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「さてと」


 ひとしきり啼泣を続けたあと、僕は携帯電話の呼び出しをかけた。

 相手は、先日アドレスを登録したかなみだった。


――もしもし、くーちゃん?


 かなみの声は嬉しそうだった。


「うん、僕だよ。今大丈夫かな?」


――もちろん、くーちゃんからの電話なら何時間でもOKだよ!


「ははは。ところで、今家にいるの?」


――そうだよー。


「じゃあ、聞きたいことがあるんだ。他の人に訊かれたら困ることだから、出来るだけ目立たない場所に行ってもらえるかな」


――もしかして、あたしのこと、頼ってくれるの?


 かなみは期待を込めて聞いた。僕は素直に答える。


「ああ、今はかなみだけが頼りだ」


――……くーちゃん……わかった。ちょっと待っててね!


 どうやら張り切ってくれてるようだ。

 僕はしばらく待機した。


――もーいーよ。


「周りに誰もいない?」


――絶対いない。


「じゃあ訊くけど、あれから何か変わったことはある?」


――変わったこと?


「玲子さん絡みの話とか」


――ママのこと……うーん。

 かなみは考え込んだ。しばらくして、

――そういえばね。あたし、ママに訊いてみたの。あの古臭いオルゴールのこと。あれ、くーちゃんのお父様とママが昔付き合ってたころ、プレゼントとしてお互いに渡したものらしいよ。


「オルゴールをお互いにプレゼントか。ロマンチックだね」


――そうだよねー。あのママがそんなことするなんて、ちょっとびっくり。


「そうだね。いや、それよりも」


 僕は話題を変えた。


「かなみの会社の社長って、誰が跡を継ぐの?」


――うーん、やっぱりパパじゃないかな。お爺ちゃんからも信頼されてるみたいだし。もう半分決まってるみたいだよ」


 なるほど。このままいけば道隆さんが社長になるのか。


「そうなんだ。ところで、弟の宗二さんはどうなるの? 社長の弟になるとしたら、やっぱり重役ぐらいにはなるのかな?」


――あの人は、そういう形式ばったお仕事は苦手なんだって。今も会社の手伝いはほとんどしてないらしいし。


「まあ、向き不向きはあるからね。じゃあ宗二さんは並河財閥を引き継ぐ気もないってことか。道隆さんが社長に就任するのはほぼ決定なんだね。おじいちゃんが退任したらすぐにでもってところ?」


――どうだろうね。おじいちゃんも病気で入院してるし。


「入院? 何の病気かわかる?」


――ママに絶対人に言っちゃいけないって言われてるの……。


 かなみは口ごもった。だがすぐに、

――でも、くーちゃんには教えるね! だって、あたしの婚約者だもん!


「……かなみ」


――えっとね。しん……しんふぜん? しんきんこうそく? なんだっけ。ああん、あと少しで出掛かってるのにー!


「わからない?」


――まって。くーちゃんの役に立てるんだもん! 何が何でも思い出す!


「落ち着いて。ゆっくりでいいから」


 そう、慎重に考えて欲しい。

 心不全と心筋梗塞では、深刻さの度合いが違ってくる。


――あ、そうだ。心筋梗塞だ。パパとママが難しい顔で話してたもん。『ゆゆしきじたい』だって!」


「由々しき事態、か。やっぱり、そういうことなのか……」


――そういうことって、どういうこと?


「ごめん、もうひとつ。おじいちゃんが心筋梗塞になったのはいつ?」


 これが最後の質問で、そして最も重要なことだった。


――今から、二年前。その頃から、ママはくーちゃんのお父様とも会ってたみたい。それからパパもむっとする顔が増えた。


「そうか。やっぱりな」


――くーちゃん、なにかわかったの?


「……まだはっきりとは言えない」


 そう、もしかしたら完全な的外れかもしれない。


「でも、もし僕の考えが当たってるとしたら」


 僕は意を決して、その考えを口に出した。


「……さんを、今から言う場所に来るよう伝えて欲しい」


――今から?


「かなみ。すまない。今は説明する時間も惜しいんだ。頼む」


 僕は固唾を飲んでかなみの返事を待った。

 しばらくして、彼女は答えた。


――いいよ。


「本当?」


――その代わり、あたしも行くから。くーちゃんと一緒に――


「駄目だ!」


 思わず受話口に向かって怒鳴ってしまった。


――ひぅっ。


 いきなりで驚いたらしく向こうで小さな声が漏れた。


「……ごめん。大きな声を出して。かなみには本当に感謝してるよ。でも、これは僕の問題なんだ。その代わり約束する。一通り終わらせたら、包み隠さずかなみに全部話すって」


――わかった。


 かなみはしっかりとした口調で言った。


――すぐにでも向かうよう伝えておくね。それと、もうひとつ。


「ん?」


――……無茶は、しないでね。


「ああ、ありがとう」


 電話を切ると、僕は深く息をついた。


 少しかっこつけすぎじゃないか。

 全部一人で終わらせてからだ、なんて。

 しかし自分から足を踏み出さなければ、この先一生後悔が残るかもしれない。ならばどんなに傷つこうが、真実を僕は知りたかった。例えそれがどんな結果を招くとしても。


 時刻は七時半。窓の外はしんしんと雪が降り積もっていた。正直こんな時間に外に出たくはない。だけど行かなくちゃ。行って、けりをつけなくちゃ。


「……よし。行くか」


 僕は覚悟を決めると家を出た。

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