表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/60

19 大国騎士団・第七親衛隊隊長の観察日記

「日報ですか?」

「ああ。上が隊別に記入して、日々気がついた事などを記録を残しておけと」


 夜間の就業前に上司であるイグニス・パルウァエに呼び出された第七親衛隊・副隊長のイリエ・ロンバルトは、差し出された【業務日報】と表紙に記してある冊子を受け取り、パラパラと頁を捲る。


「…私が書けばよろしいのでしょうか?」

「いや、隊員全員で回して書いてくれ。管理はお前がしろ」

「…承知しました」

「日報を書くのを嫌がったり、ふざけて書いたりしたら、ぶっ飛ばすからな、ってあいつに伝えておいてくれ」

「…分かりました」


 珍しいことに第七部隊には、各部隊に配属されている筈の事務長官が居らず、隊長であるイグニスが兼任している。その為に他の親衛隊長よりも多忙を極め、日報の管理まで手が回らないのだろうとイリエは思った。


 短く刈られた赤い髪に、ゆるみの無いきりっとした茶色い目を持つイグニスは、年齢よりも若い姿をしており、今年で三十一になると言っているが二十歳~二十五歳位の青年に間違われる時もあるという。髪色が明るい為、軽薄そうな印象があるが、そのような外見とは裏腹に、真面目で若干融通のきかない性格をしている。体格は他の隊員よりも頭一つ分位小さいが、鍛え上げられた体は一度ひとたび剣を握ればしなやかな身のこなしを見せ、模擬戦などでイグニスの膝を付かせるまでに追い込む事を出来た者は居ない。

 

「どうかしたのか?」

「…いいえ」


 イリエ・ロンベルド。イグルスに次いでの年長者で二十八歳の青年は、艶のある鳶色の髪に、深い青の瞳を持っているが、秀麗な顔を隠すように色つきの眼鏡を掛けている。性格はイグルス以上に生真面目で、隊で一番に隊長であるイグニスを尊敬していた。もちろん態度には出さないので、本人が知る由も無い。


 仕事を切り上げたイグニスを見送り、自分の席に付いたイリエは【業務日報】を手に出勤して来る隊員達を待った。 


◇◇◇


 業務日報を書く事になった隊員達は、面倒だと不満の声を漏らす。イリエは仕様が無いと思い、隊長から言付かった脅しの言葉を口にすると、隊員達は薄ら笑いを浮かべ、顔を見合わせていた。

 イリエが一人目に指名したサイ・バーンズは【業務日報】と書かれた冊子を大人しく受け取る。


 最初の頁はイグニスが記入しており、読みやすい綺麗な字で書かれていた。


 【大国騎士団・第七親衛隊 業務日報】


 Martius 3【担当】イグニス・パルウァエ


 ◇日報について


 親衛隊全体で毎日の記録を付ける事になった。日々の問題点や、今後検めるべきだと気づいたこと、殿下の様子や訓練の様子に、失敗した事や仕事をしていて分からないことなどを記入して欲しい。

 総隊長などが目を通すかもしれないので分かりやすい字で、真面目に書くように。


 ◆上司より 【担当】イグニス・パルウァエ


 イリエへ

 もしも重要なことが書かれていたら、引継ぎ時に報告をしてくれ。大変だとは思うが、よろしく頼む。


◇◇◇


「うっわ、面倒くせえ」

「真面目に書かないと隊長にぶっ飛ばされるぞ」

「…分かっているって」


 記念すべき業務日報の名誉ある一番手に選ばれたサイ・バーンズは嫌々ながら、就業後、訓練を終えた後に休憩室で日報の記入を始めた。


 Martius 3【担当】サイ・バーンズ


 ◇異常なし


 本日も異常なし。今夜も平和でした。出勤して来た隊長が、休憩室の掃除をせわしなく始めたのでこれ以上書く事は困難です。埃が目と鼻に入ってクシャミが止まりません。目が、痒…。

 それにしても隊長、几帳面過ぎ。朝から布巾で窓枠サッシまで磨いている。家に使用人は居ないと前に言っていたので、多分休日とか一日中部屋の掃除とかしてそう。隊長の奥さんになる人は大変だ。ちょっとでも物の位置がズレていたら怒るタイプだと思います。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルド


 ご苦労様です。休憩所の掃除は夜勤担当者が交代で行うようになっていたと思うのですが、どうなっているのでしょうか?

