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王道? 何それ、面白いの?  作者: 八月十五日 一二三
第1章 異世界トリップ
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001. いきなりすぎます


 私の名前は小原(おばら)美鶴(みつる)。ごく普通の典型的日本人だ。


 容貌は普通…まあ、正直言えば中の上か、上の下って所。きっちり手入れして気合をいれれば、合コンで二番人気には確実ってぐらい。誰もが振り返る美人じゃないけど、ブスって言われたことは今まで一度もない。カワイイとか美人とか、お世辞でも言われることの方が多かった。

 身長は女にしたら高めの公証165センチ…ホントは163くらい。背の順で後ろの方が定席だったのは間違いない。体型も普通…よりは少しポッチャリ系。ギリギリ標準体重だったけど胸もお尻も大きかったからね。デブとかブタって悪口はこっそり言われた感じ。


 容姿の全体的感じは、オジさまに好かれるタイプ。口を開かなきゃ美人って言う友人もいた。ホラ、社会に出れば、上司の前では楚々とするものでしょ?


 貧乏でも裕福でもなく、子供に習い事や塾に通わせる余裕くらいはある中流家庭に生まれ、小・中・高校と公立で過ごし、学力に見合った三流すれすれの私立大学の四年制でのびのび過ごした。

 大学卒業後は零細企業に飛び込みで就職し、とてもOLとは云えない事務職のイスを漫然と暖めて。こんな毎日で良いのかなあ、と三十路に入って思いながらも、自分から行動するのは面倒なので、あいかわず長いものに巻かれていたら…あれよあれよと流されて。お見合い! 結納! 寿退社! 結婚! と、怒涛の流れに乗せられちゃったのだ。それで気がつけば人妻、専業主婦。


 楽しくもなく幸せでもない日々。限りなく普通に生きてきた。こんな風に毎日が過ぎ、気がついたらおばあちゃんになっているのかあ、なんて思っていたある日。



 そう、ある日。何てことはない、特別でもなんでもないある日。目が覚めたら、異世界に居たのだ。



 明確なきっかけなど何もない。事故に遭ったわけでも、寿命が尽きたわけでも何でもなく。日常のひとコマ。夜、おやすみなさいと自分の布団に潜り込んだ。翌朝、目が覚めたら異世界だった。異世界だよ…何故?



 ☆ ☆ ☆



 詳しい過程はR18らしいので省かせていただきます。まあ、エロでグロだと思っといて間違いないでしょう。


 目覚めたのは白いふかふかのベッド。魔界の魔王城の魔王の寝室にある呆れるくらいデカいベッドの上だ。限りなくエロい起こされ方をして、際限なくグロい目に遭わされたのだ。そのベッドの主に。そう、魔王だ。俺様で鬼畜で絶対強者で支配者。


 比べて私はただのひ弱な一般主婦。エロい目に遭わされつつグロい目にも遭わされて、肉体的にも精神的にも疲弊して壊れちゃったって顛末だ。…平たく言えば強姦されて虐待されたんだよね。

 死を悟り、待ち望み、責苦からの開放に安堵しながら、臨終を迎えたはずだったんだけど、…何故か再び目覚めた。



 白いふかふかのベッド。一番最初の強烈な違和感と一筋の快感、激痛と衝撃で目覚めさせられて、ここは何処だろうと思いながらも身体に跨り蠢く男の異形な姿に異世界だと痛感させられた、アレと同じ場所。

 徹底的に崩壊していた精神が立て直されて、自我の殻に閉じこもっていた私が外に目を向け認識した場所。

 ふと気付くと、甲斐がいしく私の面倒を看る魔王サマが目の前にいた。別人かと思うほどの変容ぶりに、つい流されるまま世話をされてたけど、魔王と気付いて驚愕に固まった。


 私の視線がしっかり自分を捉えてるのに気付いた魔王は素早かった。一瞬をも無駄にせず、…押しの一手だ。いや、もう、怒涛のごとくな求愛に次ぐ求愛に、唖然としていれば、求婚も飛び出して、果ては婚姻契約だとか何とか魔術的な契約ごとまで請う始末。


