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君の世界の入り方 6


「事情は聞いた」

「みーさん隠してなかったの?」

「隠してたよ。相変わらず嘘も隠すのもうまくて参るわ。けど事前にひろ先輩から情報は得てたから追い詰めた」

「なるほど」

「……追い詰められた」

「お疲れ、みーさん」

背中を撫でると彼女がかくりとうなだれた。たっぷり追い詰められて吐かされたらしい。

合流した彼女と三木。三木に会うのは少し久々だった。

「で、鍵は預かってるの?」

「はい」

「荷物わかるの?」

「腹立たしいことにここにメモが。ねえ三木さん、あれって三木さんたちが在学中もこんなに自分勝手だったの?」

「うーん、私は学科違ったからユキとひろ先輩の後輩って感じにしか知らないんだけど……そこまでではなかったと思うよ。ただ、」

三木の声は少し低くなった。

「……ユキのこと、結構本気で好きだったみたい。けどひろ先輩がいたからあきらめてた感じ」

「……そうだったの?」

「やっぱりみーさん気付いてなかったんだ……」

「え……だってそんなのよくわかんない……それに橘くん、ひろ先輩が苦手だったの?」

「え?」

「ひろ先輩が苦手だったから、その、私のことがそのあれでも、よくひろ先輩と一緒にいたからあんまりそういうの表に出さなかったってことでしょ?」

「……」

「……」

「……え、違うの……?」

じろりと横にいる三木を見た。

「……高校時代に培う男女間の機微とか……」

「ごめん、そっち方面は純粋培養で育てちゃった」

「……」

「ここ数年で反省してる。三十七人が」

「今度三十八人で話し合おうか。今後について」

「そうね」

「私は?」

「みーさんも参加する? そしたら三十八人で囲うけど」

「なにそれ怖い」

「それでみーさんについて話し合う」

「なにそれ本当に怖い」

ぶるりと震えた彼女の頭を撫で、目の前にあるアパートを見上げため息を吐く。あれとあれの幼馴染みが住んでいたというアパート。荷物を取って来て欲しいと言われ、当然断ろうとしたが、断ったら彼女に依頼が行くと思い本当に仕方なしに引き受けた。車でアパートへ向かう途中彼女を追い詰めて追い詰めて話を聞き出した三木から連絡が入ったので合流し、結局三人で臨むことになった。三木に追い詰められるのなら彼女は大丈夫だ。他の三十七人も。何の心配もいらない。どんどん追い詰めていろいろ吐かせて欲しい。

「さっさと済ませよう。俺が部屋から荷物出すから、とりあえず廊下に二人で置いてくれる? 徐々に出すんじゃなくていっぺんにやろう」

「ん、わかった。……ともり」

「なに?」

「ありがとう」

「……うん」

もう一度彼女の頭を撫でた。撫でたかったというより触れたかったのだと、恐らく彼女もわかっている。

「よし。ともりくん、何階?」

「二階らしい。三号室」

三人で階段を上がりドアに鍵を差し入れた。この時間、幼馴染みは大学でいないらしい。がちゃりと問題なくドアは開き、「ちょっと待っててね」と彼女と三木を廊下に残し一人で中に足を踏み入れた。ドアが閉まる。

靴を脱いで(土足でもいいと思ったが)上がり、キッチンを兼ねた廊下を抜けドアを開けて、

「たぁくんおかえりー。早かったねー?」

甘ったるくこべりつくような声がして一瞬で気分は悪くなった。ベッドの上にうつ伏せに寝転び雑誌を見ていた女が顔を上げる。幼馴染みはいなくても元カノはいたのかよ。

「はーーーえ? ーーーだ、誰?」

「お前の元カレの先輩の(ことを愛する)男」

「えっ?」

「お前の元カレの先輩の男。頼まれたから荷物取りに来た。あれのクローゼットこれか?」

「え? あ、うん、そう、りゅーくんのはそっち……えっ、りゅーくんの知り合い?」

「知り合いたくなかったし知り合いとも思いたくない。もう訊くことないから黙ってろ」

「そっ、そんな酷いこと言わないでよ! ってゆうか、わああ、すっっっごく格好いいね! モデルさん? 演技コースのひと?」

彼女たちが在学した大学には確かに演技コースがある。ちげえよと思ったが訂正する必要はない。女は好きじゃないしこの手の女は特に嫌いだ。なるべく視界にも意識にも入れないようにしていたのだが、ずいっと近寄って来られたのでそれを避けるために視線を向けさせられた。ーーー向けて、後悔する。目を見開いた。