 イグニス隊長の机はいつも整理整頓がされていて綺麗です。皆も見習うように。


 Martius 5【担当】キレル・エスダーク


 ◇隊長が異常です。


 来る日も来る日も訓練、訓練。他の親衛隊が訓練をしている所を見た事がありません。わが隊が他の隊員達から何と呼ばれているかご存知でしょうか? …なんと【第七脳筋部隊】と呼ばれているのです。脳筋なのは隊長だけで、他は強制されて訓練をしているだけに過ぎないのです。

 この前第四親衛隊の隊員から「お前達は何と戦おうとしているんだ?」と馬鹿にされたように聞かれました。確かに王宮は外部からの侵入や悪意を持つ者を排除する魔術が掛けられており安全です。公務の移動も街道には魔物避けがあるので、魔物に遭遇したことなど一度もありませんでした。

 この二年間、殿下を御守りする為に剣を抜いたことなど皆無で、訓練の必要性に疑問を感じます。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 我々の任務はパライバ殿下を御守りする事です。剣を毎日握り、訓練をしなければ勘も鈍ります。王宮内や公務の道中が安全だと言うのであれば、親衛隊という組織も不要になります。起こるかもしれない「もしも」の為に私たちは訓練を行うのです。

 外部の騎士からは親衛隊は【お飾り騎士の坊ちゃん集団】などと言われているのをご存知でしょうか?悔しく思いませんか?

 これを読んで思う所があり、訓練に意味を見出す事が出来れば嬉しく思います。


 Martius 10【担当】ルーク・エリオッド


 ◇お腹空いた


 殿下の侍女様が伏せられた為、休憩時間も無ければお茶も出ないし、食事も摂られない。正直辛い。隊長が何を言っても聞く耳持たずです。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルド


 今人事に新しい侍女を入れて頂く様言っています。もう少しの我慢です。


 Apriis 10【担当】レイク・アンダーベル


 ◇侍女様!! 侍女様!! 新しい侍女様!!


 明日から新しい侍女様が来るらしいですよ!噂によるとなんと、超絶美人らしいです!! 楽しみだなあ…


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルド


 確証の無い情報は書かないように。


 Apriis 10【担当】ジャック・ハプトン


 ◇侍女様キタァーー!!


 新しく来た侍女様ってユースティティア公爵家のフロース様じゃないか! 十年前位にランドマルク卿の後を追って北方の領土に行ったという話を他の部隊の隊員から聞いた事が。年に一度位王都の夜会に出ていたが、綺麗だったなあ。いつ戻ってきていたんだろうか。侍女をする、ということは独身という事? 結局ランドマルク卿の奥方にならなかったというのか。

 あとフロース様のお蔭で殿下が休憩や食事を摂ってくれるようになった。ありがたや。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルド 


 ラウルス・ランドマルク伯爵は女性です。間違えないように。


 Apriis 17 【担当】セイヤ・イーリリ


 ◇フロース様


 今日、イルデがフロース様に注意を受けていました。あいつは恰好にこだわりがあるみたいなので、注意をすれば不機嫌になります。今まで隊長に注意されても、何も言わず我慢をしていましたが、フロース様相手に切れかけていました。危ない、と思っている所に隊長が割り込み、事なきを得ました。

 しかしその後に言った隊長の「姫様」呼びが気になってしまいました。隊長はフロース様の大切な方なんでしょうか?


