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黒色の幻視 3


これからあの子は本格的におかしくなるから。でもそれは、異常なことでは、ないから。

異国の地にいる自分の師匠は電話越しにそんな風に言って、唇を噛むように間を置いた。

ディアムの言う腐れ縁、そして彼女にとっての恋人が三月に亡くなったのだろうということは、今までの経過でなんとなくわかっていた。

恐らく、彼女の誕生日のあとーーーそしてあの年の三月、自分と出会う前。

ディアムに訊けば教えてくれるだろう。傷を抉って。ーーーさせたく、なかった。

『・・・・・・ミユキは?』

「・・・・・・痩せた。食べては、いるけど・・・・・・量が減った。・・・・・・何回か吐いてた」

授業がひとつ休校になりいつもより早く大学から帰宅したまだ午後の明るい時間、トイレの方から咳き込むような悲痛な声がして血の気が引いた。靴を脱ぐのままならないまま駆け付けると、彼女が崩れ落ちたように床に座り込み嘔吐していた。

声をかけたくて。

かけられなくて。

名前を呼びたくて。

傷を抉りたくなくて。

のばした手は、肩に触れることもなくーーー力を失って、だらんと垂れた。

泣かない。絶対に泣かないし、弱音もなにも吐かない。

嘔吐していたのを見付けられたのはたまたまでーーーきっと彼女は自分がいない時に吐いている。

『・・・・・・睡眠薬は?』

「無理に眠ろうとはしてない。今回は飲んでないよ」

『・・・・・・そうか』

「・・・・・・ただまだ確認出来てないことがあって」

『なに?』

「自傷癖。脇腹を抓るんだ。・・・・・・右の脇腹。流石にそれは、まだ確認出来てない」

『・・・・・・そうか』

ーーー恐らく、ある。

言葉にならない思いがぴたりと重なった。ーーー皮肉なほどに。

『ーーーともり』

「うん」

『理解しろとは言わないから』

「うん」

『ーーー大事にしてくれ』

「うん。わかってる」

大きくうなずいて、しっかりと答えた。

「わかってる」



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