Case1-2:勝負のバレンタイン
凛の存在が有名になったきっかけは、私の入学手続きのために凛が学園に行ったこと。そこで偶然起こった盗難事件を解決したらしい。被害者は女子生徒数人で、そこから凛の噂が広がったのだとか。そして、ダメ押しは授業参観に凛が来たことだ。若い男性教師がほとんどいないということもあるだろうが、クラスの女子生徒の半分以上は凛に興味津々になっていた(一方で、男子生徒のおよそ半分は凛と一緒に来た、おばさん刑事の南雲小雪さんに目を奪われていたそうだが)。
自分が言うのもなんだが、女子高生という生き物は実にイケメンに弱い。
だからこそ、そんな上っ面だけの女の子には負けられないのだ。私は凛のことが何よりも誰よりも好きなのだから。
凛の性格は知っている。強さも弱さも知っている。
良いところも悪いところも全部ひっくるめて好きだ。
何より、今の私がいるのは凛のおかげだ。
だから、私は凛を幸せにしたいと思っている。そして、私も一緒に幸せになりたいと思っている。
こんなことを考える女子高生は、ませているだろうか。
二月には女の子にとって特別な日がある。
バレンタインだ。
この日に勝負をかける女の子は少なくない。
バレンタインデーとはいわば女の子にとっての戦いの日なのだ。もちろん、私がチョコを渡す相手は決まっている。十六夜凛以外にいない。
凛は私のことを観月と名前で呼んでくれるようにはなったが、その扱いがまるで歳の離れた妹のようなのだ。それを改めさせなければならない。ちゃんと一人の女の子として見てほしい。
だから、私はバレンタインデーに告白することにした。
付き合って欲しいって、はっきり言うことにした。
そうでもしないと、あの鈍い凛は気付いてくれそうにないからだ。
そして、次の日曜日。
日曜日に私は友達二人を私の家――といっても、居候だが――に呼んで、チョコ作りをするのだ。
もちろん、明日、凛が仕事で家を空けているということは分かっている。だから、凛にこれがバレるということはない。
万が一バレるとすれば、凛の養父、十六夜煌だろう。四十代後半でかなりの重要な地位に就いている。努力して這い上がろうとする人間をせせら笑うかのように、スキップでもしながら出世街道をとんとんと昇る、世の中をなめたような大人だ。見かけ上はのほほんとしているが、その頭の回転と行動力は並の人間とは比べものにならない。
ダメだ、やっぱり私はこの大人が気に入らない。
あの天才ぶりや、あの無敵ぶりが気に入らない。
あの才覚があったら凛を私の虜に出来たのに、とか考えているわけじゃないけどさ。
ともかく、あの男にだけは見つからないように細心の注意を払おう。……無理かもしれないけれど。
こんばんは、星見です。
バレンタイン? 何それ美味しいの?
言ってて悲しくなってきました(笑)というわけで、観月と凛に良いバレンタインをプレゼントしましょう。作者の代わりに。
というわけで、次回またお会いできることを祈りつつ……