 アンタ、誰? っていうか、ホント何のつもり? 私を完膚なきまでに叩きのめした張本人だろう、と魔王の言葉を紡ぐ口元を見つめて考えていれば、みるみる消沈する気配に憔悴の表情。ゆらりと揺れる金色の瞳に、パニックになっていた私は意識を飛ばしてしまった。だって、あの恐怖の権化の魔王が、あんな表情するなんて。見間違いっていうか、再び別の世界に飛ばされたって言われたほうが納得するってものだ。


 けっきょく、別世界なんて事はなく。魔王サマは私が目覚めるたびにいそいそと甲斐がいしく世話をして、愛を囁き擦り寄ってくる。


 実は魔王と私は触れ合う肌から直接記憶と思考を交わす事が出来た。それもあって苛烈で執拗な責苦を…ああ、うん、思い出すと悪夢を見るくらいのトラウマになってるから、この辺は割愛。私が悪夢を見ると、私を抱いて寝てる夫殿も慙愧の念に苛まれるらしいからね。気をつけないと。

 記憶と思考は交わせても感情はやり取りできない。でも真偽の程は明確に伝わるから、魔王の言葉に嘘がないのは分かっていた。押しの一手の求愛が、愛の言葉に終始するようになったのは、私の記憶の中で魔王が恐怖の対象でしかないと痛感したからだろう。


 愛してくれなくてもいいから側に居て欲しいと、恐怖でしかなくてもその瞳に映して欲しいと、拒絶の言葉でもいいから声を聞かせて欲しいと、…涙ぐましいまでの心情。


 結果的には、…はい~、根負けして絆されました。流されやすい性格なのだよ。


 嫌いじゃないよと、怖くないとは言えないけど慣れるよと、私がぼそぼそと答えたときの魔王サマは、すごかった。今でもときどきからかうくらい、…すごかった。

 一言で言えばカワイイって感じだけど、私以外には通用しない表現らしい。尻尾をブンブン振ってるワンコの幻影が見える感じだよ、と魔王の部下たちに説明したんだけど、分かってもらえなかった、…というか引かれた。




 さてさて、そんなわけで私は魔王サマと結ばれたわけだ。


 この辺の物語を詳しく語るのが正統派の異世界恋愛物語ってところかも知れないが、私には無理だ。というか、無謀だ。R18だし、エロだしグロだし、鬼畜で犯罪だ。よくよく考えれば会話もあまりない気がするし。いや、言葉は手を繋げば通じてたから、特に会話らしい会話も交わさなかったかもだし。何より面倒だ。


 とは言え、それでは物語としては成り立たないので、説明は続けるね。うん、努力は認めて。



 OKの返事をした途端、魔王は私と繋いでいた掌を取り上げガブリと中指を口に含んだ。左手の中指が彼の口の中で舌と牙に触れる。ギョッとする間もなくガリッと付け根に牙が立てられ長い舌が溢れる血を舐め取っていた。

 私の口元に彼は掌を押し付けてくる。その明確な意図に目を瞠って魔王の顔を見つめて、心で伝えた上に首を横に振って言葉を口にした。


「無理」


 喉に爪が刺さるし、何より血を流すほど噛み付く何て無理。と続けて思ったのが伝わったのか、彼は咥えていた私の指を離し、自らの指を咥えて牙を立てた。滴る自分の血を私の唇に塗り、口に含むように促してくる。

 これが何かの儀式なのは触れ合う肌から伝えられていたので、私は促されるまま彼の手を片手で支えつつ指の付け根に吸い付き傷に舌を這わせた。コクリと血を飲み込むと口元から掌が離れ、血の滲む指どおしを合わせるように手を繋ぎ、同時に口付けられる。


 魔王の舌が長いのは言ったかな? 瞳の形や身体に散る鱗から爬虫類っぽいから当然かと思っていたけど、冷血で冷たいという感触はなく、口腔内は熱い。舌先も二股に先割れしているわけじゃないけど、鋭くとがった印象だ。彼は私の舌は丸くて短いって言うくらいだからね、彼の舌は尖ってて長いのだ。

