花火
滅多に姿を現さない主催者、真朱です。
この度は企画したのが自分の癖に登校が超ギリギリという失態。
申し訳なく思います。
次こそは!
今回は綴り人のメンバーで「夏祭り」「肝試し」「水着」の中から御代を選んで短編を書きました。
私は「夏祭り」です。
「君がいた夏はぁ……遠いー……夢の中ぁー」
『夏祭り』の曲えお途切れ途切れに口ずさむ。
私の頭上では最初の花火が花を開いたと思ったら、次々と夜空を光が彩っていく。
「花火、始まっちゃった」
せっかく着てきた浴衣がむなしい。お揃いの浴衣を用意したのに、佑香はその浴衣で彼氏と花火を見ているんだ。
『急に彼から一緒に行かないかって電話が来たんだ、ごめん』
そんなメールがさっき入っていた。彼氏さんも前もって誘えばいいのに、と心の中で毒づく。
楽しいイベントのはずが、一人だと途端に色を失う。行き交う人のはしゃいだ声がなぜだか遠く感じ、屋台のいろんなにおいが混じった生ぬるい空気は私を鬱々させる。
大通りを離れ、花火会場に行く人の姿がちらほら見えるだけの道を戻っていく。すると、普段はまったく気にしない小さな鳥居の向こうで、赤い光がちらりと見えた。
「花火?」
自分の声が喧騒に溶けていく。
また一つ、小さな光が見えた。今度はオレンジ。
会場からは少し遠い。つまり祭りの花火じゃない。誰かがやっているのかとも思ったが、それらしく声もしない。
ちょっと待ってみると、また光る。
ぽつり、ぽつりと……。
青、紫、白、緑……。
私はいっ角魔にか光に向かって鳥居をくぐっていた。
火に誘われた羽虫の如くふらふらと。
一瞬、そうしたら私死んじゃうんじゃないの?とも思ったけれど、それでも帰ろうとは思えなかった。
十段に満たない階段を上っていくと、木々に囲まれた小さなお社が見えた。そのお社の前に、誰かがかがんでいる。
男の人だ。たぶん若い。頭に鉢巻を巻いている。黒いズボンに白いランニング。髪は短い。額には汗が浮かんでいる。
お社の前はそんなに広くないから、薄暗い中でもこれだけの情報があっという間に視覚から流れ込んでくる。それができた理由は、広さ以外にもう一つ――男の人が挙げている花火だ。
素人目でもヘタクソな出来の花火だった。歪な形、赤い花火にまばらに緑が混じっていたり、光らずに破裂音だけを残して終わったり。
でもなぜか――
「キレイ……――」
男の人は真剣な表情で花火の玉に向かっている。
一つ、また一つ、火をつけては空を見上げる。
そして最後の一つ。
その花火は見事に空に大輪の花を咲かせた。
花火大会の方の花火にも負けない、美しい花だった。
「や……やった。やっと、できた」
男の人はよっぽど嬉しかったのだろう。喜ぶこともままならずにいる。
この夏の花火は、一人で見たけど、完成した美しいものではなかったけれど、とても心に残っている。
夏が来ると毎年あの花火を思い出す。
あの男の人は今も、夜空に花を咲かせているのだろうか。