第三話
よし。リユンは見張りをある程度見送って好きなセレーネの元に行った。
少し行くのに悩んだのはセレーネが泣いていることに気付いたから。
セレーネは静かに、声もあげず涙だけ流していた。
「やあ、今日も相変わらず女らしさがないなぁ」
リユンは気付いていない振りをして軽く声をかけたつもりだったがセレーネは剣を引き抜き間合いをあけた。
「おいおい。待ってくれよ。今は休みだ。なにもしない」
リユンは両手を挙げてなにもしないことを示した。
セレーネは、本当になにもしないとわかり剣をさやに戻した。
それを見てリユンはセレーネの隣に行った。
こうやってセレーネと話すのは初めてのことかもしれない。
「お前はこんな夜に一人でなにをしているんだ。仮にも女なんだから気を付けろよ」
リユンは気遣って言ったつもりだったが、セレーネはその言葉に怒りを覚えた。
「女扱いをされるのは嫌いだ」
「そうか、悪かったよ」
「女といって弱いと決めつける。戦いに女というのは必要ない」
「お前が女扱いされたくないのはわかった。でも、こんなとこにいて危ないのは確かだろう?」
リユンの言葉にセレーネはすぐに答えなかった。
「死んだんだ」
さっきとなにも変わらない表情でセレーネは言った。
リユンは黙って頷いた。
「大事な人だったんだ」
セレーネが泣いていたのはそれが理由なのか。
弱いところを見せてくれるセレーネにリユンは素直に嬉しかった。
何回も抜け出して歩いてたリユンたが、一度もセレーネが外に一人でいるのを見たことがない。
よぽっど死んでしまったことが辛いのだろう。
リユンは空を見た。リユンは話題を変えようと最近覚えたばかりのことを話すことにした。
「今日は、月がきれいだなぁ。」
「そうだな、こんな日なら死んでもいい。」
リユンは驚いた。
リユンが急にこんな話をしたのは理由があった。
リユンはよく他の国の書物を勉強がてら読むことがある。
最近は東洋の書物を読んでいたが、その中に興味深い話があった。
なんとも東洋の男は愛してるというのを月がきれいですね、というらしい。
なんとも馬鹿げた話と思う人もいるかもしれないが、リユンにはそれが好都合だった。
ばれずに思いを告げれるなら好都合。
でも、セレーネのこの返しはリユンには予想外だった。
東洋の書物には、月がきれいですね、の返事は私、死んでもいいわ、というものらしい。
セレーネは見事にそれを言ってのけた。
「お、おう。そうか」
それを聞いてからなにも答えてないことを思い出してリユンは慌てて答える。
きっと深い理由はないだろう。それを深読みして喜んではいけない。
「じゃあ、また」
「え?あ、おう」
少し空を眺めていると、セレーネは、そう言って自分の基地に戻って行った。
一瞬反応が遅れて、答える頃にはセレーネはもう背を向けて歩き出していた。
『また』その言葉に意味はないだろう。
でも、また会える。リユンはそんな希望に胸を踊らせた。