黒色の幻視 2
朝、目が覚めた瞬間飛び起きた。ベッドから飛び降り裸足のまま部屋も飛び出して階段をばたばたと駆け下り、廊下を抜けてリビングへ続くドアを開けて、
「ーーー? おは、よう?」
朝からどうしたのとでも言いたげな、不思議そうな顔の彼女と眼が合った。
「・・・・・・あ・・・・・・」
いた。ーーーまだ、自分の手の届くところに。
肩で息をしながら静止する奇妙な仕草のこちらを見てーーー彼女が首を傾げた。
「・・・・・・大丈夫?」
「え? あ、うん・・・・・・あ、おはよう・・・・・・みーさん今日用事あるんだよね?」
「うん、そう」
「・・・・・・そっか」
「ともりは今日一日家にいるんだよね?」
「うん・・・・・・」
「春休みだしね。ゆっくりしなね」
にこりと微笑む彼女。いつもなら素直にうれしくて幸せになるのだけれどーーー
眼を臥せて皿に卵焼きを盛る彼女を見て、心の中で硬い息を吐く。
ーーー痩せた。この三ヶ月で。
彼女と再会し、一緒に暮らしはじめたのが去年の三月。
去年の一月と二月は、自分は叔父の家にまだ残っていた。なので、彼女と過ごす一月と二月ははじめてだったのだがーーー
ーーー少しずつ。
ゆっくりと。
彼女の中のなにかが、力を失っていくような。
心が先に、何処かへ行ってしまっているような。
「ともり?」
はっとして我に返った。彼女は既にほとんど朝食の準備を終えていた。
「顔洗っておいで。今日の卵焼きは結構上手く行ったんだよ」
「・・・・・・うん」
みーさん。
呼ぼうとして、やめた。