 その舌が合わさった唇の隙間からぬるりと入ってくる。


 うん、ベロちゅーね。


 儀式的な意味で血を交わらせるって感じなので、血を含んでいたお互いの唾液を交換し合う。その舌の動きに性的な感触を覚えた瞬間、私の恐怖の記憶がよみがえる。ハッと身体を強張らせた私から、ゆっくり唇を離すと繋いでいた掌を口元に引き寄せて、彼は指の付け根に口付けた。


 指の付け根にはいつの間にか指輪が嵌っていた。幅広で平べったいタイプ。真紅の石が長方形な感じで手の甲側と平側に嵌っている。魔王の指にも全く同じデザインで少々ゴツい指輪が嵌っていた。私の指輪は金っぽい色で、彼のは白金って感じだ。肌の色に合わせた仕様らしい。


 この指輪は婚姻契約の証しで、正式に配偶者であるという証明だそうだ。真紅の石は指輪の裏から皮膚に食い込んでいて極少量ずつ血を吸っている。お互いの居場所が分かる仕組みになっていて生死も分かるとのこと。GPSか。ちなみに外せない。金属アレルギーの気が少しあるんだけど、どうも隙間もなく嵌っててすでに皮膚の一部のような感触だ。アレだ、すごいな魔法。伸縮も自在らしい。




 ところで、魔界には瘴気というもので満たされているらしい。


 …いい加減、らしいとか、ようだとか、そうだとか、仮定・伝聞・推定のオンパレードは省いてもいいかな。でも、形容動詞、大事か。不確実な断定。…まあ、追々ね。


 ああ、ここで呼び方についてのひとくさり。


 私の名前は、この世界ではミッツー・ルォーバ・ラーと発音される。ちなみに旧姓表記です。ぶっちゃけ元夫の、新しい苗字には慣れる暇がなかったのさ。小原(オバラ)は発音されにくい上に『ルォーバ』という発音の言葉が存在していて、色味が濃いって意味なのだ。私の髪と目の色を目にした人はたいてい納得したように肯いていく。まあ、ミッツーじゃなくてミツだろってツッコみは心の中だけにしまっているし。

 夫殿は私のことを大抵『お前』と呼ぶ。『奥方』と気取って呼ぶときもある。『ミッツー』と名を呼ぶのは二人きりとか親密な時だ。夫殿は『ミツゥル』とこっそり囁いてくれたりするけどね。


 私は夫殿のことを大抵いつも『夫殿』と呼ぶ。ムカついたりキレると『アンタ』になる。魔王の名前はそれだけで強力な呪符なので、力無き者には大変危険で名を呼ぶ者などほとんど居ない。婚姻契約を結んでいる私は夫殿の真名を含めて全ての名前を知っているけど、それでも滅多に呼ばないのだ。心裡で長い名前をズラズラ思い浮かべるだけで、触れ合う肌から伝わる夫殿が嬉しそうな表情をするので、それで充分だし。

 ただ、呼び名として『キア』と呼ぶときがある。まあ、ベッドの中くらいだけど。彼の名前の一部でもあり『誰』って意味だよって教えれば、その匿名性が気に入られた。…元ネタを知る人は通だね。



 それで、瘴気の話だけど。この瘴気は魔族以外には猛毒だ。通常人間が魔界に来ると、3日で精神に異常を来たし、5日に内臓から腐敗し始め、どんなに頑強な者でも10日で死亡する。腐って溶けるか、弾け飛ぶの、どちらかの末路を辿る。これを防ぐには魔族と契約する必要があって、契約には所有や隷属・主従・婚姻などの様々な種類がある。


 私はこの婚姻契約によって無事に生き延びているのかと思えば、どうも違うと教えられた。結論から言えば私は生粋の人間ではなく、元人間って感じに再構築されたみたい。もちろん魔王に。一瞬怒りを感じるものの、契約しなければ死ぬぞって脅すために人間のままにしといた方が得なのに、わざわざ細心の注意を払って繊細な術を練り上げて私の心身を作り上げたと知れば怒りも引いた。


 こいつどれだけ私が好きなんだ、とまじまじと見つめれば両脇に手を添えられて持ち上げられる。高い高いだ。そのままぎゅむっと胸に押し付けられて両腕で囲むように抱きこまれて、頭にすりすり懐いてくる魔王サマに、すっかり脱力気分で身体の力を抜いて身を預けた。




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