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黒色の幻視 4


彼女はなにも言わない。どれだけ辛くても、なにも。

だからこそ怖くなる。なにも言わないからーーーなにも言わないまま、ふらりと。

ふらりと歩き出し、そして。

二度と帰って来なさそうな。

みーさん。ーーーその背中に呼びかける。

みーさん。ーーー心細くて震えた声で。

彼女は振り返らない。当たり前だ。だってそれはーーー彼女の名前じゃ、ない。

ーーーふと。誰かに呼ばれたように彼女が顔を上げた。

前を向いて、ここからでは見えないその声の主をまっすぐに見てーーーそしてそのまま進み出す。どんどんどんどん、その背中が遠くなる。

みーさん。みーさん。みーさん。

呼んでも返事はない。立ち止まらない。ーーー当たり前だ。

本当の名前で呼ばれているのだ。偽物の呼び方なんて、届かない。




「・・・・・・っ・・・・・・」

ぜはっと荒く息を吐いた。冷たい汗がじっとりと背中を浸し、額を伝う。

黒く染まった天井を見て混乱した。ーーー嘘だろ。今何時だ。

あわてて腕時計をーーー誕生日プレゼントに彼女からもらった腕時計で時間を確認する。アナログの時計。竜頭を押すと文字盤を小さな灯りが照らし時間を報せてくれた。午前二時。

「は・・・・・・」

ディアムと電話したのが午後六時。あれから眠ってしまっていた?

「・・・・・・っ!」

ばっとソファーから身を起こした。真っ暗なリビング。二階にいるわけがない。だとしたらこんな時間まで自分をここに寝かせっぱなしにしないだろう。まだ帰って来ていない。

「なにやってんだよ・・・・・・!」

自分に対して押し殺した声で叫び上着を引っ掴んで靴を潰すように履き外へ飛び出した。



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