1話 夏 来たりなば 春 大よわり
エロ小説を書いていきたいと思ってたんだけど一度普通の小説を挟むことにしました。
この小説で幸せをつかめなかった脇キャラを次回のエロ小説で主人公にして幸せにしてあげる予定……かも?
「工藤先生、今日は当直じゃないですよね? みんなでカラオケに行くのですけどどうです?」
「あ、ごめん……今日は用事があるから無理なんだ」
本当は用事なんてない。
なのにそう即答してしまう。
僕に声をかけた看護婦は、また暇な時に、と、笑顔で同僚の所に駆けて行った。
楽しそう、羨ましいと思う自分がいるのだが、どうしようもない。
人と接するのが苦手な僕は、作り笑顔だけ見せてからため息をついた。
医者ともなればもてないわけがない……多分。
ポストにはいつも合同見合いとかデートとか、その手のチラシが入っているが、どこで知ったかすべて医者向けの物で、無料でOKとなっている。
つまり医者という肩書きさえあれば、主催者側は男から金を取らなくても女から金を取れるというわけだ。
その手のイベントに同僚に誘われて一度行ったことがある。
気の利いた会話も出来ない僕の周りには、それでも女達が集まってアピールをかけてくる。
同僚の方を見ると、彼も同様の状況だ。
違うのは、彼はその状況を楽しんでいるが、僕は対応に困るばかりだったことだろう。
肩書きだけで目の色の変わる女に辟易する。
それも確かだが、僕は極度の奥手なのだ。
人並みに性欲もあるし、一人身が寂しいとも感じているのに――
今日もいつもと変わらぬ根暗な溜め息を繰り返しながらマンションにつくと、そこにはいつもと違う者がいた。
ドアの前に人影………
うずくまっているがポニーテールなので女だろう。
人の家の前になぜ?
どうしたものか?
しばし考えた後、対人恐怖症気味な僕は当然のように彼女が消えるまで、どこかで時間を潰そうと考えた。
「あ! 千春さん!!」
運が悪いことに彼女に背中を向けた直後に彼女が僕に気付いた。
見た感じは中学生くらい、ただし中学生にしては背の低い少女だ。
多少すれた感じがするので中学生だと感じたが、小学生かもしれない。
「えっと……誰?」
「え! 嘘! わたしのこと忘れてんの?! ひどいな~」
近付いてくる彼女に距離をとる僕。
彼女はわざとらしく頬を膨らませる。
本当は彼女が誰かは知っている。
でも関わりたくないのでとっさに距離が取れそうな言葉が口から出てしまった。
もちろん彼女に関わりたくないのではなく、人と関わりたくないだけなのだが……
二月前、祖母の葬式で出会った親戚だ。
血縁もない遠い親戚なので、具体的な関係は忘れたが、家が近いということで、少し世間話をした。
こちらが1つしゃべる間に5つも6つもしゃべる子で、なるほど印象には残っているが、残念ながら僕にはロリコンの気がないので特別な印象はなかった。
つまりその程度の関係だ。
「えっとね、親とケンカしちゃってね、でもこんな夜中に友達の家に行くとさすがに家に連絡されそうだし、千春さん家に泊めてもらえないかな?」
「え? 僕の――」
「ああ、千春さん家の住所はこんなこともあろうかとお葬式の時に千春さんのお母さんから聞きだしておいたの、頭いいっしょ?」
「あの――」
「ほとんど面識もないのに~って不安も感じるけど、千春さんはやさしそうだし、親戚なんだからやばいことは出来ないでしょ?」
「えっとぉ――」
「まぁ、わたしも高校生だし、別に気を使ったりしなくていいからソファでも床でもいいから貸してよ」
「ええ?!」
「あっ……うん、わたし小柄だし、童顔だから幼く見られがちだけど花の高校2年生さ!」
「そうじゃなくて――」
いや、そうでもあるか……身長150cmもないよな?
「手土産も持ってきたさ~、ほら!って言ってもコンビニで買ったお菓子とジュースだけどね」
「………」
「とりあえずこんなところで話しててもなんだし、中に入れてもらっていい?」
「……はい」
恐らく彼女は僕とは別の星で生まれ育ったのだろう。
意思疎通がまともに出来そうにない。
「本当に覚えてないの? わたしは甲本千夏、千春と千夏で名前が似てるねって話したの覚えてない?」
会話の内容までは覚えてない。
「あ、でも『千春さん』と『千夏』じゃ分かり辛いから私のことは『ち~ちゃん』って呼んでよ」
「いや、あの――」
「いやなの? じゃあわたしが千春さんのこと『ち~ちゃん』って呼ぼうか? どっちがいい?」
「………どっちでもいいです」
もう……どうでもいいや。
「そうそう、いい大人が細かいこと気にしてちゃ駄目だよね、ち~ちゃんは分別のある大人ってやつだね!」
………
「うわあああああぁぁぁぁ……」
中に入るなり彼女は後じさりした。
散らかりっぱなしの台所は文章にすべきものではないし、文章で表現できるものでもない。
ましてや女子高生が目の当たりにして平静を保てるものでもないだろう。
「汚くてごめん」
人の家に勝手に押しかけて来た奴に何を僕は謝っているのだろう?
「いや……これはさすがに……」
ひくよな、そりゃぁ――
「ん~……お世話になるんだし、お礼に片付けてあげる!」
「え?」
腕まくりしてずんずんと入っていく彼女、千夏。
正直驚いた。
ちゃらちゃらした女子高生(見た目小中学生だが)にそういう女性らしい行動を取る生態があるとは思いもしなかった。
いぶかしげな顔で千夏を見ていると、それに気付いた千夏がにかっと笑って僕を見た。
「これを片付けてあげるんだからあとでお礼をしてもらうからね!」
ちょっと待て、それは僕が千夏を泊めるお礼に片付けてくれてるんじゃないのか?
お礼のお礼ってなんだよ?
千夏が台所を片付けている間に自分の部屋を片付けよう。
自室に千夏を入れる気はないが、というか近付けたくもないが、もしも覗かれるとまずいのだ――
隠せる物は片っ端から片付けておかねば。
「ほぉほぉ、それは同人誌とかいうやつですかな?」
散らかったエロ同人誌をかき集めている僕の背中に千夏の声。
恐る恐る振り返ると……
部屋の入り口には携帯を手ににやりと笑う千夏の姿――
「だ! 台所を――」
「そんなの嘘に決まってるじゃん」
「ぬえ!!」
「台所を片付けるって言っておけばその隙にやばい物を片付けようとするだろうな~って」
「ど、どうし――」
「お礼をするより弱みを握った方が確実じゃん、わたしって頭いいっしょ?」
部屋に落ちていた同人誌を手に取り、千夏が意地の悪い笑みを浮かべる。
悪魔だ……僕は悪魔を家に入れてしまった――
「と、言うことで家には電話しないでね」
手に取った同人誌を一瞥して苦笑いを浮かべる千夏。
電話をしようという発想すらなかった人付き合いの下手な僕がかなう相手ではなかった。
「一応言っておくべきかな? 分かってると思うけど今撮った画像を親戚うちにばら撒かれたくなかったら黙ってわたしを泊めてね」
「………はい」
そう――もはや僕は彼女のいいなりなのだ。
らぶらぶが好きです。
紆余曲折があっても最後はハッピー。
少なくとも恋愛を題材にする場合はそうあるべきだと思って書いてます。
読む方ではそのかぎりじゃないですけどね!






