君の世界の入り方
今回、注意して頂きたい暴力的な描写があります。
今までより二人が踏み入った描写もあります。
了承して頂ける方のみ、どうぞよろしくお願い致します。
読み飛ばしても、本編に関わることはありません。
〈 君の世界の入り方 〉
駅から徒歩で家まで帰る。オレンジ色の明かりがリビングに灯っているのをカーテン越しに見て心がほっとした。長期合間に入った彼女は昨日から休みだ。しばらくはまた一緒の時間を過ごせる。
今日は一緒に映画を観つつ夜更かしかな、と弾む心で考えながら鍵を差し入れ回す。……が、かちゃりという手応えは全くなかった。おかしい、開いてる……彼女が鍵を閉め忘れることは今までなかった。通常なら。……す、と温度が下がり勢いよくドアを開ける。
「みーさん!」
玄関に飛び込み、その光景に一瞬で沸騰してぐらりと視界が眩んだ。見知らぬ男がひとり、彼女を抱きしめている。無理矢理引っ張られたのか彼女は素足のまま玄関に足を付けていて、小さな身体はすっぽりと敵の腕の中に収まっていた。その腕の中で彼女が必死にもがいている。
「ーーーはなれ、ろ!」
爆発したように怒鳴ってその肩を引っ掴み彼女から引き剥がす。強く引いたせいでたたらを踏み壁に肩からぶつかった男と反動でよろめいた彼女と。彼女が倒れる前にその身体を捕まえて強く抱きしめた。身体を入れ替えるようにして彼女を不審者から遠ざけ、抱き上げて逃亡を図ろうとドアへと向かう。
「とーーーもり、」
「みーさん大丈夫? 安心して、すぐ連れ出すから」
「あ、あのね、ちがう、や、わたしもちょっとびっくりしちゃったんだけど、あの、この子こうはいなの」
「同意の上なの?」
「ど……どういは、してない」
「じゃあ犯罪だよ。突き出そう」
「つーーーつきだしちゃ、だめ。それはだめ。ともり、おちついて……」
落ち着いてと言いつつ彼女は先ほどから舌ったらずだった。驚いた時や狼狽えている時そうなる彼女の癖。いつもならもう大丈夫だから下ろしてと言ってくるはずなのに抱き上げられたまま何も言わず、むしろほっとしたように息を吐いて力を抜いた。くったりともたれかかってくる彼女を大事に抱きかかえたまま、うめきながら起き上がろうとするそれを眼を細めて睥睨する。
「無理矢理何してくれてるんだ、てめえ」
低い声で吐き棄てるように言葉を紡ぐとびくりと彼女が腕の中で震えた。不安げに揺れる深い眼が自分を見上げて来るのを感じながら安心してほしくてきゅっと力を込める。彼女にはこの先一度も向けることがない殺意をまっすぐにそれに向けると、起き上がったもののまだ座り込んだままのそれはびくりと震えた。何かで切ったのか唇の端が少し切れて赤黒くなっている。
「むーーー無理矢理抱きしめたのは悪かったよ。でも、先輩しかいなくて……」
「女ならいくらでもいるだろ。このひとは絶対に駄目だ。出て行け」
「違う! そういう意味じゃない! 助けて欲しくて、話を聞いて欲しくて来たんだ!」
「助けて欲しいからって抵抗する女の子無理矢理抱きしめるのかよ、てめえは」
「だから……!」
「とーーーもり、ともり、」
くい、とシャツを引かれた。弱々しい力で。
まだ少し舌ったらずな彼女が一生懸命に言葉を紡いだ。
「だいじょうぶ……だから。いろいろあったみたい、はなし、きこう? ……橘くん、あげてあげて」
橘と呼ばれた男は救われたような顔で彼女を見た。瞬間、彼女の目元を手のひらで隠し視線を遮りそれを睨む。
許さない。
言葉にも音にもせず紡いだ言葉は、しかしそのまままっすぐに伝わった。
すうっと青くなったそれを見捨てるように視界から外し、彼女を抱き上げたままリビングへと足を向けた。