「あたしカホ! ね、イケメンさん、お名前は?」

決して身長は高くない小柄な体躯。華奢で肌の色は白い。髪の色は黒。

「……」

似ていない。パーツパーツは、あまりにも。……けれど、全体を見ると。

(ーーーこれ、は)

彼女に系統が似ていると、言わざるを得ない。

だがそれにしたってお粗末だ。あくまでも『系統』が似ているだけで、その『系統』の範囲では対極と言っていいほど違う。が、髪型や、体格……好みと言ってしまえばそれまでだが、あれが抱く彼女への執着心を考えるとまた違った答えが浮かんで来る。

「ーーーその、髪」

「え?」

「その髪、黒く染めたのか?」

「ああ、これ? そう! スプレーで。今日バイトだから。髪色うるさいんだー」

「……」

「まあ、りゅーくんと付き合ってた時は強制的に黒だったんだけどね! 元々茶髪にしてたのに黒にしろって言うから。でも別れたから今日茶色に戻したの」

女の髪は人工的な黒だった。やっぱり、と、避けたかった答えが現実であることを認識する。

「髪の長さはこうしろとかピアスあけちゃ駄目とか服装はもっとシンプルなものにしろとか、もう束縛キツイし忙しい忙しいでちっとも相手にしてくれないし。別れて正解! あーでも、こんな格好いい知り合いいるなら紹介して欲しかったなあ。ね、今彼女いる? あたしフリーなんだけどどう?」

平然と嘘を吐かれたがそれどころではない。髪の長さは一緒ぐらいだし彼女はピアスをあけていない。服装はシンプルなものが多く、それをさらりと着ている。……それが彼女。

「ねえ、聞いてる?」

手をのばされ思わず後ずさった。それを戯れ合いだとでも思ったのか楽しそうに女がまた手をのばす。先ほどよりも強く後ずさりその手を避けた。気持ち悪い。この女もこの女が齎す意味も、全てが気持ち悪い。

後ずさった背中にとん、とやわらかく何かが触れた。驚いて振り向くとそこには彼女がいた。心配そうな色に顔を染めている。

「ともり、どうし、」

言葉を切った。深い深い色の眼が軽く見開き、頰に手をのばし触れられる。

「顔色、悪い。具合が悪いの? だいじょーーー」

「え、なに、ちょっと誰!」

きんきん女が騒ぎ立て彼女がこちらの陰から顔を出そうとしたのでその手を取り背中に隠した。彼女をこの女の前に出したくないし彼女にこの女を見せたくなかった。

「外、出てて。大丈夫だから」

「でもーーー」

「お願い。ーーーごめん、入って来て!」

声を大きくして外にいる三木に叫んだ。どうせ壁もドアも薄いだろう。思った通りすぐにがちゃりとドアが開く音がした。

「どうしたの?」

「この子と外にいて。今荷物出すから」

「わかーーー」

わかった。そう言おうとして言葉が止まる。三木の位置からは女が見えたのだ。

「ーーーわかった。おいで、ユカ」

名前を変えて、彼女を呼ぶ。背中に隠して振り返らないまま、彼女の気配がドアの向こうに消えたことを確認する。

「なに、そんな大勢で来たの? 他にもいるのっ?」

意味がわからないとばかりに質問攻めにしてくる女を無視して適当に鞄を引っ掴みクローゼットの中のものをろくに確認もせず乱暴に詰める。肩や腕を掴まれぞっとしつつも何とか静止をを振り切り部屋を飛び出した。



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