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 隊長とフロース様はお知り合いのようで、親しい仲なのかもしれません。その点については、あまり深く突っ込まないように。


 Apriis 31【担当】レイク・アンダーベル


 ◇発見!! 発見!! 大発見!!


 朝市で隊長らしき人物を見かけました。後ろ姿しか見てませんが女性連れです。多分着ているものから貴族の女性じゃないかな? と予想しています。あの隊長が朝帰りとは…。


 【Maius 3 訂正!!】…上に書いた事は忘れてください。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 隊長は夜勤明けです。一緒の勤務体制だったのを忘れたんですか? それと個人的な情報は書かないように。


 Maius 6 【担当】フール・ヌイット


 ◇怪しい


 隊長とフロース様ってよく一緒に居ますよね? 休憩室でも二人同時に出て来る所を見かけかしたし、フロース様はほとんど毎日隊長の昼食を持って行っているみたいです。姫様呼びもしていますし、婚約まで秒読み、といった所でしょうか? 

 フロース様のきついお言葉にも隊長は動じていませんし、お似合いかもしれませんね。

 それにしても、逆玉の輿かあ…。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 業務に関係の無い事は書かないで下さい。


 Maius 7 【担当】イルデ・ウイットラン


 昨日の雨天で本日の訓練は無いと思っていたが、隊長が芝生の広場の使用許可を取っていたので、予定通り実施された。

 この部隊に入って半年程、確実に剣の腕が上がったように感じる。隊長の助言通りに体を動かすと、剣技が上達したように思う。一度外に魔物退治などに行き、実戦をすべきだと考えている。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 実戦を経験するのはいいことだと思います。一度上に掛け合ってみます。


 Maius 12 【担当】エイオッド・ミルダ


 ◇速報!!


 隊長の御前武道会への出場が決まったそうです!! 当日の入場券など用意してもらえるのでしょうか?とても楽しみです。隊長、いい所まで行くんじゃないですか?


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 残念ながら当日は殿下の護衛と会場の見回りを行います。


 Maius 24 【担当】サーシャ・アレイク


 明日みょうにちよりオパール殿下の親衛隊長となり、この部隊とは今日で最後となってしまいました。隊長に学んだ剣技や整理整頓術など忘れずに続けて行こうと思っています。皆さん、お世話になりました。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 親衛隊長就任おめでとうございます。


 Maius 25 イーオン・アストリム


 ◇やあ!


 私の名前はイーオン・アストリムだ。王族騎士団・近衛軍=第二部隊から来た者だが、気後れせずに話しかけて欲しい。なに、遠慮することは無いよ。ちなみに趣味は演劇を見る事で、特技はダンスだ。

 私も君たちと同じ騎士、近衛軍で習った事は惜しみなく教えるつもりだ。安心してくれよ。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 私的な事は書かないように。


 Maius 25 【担当】レイク・アンダーベル


 ◇すげえムカツク…


 ーー誰とは言わないが。

 それにしても王族であるフロース様に断りも無く触れるなんてどうにかしていると思う。不敬罪で捕まってしまえ。っていうか、隊長、フロース様助けるの遅いよ!! あんなにフロース様嫌がっていたのに…! 隊長の彼女なのに別の男に触られるのとか平気なんだろうか?


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 気持ちは分からなくも無いのですが、これは業務日誌です。最近個人の日記のようになっているので、気をつけて下さい。あと、隊長とフロース様はお付き合いはしていないと聞いています。


  Maius 30 【担当】レイク・アンダーベル


 公務!! 公務!! 楽しい公務!!


 パライバ殿下が急病で行けなくなったので、急遽フロース様がキリンツ村まで行くことになりました。終始、隊長とフロース様はいちゃついておりました。仲の良い二人を見ていると自然と頬が緩んでしまいます。とても、お似合いです。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 フロース様と隊長の様子はいいので、きちんと公務についての様子などを書いて下さい。


 Junius 9 【担当】コーワ・ギジュール


 ◇隊長と


 朝市が見てみたいと妹にせがまれ、出勤前に連れて行った所、休日の隊長と遭遇しました。

 何故か荷車に馬の餌と寝藁を大量に積み、隊長自ら引いていました。一体何故…?隊長の家には使用人は居ないのでしょうか?

