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007. ここはどこ? あなた達は誰?


 これぞ王道、召喚魔法か! 私が驚きながら呆然としていると、怒鳴り声が響く。


「早くどかせ!」

「次、来るぞ!」


 鎧の一人にがしりと腕を掴まれ腰を掴まれ、ポイッと(ほう)られた。ガチャガチャと鎧と剣が鳴り、鎧たちが空けた空間にべちゃりと転ぶ。顔を覆っていたリュリュが首の後ろのいつもの位置に陣取りながら風魔法を使ったので衝撃はほとんどない。むしろ着地に失敗してコケましたが、何か。…運動不足だよなあ。


 原っぱは草原というわけでもなく、むき出しの地面というわけでもなく、造成されて直ぐという感じでもない。それなりの年月風雨に晒され、人々が行きかい踏み固められた土地。私は地面についてしまった両手をパンパンと叩いて土を払い、片膝も土を払ってその場に立ち上がった。


 周りを囲む鎧たちは不動だ。警戒はしているものの恐慌や焦燥はない。一糸乱れぬ統率力。バックボーンがそれなりに強大な団体なのだろう。


 あまり急な動作で危険視されるのも困るから、ゆっくり動くことを心がけて周りを見渡す。ぉおうっ! 女子高生! セーラー服がいますよ、旦那! サラリーマンもいる! それかリクルーター? ああ首に身分証下げてる。リーマンで間違いなさそうですよ、奥さん! もう一人はラフな姿の学生さんって感じ、それかフリーター。


 彼ら三人は地面にしゃがみ込んだまま魔法陣を見ていた。ほうり投げられたままって感じの座り方で、呆然って様子だ。まあ、当然か。みんな大丈夫かね。

 あ、学生さんかフリーターって感じの男性は、座り込んだままキョロキョロと周りを見回していた。バッチリ視線が合う。ヘラッて笑う彼の真意が見えないから、とりあえず私も眉を上げて見せて保留だ。


「来ないぞ!」

「そんなハズは…ああっ、五体召喚完了してます!」

 魔法陣の辺りから不審の叫びが上がり、誰かが何かを確認して声を上げていた。五体。女子高生、リーマン、フリーター(仮)、私、…リュリュか? 単位が不穏。『体』って何だよ、『体』って。


「何だと? 至急確認しろ! 術師っ陣をさらえ! 兵士長っ召喚体を確保!」

 鎧たちの温度は低めなのに、沸点が低くてカッカと怒鳴ってるのが一人いる。巨漢って云うんじゃなくて偉丈夫って感じの男性。アレだ、タ○ミネ○ターのシュワちゃんの初期作、コナンそっくり。金髪っぽい髪は短髪だけど、マッチョでムキムキだ。


「いやっ痛い!」

「わっ立ちますっ立ちます!」

「ぅおっと、暴力反対!」

 しゃがみ込んでた彼らが鎧たちに腕を掴まれて立たされていく。私の横にも一人来たが、すでに立っていたので二の腕を掴まれただけで、特に小突かれたりとかはしなかった。


「…(あるじ)さん、攻撃する?」

 リュリュが風魔法で直接耳の中に言葉を伝えてくる。私は髪を直すふりで首を振った。とりあえずは様子見だ。リュリュには夫殿と違って触れてるからといって言葉は伝わらない。がっちり首の後ろに掴まっているから些細な仕草でも伝わって、意思疎通が可能なのが唯一の救いかな。

 そうそう、リュリュは私のことを『(あるじ)さん』と呼ぶ。ご主人様って大仰に呼ばれるよりはマシでしょ? 


「四体です」

「陣形は正常完了。あ、これは…」

「何だ、どうした?」

「高次魔力反応が出ています。その所為で1体で2体分の陣形が焼き切れてしまったようですな」

「最後の召喚体か…」

 ジロッと視線が来た気がして私はそっと視線を逸らした。とりあえず反応待ちだったけど、召喚されたってことは言葉とかそういうの不安だったし。目立つのは避けたかったしね。まあ、リュリュを連れてる時点で目立っちゃってる気もするけど。


「クソっ!」

 シュワちゃんマッチョが片手で髪をかきあげる。掻き毟る方が正解か。がりがりってしながら呻いているさまは、獰猛な獣のようだ。熊とか。ん、ちょっとカワイイじゃないか。


「神殿に恩を売るチャンスだってのに!」

 神殿。口調からして対抗勢力なのかな?

