第五話
次の日。
今日で今月の休戦日は終わる。
夜、リユンはまた橋の上に向かっていた。
『また』リユンはこの言葉が本当であればいいと思った。
しかし二日も外にいるとは限らない。
リユンは半ば諦めつつ橋にたどり着くと、セレーネはそこにいた。
ビックリした反面、嬉しかった。
リユンの目線の先でセレーネの短い黒髪が揺れる。
セレーネの髪は決してきれいに整えられているとは言えない。
しかし、吸い込まれそうな漆黒の髪に目が離せない。
リユンはセレーネに近づき、なにも言わず横に立った。
少し、立ったままでいると、セレーネが口を開いた。
「今日は月がきれいだな」
「?」
リユンは首をひねった。今日は曇りで月は見えない。
「知らないか?東洋では愛してると言う意味で月がきれいと言うんだ。お前が昨日言っていたことだろう?」
リユンは驚いてセレーネを見た。セレーネは知っていた。
なぜだ?
なんでセレーネが東洋の書物を読めるんだ?
リユンはそこで思い出した。
ただ一度だけみたモーント国の王族の姿を。
みんな───漆黒の髪をしていた。
「お前は.....」
「噂が広がってると聞いた。隠し子は本当だよ」
リユンは声が出なかった。
モーント国の姫が目の前にいる。
「普通王族が戦いなんてでないだろう?」
セレーネは空を見上げた。
「私は父親、国王と愛人との子なんだ。いつも他の王族に笑われていたよ。国王はな、ずっと、続くこの戦いに悩んでいた。だから私が名乗り出たんだ」
セレーネはその後に「反対どころかむしろ大歓迎だったよ」と悲しく笑った。
仮にも王族だったから勉強もしていたんだろう。
リユンはここ最近のつじつまがすべてあった気がした。
そして思い出した。
セレーネはリユンに向かって月がきれいですね、と言った。昨日は死んでもいい、と。
リユンどうしてもあるひとつの結論にしか行き着かなかった。
「昨日月がきれいですねと言われて、胸がいっぱいになった。」
「.....!」
ということは、思いは通じあっていたということだ。
でも二人とも直接的に思いを告げることはしなかった。
許されることのない恋心。言ってしまったら消えてしまう気がした。
そして二人ともなにも言わないまま、夜はふけていった。