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春と夏  作者: きのぐる
4/7

4話 心にそよぐ秋風

4話目、ここで折り返しです。

僕はすぐに千夏を追いかけた。

けれど千夏は小さい体で人ごみを縫うようにかけて行く。

僕が会場の出入り口につく頃にはすでに千夏の姿はなかった。


会場に戻ろうかとも思ったが、やはり千夏のことが気になって僕も家路についた。

予想はしていたけれど……千夏は僕のマンションではなく、自分の家に帰ったようで、結局会うことは出来なかった。



そういえば僕は、千夏の家どころか携帯番号も知らないな。

というか千夏が携帯を使うところを最初に部屋を撮られて以降見たことがない。

高校生なら携帯を手放せないほど使うというイメージがあるけど、千夏は違うのだろうか?


デスクで患者のカルテを見ながらぼ~っと考え事をしていると、もう1人の面倒事がやってきた。

「工藤先生! 高校生って嘘じゃないですか!」

「え……? ええ? な、何のことですか?」

眉間にしわを作る……ええっとぉ……眉間にしわを作る笹山さん。

いまだに名札を確認しないと名前が分からない自分が情けないなぁ。


「昨日 一緒にいらっしゃった先生の恋人、うちの姪の同級生だと聞きましたよ! 中学2年生じゃないですか!」

「え………」

高校生だというのも嘘かよ!

そりゃ高校生にしては幼いと思ってたけどさ、もう何が本当だか嘘だかわからないじゃないか!


「まぁ……今はそれはおいておくとして――」

咳払いをひとつして改まる笹山さん。


「あのこと、病院の人たちには黙っておいてくださいね」

「あのこと? ああ! ボーイズら――」

「口にするな!」

「んぐっ!?」


あまりにすごい形相で睨むので、思わず舌を噛んでしまった。

そうだ、笹山さんはイベント会場で売り子をしていたのだ。

「人のことをロリコン呼ばわりしておいて、笹山さんも仲間だったんじゃないですか」


「私はリアルで同性愛者なわけじゃありません! そういう人達を差別するわけじゃないけどね、先生と同列にされるのは心外です!!」

「ご、ごめんなさい……あやまりますから注射針は置いて下さい」

こ、怖い……本気で怖いよ笹山さん!

僕だってリアルでロリコンってわけじゃないのに、なんで謝らなきゃいけないだよ……


「工藤先生、3つ約束してもらえませんか?」

「ん?」

指を3本立ててみせる笹山さん。


1つ目はもちろん笹山さんがオタクだと言うことを周囲に黙っておくこと。

2つ目は――

「うちの姪に絶対近付かないこと」

「………はい」

いつかこの誤解を解かなければ……がっくり。


「それから3つ目は、今度カラオケに付き合うこと」

「え?」

カラオケ?

なぜにカラオケ?


「カラオケが苦手なら飲みでもいいですよ、工藤先生っていくら誘っても断るんですもん、たまにはみんなで騒ぐのも楽しいんですよ」

にっこり笑ってみせる笹山さん。

当然僕にとって そういうのは苦手以外の何物でもない。

だけど、しかたない――

「わかりました……今度参加させていただきます」


カラオケも無茶だけど飲みもあまり自信がない。

人と話すことがそもそも苦手なのだ。

なんだか面倒臭いことになったなぁ。

持ち場に戻っていく笹山さんを多少恨めしく思うが、彼女は彼女で僕のことを気にかけてくれているのだろう。

それは嬉しく感じるべきことなのだろう。


目線を落すと、僕のデスクの上に封がされたままの注射針。

笹山さんが忘れて行ったようだ。

本気じゃないだろうけど注射針を手に凄まれると身が凍る気がした。


あれがもし千夏だったら――


………

……………

…………………


ナース姿で注射器片手に頬を膨らませる千夏を想像してしまった。

そのまま笑いながら刺されそうだなぁ。

いや、さすがにそれはないか。


きっと割烹着の時と同じように、だぶだぶのナース服だ。

そのままだと袖が長すぎて邪魔だから、袖を捲し上げなきゃ駄目だな。

裾もだな、それか腰の所で少し持ち上げて、紐でとめるのもいいか――


……千夏って本当は中学生なんだよな。

僕は中学生相手になんで変な妄想をしているんだ?



それから二週間後――


職場の人達と飲みに行った。

浮きまくっていたし、緊張していたせいか、酔いが回るのも早かった。

笹山さんがよく僕に話を振っていた。

僕に気を使っていたのだろう。

でも僕がうまく応じられるはずもなく、ほとんどは空振りだった。


マンションに帰ってきてもまだ頭がガンガンする。

台所の蛇口から水をがぶのみすると少し楽になった。


あんなうるさい場所で叫びあうみたいにとめどない話をして、みんな本当に楽しいのか?

頭だけじゃなく、耳障りな耳鳴りもしている。


だけど、それを思い出すとマンションの静けさが寂しくも感じる。

こんなに静かだったかと疑問を感じるほどだ。


……そうだ、あれから――この二週間、ずっとここは静かなんだ。

千夏が来ていない。

呼ばなくても勝手に来て、僕を脅して作った合鍵で勝手に入って、勝手にソファでマンガを読んでいる千夏の姿がずっとないのだ。

久しぶりに頭の中に響く耳鳴りは、アルコールのせいだけではなく、千夏がいない静かさのせいもある。


僕は千夏に会いたいのか?

そんなわけは――

と、自分をごまかしても仕方がない。

会いたいのだ。


人間関係というものに距離を置いてきた僕には、これが異性を思う気持ちなのか、娘の心配をする父親の心境なのかわからない。

あるいは下僕心理なのかもしれないし、ロリコンとしての目覚めなのかもしれない。

その辺は考えると頭が痛くなるので考えないようにしている。

どうせ会わなければわからないことだ。


それよりも会って問いただしたいことがたくさんある。


千夏は僕に「甲本千夏」と名乗ったが、調べてみると親戚にそんな名前は存在しない。

即売会でも確か千夏の同級生は千夏のことを他の名前で呼んでいた。

僕が葬式のことをちゃんと覚えていないのをいいことに偽名を使っていたのだ。

なぜ偽名を?


歳のこともそうだ。

なぜ歳をごまかした?


なぜ家のことを話したがらない?


なぜいつも笑ってごまかす?


なぜ………二週間も来ない?


見えない穴がぽっかりとあいたようなマンションを見渡すと、千夏が置いていった寝巻きや小物が僕を恨めしそうに見ている気がした。

文体とか書き方とか、これでいいのだろうか?

あまり人の小説を読まないので独自の書き方になってる気がする。

もともとはシナリオばかり書いてた人間なもので小説は不得手なのです。

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