 それよりも、妹が隊長に興味を持ったようで紹介してくれと言われたんですが、どうすれば…。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 そのようなことは両親に相談しなさい。


 Junius 10 【担当】ゾフィル・ルーン


 ◇悲報


 た、隊長の後頭部が…


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 隊長の後頭部については触れないように。


 Junius 12 【担当】アイルス・ハイルス


 ◇隊長…


 仕事中は普通に過ごしていますが、休憩時間などは即座に目が死んでいます。遠目からはあまり目立たないので大丈夫だと思うのですが…

 あんまりにも落ち込んでいるので、フロース様が椅子に座ってうな垂れる隊長の前にしゃがみ込んで、隊長の膝をポンポン叩きながら慰めていました。

 正直フロース様みたいな美女に膝をポンポンして貰うとか羨ましいです。自分も後頭部に円形の禿げを作れば膝をポンポンして貰えるのでしょうか?


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト

 

 止めなさい。


 Junius 13 【担当】コーワ・ギジャール


 ◇???


 妹に市場で買ったお菓子を買ってくるよう言われたので、夜勤明けに行って見れば、休日の隊長がいました。

 何故か隊長が荷車を引き、その隣を銀色の綺麗な馬が悠然な様子で歩いていました。脇を通り過ぎた隊長が「お前、覚えておけよ…」と低い声で呟いているのを聞いてしまったのですが、どういう意味なんでしょうか?

 そもそも、何故人間が荷車を引いて、馬がまるで主人のように隣を闊歩していたのか…しかも銀色の馬は微妙にフロース様に似ている気が。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 見間違いでは? ギジャール卿は夜勤明けで疲れていたのでしょうね、きっと。


 Junius 14 【担当】ジャック・ハプトン


 ◇女の影?


 仮眠室で眠っていた隊長が寝言で「フロイライン…」と苦しそうな顔で呟いていました。フロース様の事は諦めて新しい恋に走ったのでしょうか。それにしても、フロイライン、微妙にフロース様と名前が似ているのが気になります。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 これは隊長の様子を書くものではありません。注意するように。


 Junius 19 【担当】エリオッド・ミルダ


 ◇大変だ!


 まだ隊長落ち込んでいるけど、今日はフロース様がお休み。

 隊長の膝をポンポンしに行った方がいいのか!?


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 止めなさい。


 Junius 22 【担当】サイ・バーンズ


 ◇朝から修羅場過ぎる。


 隊長の背中に銀色の短い毛がついていたとの事で、朝からフロース様より厳しい尋問を受けていました。ちなみにフロース様の髪の色より濃い毛だったそうです。もしやフロイラインさんの髪の毛か!?

 隊長、いくらフロース様に手が出せないからって似たような女と付き合うなんて…。

 隊長はしきりに「それは、う…」と言っていましたが、それ以上喋るとフロース様に「言い訳は止めて!!」と責められていました。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 仕事について書いて下さい、お願いします。


 Junius 30 【担当】ルーク・エリオッド


 ◇激痩!?


 隊長、急激に痩せていってませんか? もしかして噂のフロイライン嬢に財産やらを搾り取られてしまっているんじゃあ…?


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 確かに隊長は痩過ぎのような気がします。今度話をしてみますね。


 Quintilis 2 【担当】レイク・アンダーベル


 ◇速報! 速報! 大速報!


