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訪れたその日を待って 5


日が傾きオレンジ色になった道を、彼女と歩く。ーーー途中、こっそり三木にメールした。だいぶ絞った内容だったのだがそれでも三木は『わかった。手は打つ』と心強い返信をしてくれた。

自分はーーー彼女の横に並べなくて、二歩斜めうしろを歩いている。

さらさらと流れる髪。自然体で歩く小さな身体。ーーー余計な力もなにも入っていない、なにも気負わない様子。

「・・・・・・みーさん」

掠れた、ほとんど吐息みたいな小さな声。

声をかけたくて。ーーーなんとかけていいのか、わからなかった。

「ん?」

それでも、彼女は気付いた。足を止め、軽く振り返る。

「なあに、ともり」

「・・・・・・ごめん。どうなるか想像するべきだった」

「ああ、いいよ大丈夫。でも、まあ・・・・・・パワフルなひとだね。いい子なんだろうけど・・・・・・確かに、ともりとは合わないタイプかもしれないね」

タイプが合わなそうだったから、断ったわけではないーーーそう言いかけて、やめた。

「・・・・・・俺、あんな風に思ってないから」

「うん、わかってる。・・・・・・でもね、ともり」

黒い眼がーーー自分を、見る。

「側から見て。普通に考えて。あの子が言ってたことは全部正しいよ。そう見えても仕方ない。そう見られて当然。ーーーなにを言われたって、文句はない」

「違う。これは俺とみーさんの問題でしょ。関係ない人間にとやかく言われる筋合いはない」

「そうかもね。でもーーー」

ふとその時。

彼女の顔が、薄く歪んだ。そのままこちらに背中を向ける。

ほとんど同時に背後に気配を感じてーーー振り返った。

少しだけ息を切らした男。

自分より少し背の高いーーースーツ姿の大人。

「・・・・・・かな、め」

愛すべきクラスメイトの担任であり、彼女にとって大切なひとであるひとり、要がーーーそこにいた。

「ユキ」

静かな声。背中を向けたままの彼女に、それを向ける。

「ユキ。こっち来い」

「は。嫌だ」

ほとんどはじめて聞くような短い拒絶。敵ではなく、親しい人間にそんな言葉を向ける彼女を今まで見たことがなかった。

「いいから。こっち来い」

「嫌だって言ってる。要くんは関係ない」

「だろうな。けど関係あろうがなかろうがどうでもいいんだよ。ーーーユキ」

その手がのびてーーー彼女の手を掴む。

「ユキ」

「ーーーうるさい!」

吼えるように彼女が叫んでーーー掴まれたその手を、勢いよく振り払った。

ばっと後退して振り返るーーー今にも崩れ落ちそうな、悲痛に歪んだ顔。

はじめて見る。はじめて見る。ーーー自分には今まで見せなかった、その貌。

「なにも、要らない!」

激痛みたいな、彼女の悲鳴。

「わたしは何処にも行けないーーー何処にも行けない、もう何処にも行かない!」

叫んで、叫んで。ーーーはっと、我に返って。

痛みを含んだ黒い眼がーーー自分を見た。

どんな顔をしているのかわからなかった。

どんな眼をしているのかわからなかった。

「・・・・・・あ・・・・・・」

掠れた声。ほとんど、声になっていない吐息。

「ごめ・・・・・・俺、俺・・・・・・」

なにが言いたいのか。なにを紡ぎたいのか。ーーーなにを、伝えたいのか。

「・・・・・・っ」

わからない。わからない。ーーー眼を、合わせられない。

なにもわからないままーーー逃げ出した。

逃げ出した。そのことに気付いたのは、それからだいぶ経ってからだった。



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