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009. なんでやねん!

作中の似非関西弁はあくまで似非ですので、実在のものと一致しなくてもご了承くださいませ。

「…いきなりこんな事を言い出すのはとても馬鹿げていてイヤだけど、僕一人で思い悩む方がもっとイヤなので、言いますね」

 ホントにいきなり木村君(リーマン)が話し出した。近くに寄って来て座っている設楽君(派遣さん)と私に向かって、真剣な口調だ。


「ここって…異世界とかいうんですよね? でもって、我々は召喚された、と」

「あー、そうだろうなあ。そういう話だったし、むしろ、それ以外の説明はつかないだろ」

「ですよね。で、こういう場合ありがちな、不思議な力っていうか特殊能力が、僕にはあるみたいで…」

「えっ、なになに、面白そう。魔法使えるとか、そういうの?」

 栗原さん(偽女子高生)が木村君の言葉に興味津々で寄って来た。


「チートとかって言うんだよな、それって。むちゃくちゃ強いとか、向かうところ敵ナシとか」

「カッコいい! 勇者とか賢者とか?」

 楽しそうに会話する設楽君と栗原さん。二人を見比べて苦笑を浮かべ、私にチラリと視線を向けて口元を引き締めた。何だろう、敵対されちゃってるのか? スッと視線を設楽君に向けて木村君は口を開いた。


「オーラっていうか、靄みたいのが見える。でもってクリアな像を結ぶモノも見えたりする」

「オーラ? 何だそれ?」

「いろんな色があるんだよね? 三輪さんが言ってたよ」

 三輪さんって、友達かよっ。っていうか、オ○ラの泉? 設楽君(派遣さん)は首を傾げただけだったけど、栗原さん(偽女子高生)は食いついた。キラキラした目で木村君(リーマン)を見ている。自分のオーラを見て欲しいと言わんばかりだ。


「…栗原さんは銀色かな。ちょっと白っぽいからプラチナって云う感じ」

「プラチナ?」

「うん、何か神々しい」

「へえ~」

 機嫌よくニコニコしている栗原さんに、設楽君も気になったのか問いかける眼差しを木村君に向けた。その視線に気付いた木村君は設楽君を見てニコリと笑う。


「設楽さんは金色ですよ。濃く輝いてて、熱い感じ」

「タメ口で良いぜ、別に学校じゃねえんだから。それにしても、俺って熱血だったのかー」

 設楽君もニヤリと爽やかな風体らしからぬ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。タメ口という要望に了解と呟いた木村君が、その視線をこちらに向けた。

 あー、そういうことかー。私のオーラが何やら良からぬことになっちゃってるわけか。


「小原さんのは?」

 設楽君が無邪気に私と木村君を見比べて聞く。

 それは催促しない方向で行ってくれれば良かったんだけど。


「小原さんは…、青って云うか緑って云うか、茶色が混じって、それに白っぽいのも…」

 じっと私を見ている木村君。言葉を選びまくっている。聞こえてくる言葉からパッと閃いたイメージに私は愕然だ。だってそれって、宇宙から見た地球ってイメージじゃね? クリアに見えるってそういうコト?

 私は思わず背後を振り返った。もちろん、見えなかったけどさ。…アレ? もしかして、何かヤバい?


「ふ、複雑な感じだな」

「い、色がいろいろあって、楽しいよねー」

 選びすぎて口篭る木村君の様子に、ただならぬ何かを感じ取った設楽君と栗原さんがフォロー入れてくれる。私もその言葉尻に乗って、微妙な笑顔を浮かべて見せた。

「…わたしは見てくれなくても良いからさ」


「はい、すみません」

 謝りながらもホッとしたように息をつく木村君。私としては追及されなくて万々歳だ。

 きっと設楽君と栗原さんは聞こえてきた色合いから残念な印象を受けてフォローしてくれたんだろう。詳しく語れない木村君と、詳しく語られたくない私は、お互い大いに助かったという訳さ。



「そういえば、ずっと気になってたんですけどー」

 栗原さんが私を見ながら首を傾げる。バイト先の先輩に対するような口調にすることに決めたらしい。曖昧な丁寧語。高く甘えた響き。こういうのは無意識に作った声って云うのだろう。社会に出るとお局様にいじめられるタイプだ。

 あ、もしかして私がお局様? まさか、いじめカッコ悪い!


