君の世界の入り方 8
三木の家の前で彼女と三木を下ろした。三木は知り合いの女性と一緒に住んでいる。一軒家なので彼女が泊まってもスペースには困らない。
「荷物はあとでこっちが取りに行くから」
「いいよ。あとで持って来るから。みーさんのそばにいて」
「当然。私じゃなくて三崎が行く」
「ああ……了解」
こそっと三木と話し合う。三崎というのは三木の彼氏だ。うなずき、……彼女に視線を向けた。
「みーさん」
「……」
「みーさん」
運転席から窓の外に手をのばす。彼女の頰に触れた。
「我儘言ってごめんね」
「……全部私がやったことだよ」
「何が?」
「橘くんの滞在を許可したのは私」
「押しかけられたのはみーさんがやったことじゃないでしょ。きっかけはあっちなんだ。何としてでも居座ったよ、きっと」
頰を撫でる。やわらかくてなめらかな肌。その手を拒否されることも、怯えられることもない。ただされるがまま、触れられる彼女。
「……あのね。みーさんに拒否されないことが俺にとってどれだけうれしくてほっとすることなのか知ってる?」
「……何で拒否?」
「俺だってあの時、あれのことを言えないくらい勝手なことしたでしょ」
「……拒否しないよ」
「……何で?」
「ともりが私に酷いことするはずないじゃない」
あの時のことには触れず。
お互い痛みでいっぱいだった、あの瞬間のことは別で。
当たり前のように、知ってるよ、と言うように。
力を籠めるまでもなく自然とそう言い切った彼女にーーー微笑んだ。
「ーーーうん。しない」
「うん。知ってる」
「そっか。うれしい」
「そっか」
「うん」
「うん」
一瞬、ほんの僅か、彼女が手に頰を寄せた。ちゃんと気付いたことを知ってほしくて、撫でる手を止め頰を包んだ。
「迎えに来るから。待ってて」
「ーーーうん」
ゆっくりと頰から手を離す。三木を見て、うなずいた。
「おやすみ、みーさん」
「おやすみ、ともり」
まだ明るい時間、今日は言えないおやすみを言い合って、
車を発進させた。ーーーミラーに映る彼女はどれほど小さくなっても、じっとその場に立って動きはしなかった。