「…依頼は陣術式の完成と結果の全ての回収です。正常完了している以上、警備隊(ウチ)に落ち度はないと、そこの神官サマたちが証言してくれるでしょう」


 彼らは警備隊のようだ。揃いの鎧や規律の取れた体制から見て、荒くれどもやはみ出し者の寄せ集め的なイメージは全くない。むしろキチンと秩序だった権力中枢に近い印象を受ける。シュワちゃんマッチョに比べれば細身だけど、きっと単体で見れば細マッチョな男性が宥めながら数人を示す。鎧じゃなくて長い衣装を着ているグループ。神官サマと揶揄って呼ぶくらい微妙な関係なのだろう。


「神殿の然るべき設備に繋ぐまで、召喚体を運ぶのも依頼のうちですぞ」

「…まあ、回収だからな。了解してるぜ」

 施設に繋ぐって拉致監禁かよ。夫殿は軟禁って感じだったけど、状況と理由はキチンと説明してくれたぞ。おまけに納得いかないときは、実例を示したりしてくれた。最初は…鬼畜で非道で犯罪だったけれどもさ。


 女子高生ちゃんたちはどう思ってるのかな、と彼らに視線を巡らせて、激しい違和感。ぼんやりとシュワちゃんマッチョや細マッチョ、神官サマたちを眺めているだけなのだ。…アレ?


「日本語じゃない…」

「英語でもフランス語とかドイツ語でもないっぽいし…」

「ロシア語? ズドラーストビーチェ。あっ、グラッツィエ! ナマステ!」


 えー、何それ、彼らの言葉通じてないの? それにグラッツィエはイタリア語でナマステはインドとかネパールじゃないっけ? 世界の屋根のチョモランマ辺りの挨拶語だったような…。っていうか、普通に言葉通じて当たり前って思ってたけど、私ってば恵まれてたんだねえ。たぶん魔王サマのおかげだけど、今はリュリュかな。風魔法で言葉を伝えてくる方法を応用してるのかも知れない。


「…ここはどこで、彼らが誰で、どうやって呼び出されて、何のために集められたのか。そういうコト聞いた方が良いよね?」

 リーマンが軽くタメ息つきながら言う。フリーター(仮)が様々な言語を試すも、はかばかしくない結果に残念な感じの視線向けながら。挨拶やお礼、愛の言葉を並べ立てても反応が返ってこないのに、女子高生ちゃんも協力して言葉を掛けているのだ。アイラブユーだの言われて、通じてた場合どうするんだ? ナチュラルに告られたほうは可哀相過ぎる。


「おっ、建設的~。まずは自分らの事だよな。俺は設楽(しだら)圭介(けいすけ)、太陽系第三惑星地球の日本国出身で24歳、しがない派遣社員だ」

 フリーターだと思っていたら派遣さんだった、設楽君。違いは良く分からないが。そこそこ細マッチョ系だけど、如何せん鎧たちに比べたら華奢に見えちゃう。身長は高めだけど、驚くほどでもない、たぶん175~180くらいだろう。


「あっ、あたしは栗原(くりはら)紗枝子(さえこ)、もちろん日本人で女子高生!って言いたいトコだけど、これは…コスプレなの。ホントは大学生。高校生だと学割が利くから今日はセーラー服で行こう、って集まったトコだったのよ」

「何だよ、それって詐欺なんだぜ~」

「去年まで着てたもん。それにまだ映画館入ってないし…」

「じゃあ、栗原さんは19歳?」

「ううん、まだ18。もうすぐ誕生日だけど」


 栗原さんはなんちゃって女子高生だった。でも、まあ、ちょっと前まで現役だったんだから、許容範囲なのだろう。設楽君(派遣さん)とリーマンが話しかけてる。確かに学生と偽って入場料払ったりするのは、詐欺罪だよ。差額分の金品を騙し取るってことだからね。

 身長は低め。155くらいかな。体型も普通で痩せてる訳でも太ってるわけでもなく、まあそれなりに出るトコは出て、引っ込むトコは引っ込んでる。髪はブラウン、明るめのミルクティ色のメッシュが入ってるから、全体的に染めてるのかも知れない。今どきのメイクをバッチし決めて、セーラーのスカートは膝上15センチはある。いわゆるカワイイタイプ。