「その格好、コスプレとかですかあ? すっごいクォリティだけどー」

「あ、俺も気になってた。それに、その竜とか。何か慣れてるって云うか、馴染んでるって云うか…」

 そう突っ込まれたか。うーん、そうだなあ…

「実はわたしさ、もうココの住人なんだよねえ」

「え、それって…」

「あっ、もしかして、転生?」

「てんせい?」

 目を(みは)って驚いてる栗原さんに、言葉の意味を訊ねる木村君。

 なんか、この手のことに詳しいのよあたしって、ドヤ顔で栗原さんが説明し出したところによると、これぞ正しく王道異世界トリップ! だそうだ。いや、私は知ってるよ、一応。読書好きだったし、どちらかと言えばオタク入ってた系の趣味思考だったからさ。


 魔方陣による召喚。特殊能力や使命が与えられ、冒険に生き恋の花を咲かせ友情を育む。建国や救国、世界の破滅や人類の危機を救う重大任務を課せられた勇者や聖女、英雄や巫女といった存在。胸は高らかに鼓動を刻み、身体に熱き情熱が駆け巡る。


 召喚とは趣の異なった転生とは、生まれ変わりのこと。日本での記憶をバッチリ維持したまま、この世界に生まれて育つ。特殊能力や日本での技術などを駆使して、国を助けたり新しい産業を興したり、大活躍をするそうだ。


 …何て言うかさー、華々しい。ジュブナイルだねえ。


「どれもわたしに当てはまらないっていうか、無理だわー、無理無理。インドア派なのよ、わたし。基本ヒッキーでニートだったから」

 魔王城の夫殿の私室周りしか行動範囲なかったものねえ。広々してたから、体育館ひとつ分くらいのスペースはあったかも知れないけどさ。


「転生じゃないわね、確実に。気付いたらいきなりこの世界に居てね、まあ、いろいろあって、ずっと引き篭もり。たまたま旅行中だったから、今はこんな格好なんだけど」

 人界で基本的な旅装をしていた。皆の着ているセーラー服だのスーツだのとは違って、当たり前にこの世界に馴染んでいる。こうして一緒の檻に入っているとまるで案内人のように見えちゃうかもね。


 私はそれ以上聞かれても応えませんという意思を乗せた笑顔を浮かべた。



「ハイ皆ハン、チョオ良イデッカ」

 似非関西弁の神官さんが檻の入り口をガチャガチャ鳴らして、覗き込んできていた。檻も鳥車も移動中で今は競歩ってスピードだ。飛び降りることも飛び乗ることも出来る。檻の出入り口には護衛の鎧さんが立つスペースもあるくらいだからね。


「モウ直グ野営地ニ着クサカイ知ラセニヨッタンヨ。何ゾ入用ハアリマヘンカ?」

 まるっきり御用聞きの商人みたいな口調だ。


「とりあえず大丈夫だ、セツレン」

 セッツェレンツェルンという本名は限りなく発音しにくいので、設楽君はセツレンと呼ぶようにしたようだ。


「ソウデッカ? 何ゾアッタラ、遠慮ノウ言ウテヤ。…ソウソウ、ヨウヤット調整終ワッタンネン、渡シトクナ」

 檻の格子の隙間から手を差し入れ、掌を上向ける。銀色の小さいアクセサリーが五つ乗っていた。全く同じ形の小さい装飾品。促されるまま一つ指でつまみ上げる。乳白色の石が一つ嵌っていた。


「ドンナ言語モ母語ニ聞コエルッチュウ魔法具ヤ。コウ、耳ニ着ケテナ」

 神官さん(セツレン)が自分の耳を示す。集まってきていた栗原さんはじっと見つめてイヤーカフ、と呟きながら耳に装着していた。設楽君も木村君も着けてる。


 私には必要ない気がするけど、リュリュに見せたら興味深気にしていたので着けてあげた。着ける間際にこっそり術式を組みなおす。無駄な配列があったし、私とリュリュ間で使える簡易トランシーバーみたいな働きも付加する。それから私も耳に装着した。