 フロイラインは馬の名前だった。銀色のフロース様に似たお馬さんです。この馬を買ったので、隊長は節約生活をしていたようです。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト

 

 安心しました。


 Quintilis 28 【担当】キレル・エスダーク


 ◇公務でした


 本日は公務です。【ヤリナタリア】へ殿下を護衛する任務を言い渡されました。街までは馬で半日程度で、数日前に魔物騒ぎがあったので、同行する隊員はいつもより多く向かう事となりました。

 ヤリナタリアまでの道のりは順調でしたが、途中、急に天候が変わり、冷たい風が吹いたと思えば目の前に魔物が出現して、突然の事に皆動揺が走り、馬も怖がって隊列も崩れてしまいます。

 訳が分からなくなった自分達に、隊長は大声で指示を出してくれました。私は後方で戦っていましたが、隊長の立ち回りは完璧なものだったと思います。戦いながらも、指示を飛ばし、周囲を気にする事を忘れない。

 正直、隊長が居なかったら被害は大きかったと思います。隊長がいつもの訓練と同じように言葉を掛けてくれたから、剣を振るう事ができました。

 前に訓練は必要ない、と書きましたが、それは間違いだったようです。安全を約束されたどの場所も、必ずしも大丈夫であるとは限らないものだと、認識を改めることが出来ました。これからも真面目に訓練に励みたいと思います。


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 そのようなことがあったんですね。お疲れ様でした。今回の経験を経て、訓練の大切さに他の隊員も気が付いてくれたら嬉しく思います。


 Quintilis 28 【担当】レイク・アンダーベル


 ◇フロース様が美し過ぎて


 親任式をちゃっちゃっと終わらせ、夜会が始まりました。隊長と二人で殿下のお傍付きをしてます。挨拶に来る貴族のご婦人に何度も殿下は踊りに誘われ、無表情でクルクルと舞っているという不思議発見がありました。

 途中、フロース様がランドマルク伯爵と共に現れ、注目は一気にそちらへと移ってしまいます。仕事人間の隊長も珍しく任務を忘れ、フロース様に魅入っていました。

 そんな様子をパライバ殿下も気が付いていたようで、隊長にこの後の時間を好きにするように言ったのに、部屋に帰ろうとしてしまいます。

 なんでも踊りの仕方を知らないと言うのです。慌てて教えるからと言いましたが、遠慮をされてしまいました。

 その後、会場から居なくなった隊長にフロース様はすぐに気が付いたようで、こちらへ向かって来ました。誰かと一緒に消えたのかとか、どうして帰ったのか、とか質問攻めにされ、こちらの話を聞くと、フロース様はまた人の居る方へと戻って行きました。今にも隊長の後を追いかけそうな勢いだったのにどうして? と思っていたら、参加者への挨拶がまだ終わっていないようでした。きちんとご自分のお仕事を全うされてから、隊長を追いかけるフロース様はとても立派です。


 二人はどうなったんでしょうか? 隊長も自分が貴族じゃないからと、及び腰になっているのでは?


 結婚したら、隊長を養子にしてあげたいです。そしたら心配も無くなって、フロース様と結婚出来るハズ!!


 ◆上司より 【担当】イリエ・ロンベルト


 止めなさい。


◇◇◇


「おい、イリエ」

「はい?」

「前に渡した日報はどうした?」

「……」


 現在、第七親衛隊の日報はイグニスとフロースの愛の記録になっていた。とてもじゃないが、イグニスに見せる事が出来る代物では無い。


「今、他の隊員の手に」

「そうか。返って来たら見せてくれないか?」

「え?」

「ん、どうした?」

「あの、皆、真面目に書いています」

「ほう?」

「特に隊長の目を通さなければならない記録は無いように思えます」

「ふーん」

「…なので、今後も管理をお任せ下さい」

「分かった。引き続き頼む」

「御意」


 こちらの言葉を全く疑わないイグニスに心の中で謝りつつも、二冊目からは真面目に書くよう指導をしなければ、と誓うイリエだった。


 【幕間】大国騎士団・第七親衛隊隊長の観察日記 -完ー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