが、いずれにしろ十分に洗ったそれを葱と生姜を薬味にして食べるのである。

包丁を使わなくてもよいので、男子は厨房に入るべしと決意したばかりのお父さんにだって、失敗なく出来る料理だ。

目にも涼しげな一皿で、広島人の夏の食卓には欠かせないものである。

鰯好きの山頭火をあの世から呼び戻して、一杯やりたくなること請け合いの味である。


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