「…どうですか? これで言葉がわかるでしょう?」

「「「なんで関西弁のまま?!」」」

 あ、そうなんだ。三人が一斉にセツレンさんに突っ込んでる。あの配列の甘さが方言になってるのかもね。私はリュリュと顔を見合わせて噴出しあった。



 ☆ ☆ ☆



 野営地で一泊して、明日にはショルユー砦に到着する予定だ。


 世界樹の砂漠で夫殿と旅してたから、野宿に違和感はない。装備もバッチリだ。ただし、準備や何やらを全て夫殿に任せていたから、野営できるか、と問われればNoだろう。


 ワイワイガヤガヤと拓けた土地で展開する鎧さんたちは、煮炊きの準備を始めたり簡易テントを張ったりしていた。私たちは檻に泊まるが出入りは自由なので食事や小用などは外に出る。小用っていうか、ぶっちゃけトイレなんだけどね、専用のテントを立てたって神官さん(セツレン)が教えに来てくれた。

 あの通訳するイヤーカフはそんなに貴重ではないけど、全員が着けてる訳じゃない。神官さんではセツレンと、もう二人が着けてて、鎧さんではシュワちゃんマッチョと細マッチョ、あと檻の護衛に立つ二人が交代で着ける事になっていた。


 そうそう、皆に不思議がられながらも、私は檻に入って直ぐ自分の身体をパタパタ叩いて、世界樹の砂漠の砂を落として集めといた。髪の間も服の下も靴の隙間も丁寧に払って、サラサラとハンカチに包んである。サイズは極小だけど、砂漠の砂は魔石として質がいいって夫殿が言ってたからね。


 イヤーカフの術式を組み替えたり、付加したりする魔力は魔石から使用した。空間に漂う精霊たちから拝借すると、ちょっと魔法の心得のある人には直ぐわかるらしいから。リュリュが風魔法を使ったのを鎧さんの一人は察知してたし。それ以後はこの世界樹の砂漠の(魔石)を使っている。淡い緑というか青い色が、使うと黒くなる。再び魔力を込めると、込めた存在の色に染まるんだって。


 ああ、リュリュは真竜とか言う部族の血筋で、精霊魔法のほとんどが使えるんだそうだ。さすが竜族。中でも得意なのが風魔法。翼のある生き物は風精霊に好かれやすいんだってさ。


 こういう魔法的なことは、息を吸うように魔法を扱う夫殿直伝だ。仕組みや説明という事は出来なくても、それを使用する時の思考回路とか感覚を肌から直接伝えられるからね。初歩的なものほど伝わりにくかったけど。


 アレだ、鼻で息をするのと口で息をするのを、どうやって切り替えるとか、どこの器官と筋肉を用いて区別するとか、明確に説明したり意識したり出来る人はちょっと居ないでしょ? せいぜい、口を開けて息を吸うとか、口を閉じて鼻で息を吸うとか、唾を飲み込むタイミングに気をつけるとか、じゃない?

 息したときに唾飲み込んじゃうと、ゲヘンゲヘン咳き込む羽目になるから、気をつけようとか、そういう思考回路と感覚。明確にさ、舌をこう動かしてとか、喉の繊毛を波立たせてとか、肺を膨らませてとか、そういうの気にしないし一々考えたりしないでしょ?

 夫殿の魔法ってそんな感じなんだ。だから息を吸うようにって例えを使ってる。当たり前に無意識に魔法を使うからこそ、魔族っていう訳。


 基本はイメージで、確実な結果を思い描いて見合う能力(ちから)を使用するって感じ。この能力(ちから)も、魔力、神力、法力、呪力などいろいろあって、さらにそれぞれ術式だの生体だの精霊だの区別が入る。ああ、説明って難しー。


 リュリュのお得意な風魔法は、精霊を媒体に魔力を使用するって感じ。魔法陣による召喚は術式メインで精霊を使って魔力を集めたって感じ。…うん、私説明頑張った。まあ、要は慣れ、かな。


 潜在能力とか才能とかは『器』である私には有余って溢れちゃうほどあるから、憶えちゃえば簡単だったし。ちょっとした練習はもちろん必要だったけどね。身体で魔法を覚えましたが、何か?



更新速度が激遅ですみません。ストック切れです。気長にお待ちいただければ嬉しいです。

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