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1話 二人が出会った理由

 



 ーーーもうだめだ……。


 薄れゆく意識。きっと俺はもうすぐ死ぬのだろう。

 振り返ればろくな人生じゃなかった。

 たった16年しか生きていないが、それでも最後は録な死に方をしないのだろうと思える程度には酷いことをしてきた。たくさん、人を殺した。それが仕事だった。死ぬことだって覚悟していた。

 霞む視界に映る深い緑。ゆっくり視線を上に向ければ真っ青な空が広がっていた。


 ーーー空ってこんなに綺麗だっけ。


 空なんてゆっくり見上げる暇なんて今までなかった。死ぬ間際に空が綺麗なことに気づくなんて。

 そろそろ本格的に視界が霞んできた。もう空が青いことしかわからない。

 最期に空が綺麗だと気づけてよかった。

 目を閉じようとした時に、誰かが心配そうに俺を覗きこんだ。

 顔なんてわからなかったが、その綺麗な空色の瞳だけは見えた。


「だいじょうぶ?」


 鈴のような澄んだ声を耳にした俺は意識を手放した。





 ゆっくりと意識が浮上していく。

 重い瞼をゆっくりと上げると、天井が見えた。

 ーーーここは……?

 俺は起き上がろうとするが、体に力がうまく入らなくて起き上がれない。

 それもそうか。俺は死にかけてた。傷自体は大したものじゃなかったが、刃物に毒を塗られていた。

 その毒は特殊な毒で、俺の持っている解毒剤では効かなかった。この体も毒に慣れているはずなのに、死にかけるほど強力な毒だった。

 そうだ。俺は死ぬはずだった。なのになんで生きている?


「おや、目が覚めたかい、少年よ」


 見知らぬ男性が俺を覗きこむ。

 黒に近い茶色のボサボサの髪に、不思議と目の惹く金色の瞳の男性だ。きちんと身なりを整えればそれなりに整った顔立ちなのに、彼のずさんな格好のせいで顔の良さが半減くらいされている。