「ああ、僕は木村(きむら)航太郎(こうたろう)。歳は今度24歳だから設楽さんと同じか1こ下かな。職業は会社員。オフィスは品川で、僕も会社に居たはずだけど、気付いたらこの有様。…休憩でコーヒー飲もうと席を立った所だったのに…」

 リーマンは木村君。品川ねえ、都内のオフィスからこの原っぱじゃ、相当ビックリしたに違いない。Yシャツにスラックス、首から身分証らしきモノを紐でぶら下げ胸ポケットへ収めている。細いフレームのメガネに短髪。色白っぽいから、フレッシュマンな印象が抜け切らない。職場で年上のお姉さま方から可愛がられるタイプだ。


「…わたしは小原(おばら)美鶴(みつる)、一番お姉さんかな」

 詳しい年齢は注意深く口を閉ざす。魔王謹製着ぐるみはどう作用しているのか私の身体を若作りさせてるみたいだから。ぽよんとぶよぶよだったお腹とか二の腕とか太腿とか二重アゴとか、覚えのある程度に引き締まっているのだ。標準体重ギリギリなくらいまで。


 胸は昔から密かに自慢に思っていたが、最近は重力に負けかけていたのに、昔どおりピンと張っている。首から胸部に掛けての筋を十代から鍛えていたから、私はDカップだけどほぼノーブラで過ごしていた。でも最近、乳房の下部分が腹部のあばらにくっつくようになってきてたのだ。そこはホラ、アラフォーだし。それが昔日どおりに回復していた。ツンとね、こうツンと。


 夫殿によれば、私の意識化における身体認識を元に、もちろん夫殿の好みも容れつつ再構成された肉体らしい。…損傷激しかったしね。良かったよ、夫殿の好みが十代の小娘みたいに乳臭かったりする身体じゃなくて。ぞっとしちゃう、思春期なんて一度経験すればもう充分。


 ピチピチのお肌とかは、うん、まあ、ちょっとはうらやましかったりもするけど。ピチピチの身体は、熟れた肉体のセルフイメージに慣れちゃうと、どうもね。ホラ、あんまり若い身体は夫殿の違う欲を刺激しちゃうかもだし。三大欲求の一つの、アレね。夫婦生活でも眠るのでもないヤツ。さすがに孵りたてじゃないけどさ、噛まれる…甘じゃなくガップリと。


 夫殿の好みは成熟した雌性で、膨大な魔力に耐えられる身体が基本。具合の良い尻尾を持ち、そこそこ強度を保ってサイズに見合うって感じ。まあ丈夫が一番、尻尾が二番って事かな。お気に入りだからね、夫殿、尻尾がさ。何気に握って離さないし。


「ええっ俺より年上? 見えないッスよ。学生っぽくはないからOLさんかなって思ってたけど、そのカッコは何か違うっぽいし」

 と、設楽君(派遣さん)。ふむふむ、そのくらいの年齢に見られるのか。三十路になりましたってくらいに見られるかと踏んでたんだけど。年下って、いやいや、いくらなんでもアラフォーに学生のノリはキツいっしょ。


「あら、嬉しい。でも…そうね、同級生かな? まだ25になったばかりだから」

 一応社会人も経験してたから、OLを装うのは楽チン。二十台半ば設定でいこう。年上過ぎてヘンに頼られたりしちゃうのは面倒だし。


「おっ、そうなの? そりゃタメかも。俺も今年25になっからさ」

「あ、じゃあ、僕は1こ下確定。今現在23だし」

 途端に親しげな口調になる設楽君(派遣さん)木村君(リーマン)も少しだけ表情を緩めてる。名前と年齢が分かれば、会話の立ち位置が決まるからね。敬語になるか丁寧語で済むか『ですます』が必要ないか。社会人の基本だね。


「えー、みんな年近くて羨ましいですぅ~」

 栗原さんが不満気に声を上げる。男に甘える、気持ち高めの鼻にかかった声。うん、さすが女子高生、いや、『なんちゃって』だけど。私の時代は『ぶりっ子』って言ったけど、今の若い子達は何て言うんだろ?

 ああ、でも世代間の共通話題は致命的かな。私ってば『なんちゃって』どころじゃなく年齢詐称してるからね。…話題に気をつけようっと。


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