「あんたは……」

「ああ、無理をして喋らない方がいいぞ、少年。君に使われた毒は特殊なやつだったからなぁ、あと少し手当てするのが遅ければ、さすがの俺でも助けられなかったぜ」

「なんで……助けたんだよ……」

「なんで助けたかって?頼まれたからだよ、魔法使いは対価を貰わないと人助けなんてしないからな」

「あんた、魔法使いなのか……」

「そうそう。俺の名前はシリル。君の命の恩人だよ、覚えておきな」

「別に助けてほしいなんて頼んでな……」

「シリル様、彼の様子は如何ですか?」


 俺の声を遮るように鈴のような澄んだ声がした。

 シリルと呼ばれた魔法使いはどこかを振り向き、にっこりと人好きしそうな笑顔を浮かべた。


「お嬢ちゃん、少年が目を覚ましたよ」

「まあ!そうなんですか!よかった……」

「でもまだ毒が抜けてないからね、もう少し向こうに行っててくれるかい?」

「わかりました」

「ありがとうな、お嬢ちゃん」


 鈴のような声の持ち主は立ち去ったようだ。それにしてもあの声、どこかで聞いたような……。


「お嬢ちゃんが君をここまで運んでくれたんだぜ?お嬢ちゃんに感謝しな」

「別に助けてほしいなんて頼んでない……」

「おやおや。『黒狼』君はあのまま死にたかったのか?」


 俺は彼が告げた名に息をのむ。


「ーーーどこで、その名を?」

「その世界じゃ有名だろ?狙った獲物は必ず狩る、一匹狼ってね」


 俺はその謳い文句に顔をしかめる。好きでそんな風に言われてるわけじゃない。


「……………別に俺が名乗ったわけじゃない」

「そうか。でもあの『黒狼』がこんなに若い少年だったとはなぁ、びっくりだぜ」


 シリルが楽しそうに言う。俺はそんな彼を警戒した目で見つめる。


「なにが目的だ?」

「ん?」

「なんで俺を助けた。俺を助けて何をしてほしいんだ?」

「……おいおい。なにか勘違いしてないか?」

「勘違い?」

「俺はあのお嬢ちゃんの依頼で君を助けたのであって、他に他意はない。死にたがってる奴を助けてあげるほど俺はお人好しじゃないし」

「…………」

「とにかく折角助かったんだ、その命どう使うか1度よく考えたらどうだ?とにかく眠りな。寝て起きてからこれからのことをゆっくり考えればいい」


 そう言ってシリルが俺の額に手を置くと、俺は強烈な眠気に襲われた。


「おやすみ、少年。よい夢を」


 そんなシリルの台詞を耳に、俺の意識は沈んでいった。




 目を覚ますと綺麗な空色の瞳がすぐそこにあった。

 空色の瞳の持ち主である少女は俺と目が合うと花のようににっこりと笑った。


「良かった、目を覚ましたのね」

「……こ、こは……?あんた、誰……?」

「ここはわたくしのおばあ様の家なのよ。わたくしはアンジェリカ。アンと呼んでほしいわ」

「………あんたが、俺を助けたのか?」

「ええ、そうよ。あなたの瞳、綺麗ねぇ……アンバーみたいだわ」

「……俺は好きじゃない」

「あら、そうなの?でもわたくしは好きだわ、あなたの瞳」


 緩い巻き毛の金髪が揺れる。

 綺麗なものしか見たことのないような目が俺を見る。

 やめろ、俺を見るな。


 俺はアンジェリカと名乗った少女から目をそらす。しかし、彼女はそんな俺の仕草に気にした様子もなく、シリルを呼びに行く。

 シリルはすぐにやって来た。相変わらず、人好きのしそうな笑みを浮かべて。


「少年、気分はどうだ?」

「……物凄く悪い」

「そうか、それだけ元気があれば、1週間くらいで動けるようになるだろう。良かったな、お嬢ちゃん」

「ええ。ありがとうございます、シリル様」

「何が目的なんだよ……」

「目的?」


 俺の呟きに彼女は首を傾げる。

 そんな彼女に俺は苛立ちを感じる。


「なにか目的があって俺を助けたんだろ?なにが望みだ?命を助けて貰った礼に、誰でも殺してやるよ」

「殺す……」


 俺は苛立ちを隠さず少女にぶつけた。

 少女は物騒な俺の台詞に、一瞬顔をしかめたが、すぐに微笑む。

 その微笑みが作り物くさくて、俺は余計に苛々する。


「そうねぇ……わたくしを、殺してくださる?」

「は?」

「おいおい、お嬢ちゃん……」


 シリルは困ったように彼女を見る。

 俺も彼女の言ったことが信じられずに彼女の顔を凝視した。

 自分を殺してほしいと言った奴は初めてだ。

 彼女は綺麗に微笑んだまま、俺に言った。


「でも、わたくしももう少し生きたいわ。ただ、死ぬならあなたに殺されたい」

「あんた、なに言って……」

「わたくし、あなたの瞳が気に入ったのよ。あなたになら、殺されてもいいわ。だから、わたくしのものになりなさい」

「はぁ……?」

「ずっと、わたくしの傍にいて、いつかわたくしを殺して。できるでしょう?『黒狼』さん」


 俺は『黒狼』と言った彼女に、咄嗟にシリルを見たが、シリルは俺はなにも言っていない、と身振りで示した。

 では、誰が彼女にその名を教えたんだ?



「よく覚えておきなさい。わたくしはレッドキャップ王国の第一王女アンジェリカ・クレア・コリングウッド。あなたの名は?」

「俺は……カーク」

「そう。では、カーク。今日からあなたはわたくしの従者となりなさい。そしていつか、わたくしを殺してね?」


 彼女は王女らしく俺に命じた。有無は許されない。そんな雰囲気で。

 俺は呆然と彼女を見た。


 これが、俺とアンジェリカの出会いだったーーー




いきなり暗くてごめんなさい。

亀更新になります。一応テーマは赤ずきんちゃんです。

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